2012年秋に、いちどおじゃました櫻井義浩さんのアトリエ
ふたたび、おじゃましてきました。

「hobonichi + a.」では
すっかり「革のトートバッグ」の人になっている
櫻井さんですが、本業は「entoan(エントアン)」という
ブランドをもつ、靴の職人です。
2013年は、前半の展示会をおやすみして、
あたらしい靴の制作に打ち込んでいたそう。
その新作を見せていただきました。
わあ、とてもかっこいいです。
これは‥‥メンズですか?



「いえ、メンズっぽいスタイルですが、
 レディースなんです」

そうでした、櫻井さん、基本的に、
レディースの靴をつくる方でした。
あえてマニッシュな印象の、
かっちりした、かっこいい婦人靴。
それが「entoan(エントアン)」の特徴のひとつです。
(3型のみ、メンズも手がけています。)

ほかにも‥‥あれ? あそこにかかっているのは、
今回とはまたちがうデザインの革のバッグですね。



「はい、あれは持ち手がないバッグで、
 ベルトの長さを変えることで
 ショルダーにもなり、手提げにもなる、
 そういうデザインなんです」



こちらは、パートナーである
富澤智晶(とみざわ ちあき)さんの発想。
「じぶんのほしいもの」というコンセプトで
つくってみたそうです。
あえて、革の裏面を表に出したことと、
おおきなジッパーつきポケットが
アクセントになっています。



「それから、下駄箱をつくったんですよ」



下駄箱! しかも、そうとう大きな下駄箱です。
桐でつくられていて、1段ずつが分かれ、
スタッキングできるようになっています。



「ここが下駄の収納部分」



わ、ほんとうに「下駄」が入っている。

「それからいちばん下に椅子、
 いちばん上に作業台。
 メンテナンスの道具を収納しておいて、
 靴磨きや手入れが
 すぐにできるようになっているんです」



しかも、オリジナルの真鍮の鍵までついています。
これは、いたずらに数を格納するための下駄箱ではなく、
大事な靴や履き物を入れる、
宝石箱のような箱なんですね。



「ありがとうございます。
 僕、靴だけじゃなくて、
 玄関にかかわること、
 ぜんぶやりたいんです」

それでも、いまは、富澤さんとふたりで
「できる範囲の仕事」だけをしているという櫻井さん。
やりたいことはいっぱいあるけれど、
外部の工場に依頼してまで
生産数をふやすことは、
いまのところ、考えていないそうです。



「将来、スタッフが増えるようなことがあれば
 また楽しいことがたくさん
 できるようになるかもしれないですけれど」

その仕事のスタイル、
どこかのだれかに似ているなあ、
と思ったら、そうそう、
アンリ・ベグランさんの工房のスタイル
とても近い感じがします。
信頼できる少数の職人さんといっしょに、
アンリさん自身も職人のひとりとして
自分のつくりたいものをつくっています。

‥‥というお話をしたところ、
櫻井さんの表情がちょっとかわりました。

「アンリさん‥‥メッチャね、かわいいですよね。
 ほんとうに、好きなんです。
 だから、あんまり、
 アンリさんのお店に行きたくないんです。
 やっぱり、手仕事を
 きっちりやってらっしゃるなっていうのが
 製品からわかりますし。
 アンリさんには、嫉妬をしてしまう自分がいるので、
 なるべくお店には行かないようにしているんです。
 大好きなんですけれど」



革職人の大先輩であり、憧れでもあり、
そして嫉妬の対象でもある!!
もちろん、ものづくりに対する姿勢という点でも、
アンリさんは櫻井さんの目標でもあります。

「以前、デザインした靴で、
 展示会にまで出したのに、
 ボツにしたものがあるんです。
 それは、自分がデザインしたものに思えなかったから。
 その頃、自分らしいデザインって、何だろう?
 と、悩んでいた時期だったんですね。
 でも、いまは、気持ちとしては
 だいぶ整理できるようになりました。
 もちろんアンリさんのようには
 まだまだ、ですけれど」

櫻井さんのものづくり、ますますたのしみです。
どうもありがとうございました!

2013-09-19-THU
とじる