── ムーンライダーズ約3年ぶりの新作
『Tokyo7』は、
どういったアルバムなんでしょうか?
鈴木 はい。‥‥えー、通常、アルバムを作る場合、
最後、エンジニアが仕上げた音を
メンバー全員で聴いて、チェックするんです。

で、そこに
最終的な修正を入れていくんですけどね。
── ええ、ええ。
鈴木 このアルバムは、それをやってないんだな。
── と、いいますと?
鈴木 インターネットの上で音をやり取りして、
最後までつくっちゃう。

それを、はじめてやったアルバムです。
── はー、すごい。
鈴木 このために、メンバーがスタジオに集まって
最終チェックすることがなくなった。

だから、
それぞれの曲は、その曲を作った担当者が
エンジニアとやりとりをして仕上げていくので、
アルバムの全体像が
最後まで、よく見えてこなかったんですよ。

実際、最終的にすべての曲を聴いたのは、
曲順も決めちゃったあとだったし。
── 不安とかは、なかったんですか?
鈴木 いやそれが、おもしろかった。

しかも、聴いてみるとやけに新鮮だったんだよね。

自分たち自身で
「うーん、これって
 60前後の人たちの音じゃないよね」という
感想を持った‥‥というか。
── ほほー‥‥。
鈴木 まあ、それが「売り」ではないんですけど、
瑞々しいというか、青臭いというか、
そんな感じが出てるアルバムだと思います。
── なるほど。
鈴木 ぼくらは、30年以上バンドやっているし、
歳も60に近くなったりしてる。

でも、「円熟」という言葉があるけれど、
「そこからは‥‥程遠いなぁ」って、そんな気がした。
音を聴いてて、われながら(笑)。
── このアルバム、「若々しい」と思いました。
すごく「よいポップ」と言いますか‥‥。

表現がピントはずれでしたら、すみません。
鈴木 あはは。
── 東京でのライブも拝見したんですけど、
ムーンライダーズって
やっぱり、今も「ロック少年」やってるんだって、
改めて、そういう感想を持ちましたです。
鈴木 円熟からは程遠く、はじめに着地点を決めない。

これが、まあ、
この「ムーンライダーズ」というバンドの
ひとつの特徴なんですよ。

青写真はない。途中で決めていく。場当たり主義。

まぁ、僕らの場合は、そんなようなことで
1枚のアルバムができていくんだ(笑)。
── 以前からよく言われることかもしれませんが、
今回作でも「6つの個性」が、
それぞれの「光りかた」をしていますよね。
鈴木 あのー‥‥自分でも驚いたんですよね、
いまの時期になっても
こういうアルバム、こういうサウンドができたことに。
── 驚き、ですか。
鈴木 どういうことかというとね、
「ああ、この人はこういう考えを持っていたのか」
というような
「自分たちについての新発見」が
レコーディングを通じて、
いまだに、たくさんあったということなんだな。
── 30年以上、やってるのに。
鈴木 たとえば、こういうサウンドはやめたほうがいい、
こういうサウンドがいいよ‥‥という、その判断ね。

個々人のその判断が、いまだ新鮮に映る。

そして
「だからこそ、このバンドを続けてるんだな」と思った。
── なるほど。
鈴木 このアルバムは、自分自身よく聴いてるんですよ。
── そうですか。
鈴木 ふつう、アルバムを1枚作るとなると、
その間に何度も聴くわけでしょ。

人の曲も、自分の曲も。

だからもう、できあがるころには
もう飽き飽きしてて‥‥ってのも変だけどさ(笑)、
あまり聴かないの、できあがっちゃうと。
── そんなものですか。
鈴木 でも、このアルバムは、
はじめに言ったような成り立ちだったこともあって、
できあがってからも
よーく聴いたし‥‥まだ、聴いてるよね。
── ふん、ふん。
鈴木 時間も「いい長さ」なんだな、これが。
トータルで1時間ないくらいでさ。
── それくらいがベストなんですか?
鈴木 アナログレコードの時代は、
片面で20分ぐらいしか入らなかったんだよね。

つまり、両面で40分ぐらいなんです。
長くても50分。

これくらいがね、やっぱり、
音楽が人体に及ぼす影響としてちょうどいいんだ。
── ほー‥‥。
鈴木 いや、科学的な根拠とか、しらないよ?(笑)

でもさ、今のCDだと70分以上は入るけど、
それだと
最初から最後まで通して聴くのは大変でしょ。

1枚を通して、ここちよく聴き終われる。
長さを含めて、
そういうアルバムに、なったと思います。
── ちなみに、タイトルの『Tokyo7』というのは?
鈴木 もともとは、
メーリングリストのタイトルだったの、ぼくらの。
── あ、そうなんですか。
鈴木 ぼくら6人とマネージャーをあわせて、
7人のメーリングリストね。

でもね、今思うと
あたかも「7人目のメンバー」がいたかのような
作品になりましたですね。
── と、いいますと?
鈴木 ぼくら6人は、聴いてる音楽も違うし、
だから作る音楽も、それぞれ違うんです。
── はい。
鈴木 それぞれ、ソロでライブをやったり、
アルバムを出したり、
CM音楽なんかのプロジェクトをやったりしてる。

だけど、その6人が
「ムーンライダーズのためにデモテープを作ってくる」
となると‥‥、
「ムーンライダーズ的」になってくるんだなぁ。
── ‥‥ふしぎですね。
鈴木 だから、7人目の「見張り役」みたいな人が
空中にいるんだと思うんです。

で、僕らは、その人に聴かせようとしてるんだな。
── ははー‥‥「7人目のムーンライダーズ」に。
鈴木 そう、で、その「7人目の見張り役」は、
ファンのみなさんかもしれないし、
制作スタッフかもしれないし、
音楽評論家のかたがたかもしれない。

あるいは、ぼくらを取り巻く、そういう人たちが
ひとつに集まった実体のない存在かもしれない。

でも、それが誰であれね‥‥。
── はい。
鈴木 そういう「7人目のムーンライダーズ」に向けて
作ったアルバム‥‥なのかもしれない。

この『Tokyo7』は。
(2009.12.1 東京・青山にて)
『Tokyo7』Moonriders

01 タブラ・ラサ 〜 when rock was young 〜
02 SO RE ZO RE
03 I hate you and I love you
04 笑門来福?
05 Rainbow Zombie Blues
06 Small Box
07 ケンタウルスの海
08 むすんでひらいて手を打とう
09 夕暮れのUFO、夜明けのJET、真昼のバタフライ
10 本当におしまいの話
11 パラダイスあたりの信号で
12 旅のYokan
13 6つの来し方行く末