「ほぼ日」の「hobonichi + a.」は、
今シーズン、2022の春夏で、全ラインナップの
新作の発表・販売を終了することになりました。

おおもとであるイオグラフィックでも、
大橋歩さんが始めた洋服のブランド「a.」が終了。

2011年、ブランド立ち上げ当初は世の中に少なかった
「年齢や体型を気にせず着ることができる、
大人の女性のためのおしゃれな服」は、
たくさんの素敵な服がつくられるようになった今、
ひとつの役割を終えたと考え、
今回の決断にいたったといいます。

「a.」の母体である「イオグラフィック」のみなさん
(代表の石井大介さん、大橋さんと一緒に服作りをしてきた
スタッフの高橋ひとみさん、横山明日美さん、
藤中恵さん)に、お話をうかがいました。

  • 石井大介さん

    石井大介さん

  • 高橋ひとみさん

    高橋ひとみさん

  • 横山明日美さん

    横山明日美さん

  • 藤中恵さん

    藤中恵さん

「a.」から始まった、
大人のおしゃれな服

石井
今回、こういう決断にいたったのは、
大橋が昨年「イオグラフィック」を退社、
独立をしたからではなく、
「a.」の最初から、生産管理や進行、
デザインに携わってきたスタッフの不在や、
各自の「次のステップに進みたい」という考え、
いろいろな要素をふくんでのことなんです。
できることなら私たちスタッフで継続をしたいと
考えていたのですけれども。
横山
そうなんです。いろいろな要素を考えて、
私たちで継続をしていくのは難しいと考え
このタイミングで、
ブランドのお取引を終了させていただくことが、
一番キリがよくて、
いままでお世話になった方々にも
迷惑がかからない形かなと考えました。
それがたまたま、大橋がデザインした
最後のシーズンと重なりました。
──
ブランドを立ち上げた2011年頃というのは、
大人の女性のためのおしゃれな服が少なかった。
年齢とともに体型が変化しても、
おしゃれをしたいという気持ちは変わらないのに、
そんな自分たちに合う服を、と、
ブランドを始められたんですよね。
2011年6月に、「a.」を立ち上げた頃の
大橋さんとの座談会
を掲載しています。
横山
はい、そうでしたね。
──
『anan』の最初の読者の世代が年を重ねて、
体形も変わってきたし、時代も変わって、
おしゃれはしたいのに着る服がない。
そこで大橋さんが立ち上がった、っていうのが、
最初のきっかけだったんですよね。
そしてこの10年の間に、そういう服が広まってくれた。
それが、安心してブランドを閉じることができる
理由にもなったんだろうなと想像しています。
「a.」ってやっぱりこの10年、
すごく役割を果たしたような気がしますね。
横山
そうですね。私たちの役目っていいますか、
それをきちんと果たすことができたんだろうな、
と考えています。

独特なデザインが「a.」の魅力。

──
高橋さんは、お客さんだった時代から
関わってらっしゃるとききました。
この10年、なにか変化を感じましたか?
高橋
私、イオグラフィックに入る前は、
大橋さんのいちファンで、
「a.」の立ち上がりの時にも
展示会に呼んでいただいたんです。
「大橋さんが洋服を作るってどんな感じなんだろう」
という興味が、とても強かった。
ふだん、モード系を着ているイメージがあったので、
思いっきりそういうものを作られるのかと思ったら、
すごく意外で、うれしい驚きだったのを覚えています。
当時「え? こんなに大きいの?」って、まず感じ、
でも、着てみると、ゆったりしているのに、
体の線に合って、いい雰囲気になる。
たしかに、あの頃は、
ゆったりでおしゃれ、という服って
あんまりなかったんですよ。
──
実際、ほぼ日の他のブランドも、ゆったりした、
年齢を問わない、体形を問わないっていうものが、
本当に増えています。
今は、もう主流といってもいいくらいです。
高橋
その後入社して、9年くらい接客をしてきましたが、
お客様はほんとにいろんな年齢層で、
60、70くらいの方から、その娘さんたちとか、
すごく多くいらっしゃっていただいて。
そのうち、「大人のおしゃれ」っていう言葉も、
世の中で、目立つようになってきたんですよね。
──
大橋さんが編集されていた季刊誌のタイトルが、
まさに『大人のおしゃれ』で、
2010年の9月に創刊されているんですよね。
高橋
大人が着る普段の服っていうテーマって、
その頃は、ありませんでした。
50代、60代、それより上の世代も、
ちょっとおしゃれに着られる普段の服。
──
すごいですね。
大橋さんの先見の明ですね。
高橋
そうですよね! 
それからだんだん、世の中にもたくさん
大人が着る普段の服っていうテーマのものが
多くなってきたなっていう感じは
すごくしていました。
──
いろんな意味で大人になったからこそ楽しいと、
そんな提案が増えましたね。
いいことですよね。
高橋
そうですね。
それより前に『アルネ』があったんです。
──
大橋さんが、企画から取材、写真、編集まで
全部ひとりで作ってた
んですよね。
2002年から2009年まで。
高橋
大橋さんの親しい人とか、気になる人を取材されて、
その方たちの服とか生活とかを取り上げて。
まだ、大人のおしゃれっていうものが注目されてない、
そういう時代に先駆けて。
今はもう、当たり前みたいになってますけど。
藤中
私もファンから始まった一人なんです。
『アルネ』が終わったときも、
『大人のおしゃれ』が終わったときも、
もう愕然としたんです。
こんなにいい本が終わってしまうのか、っていう
衝撃があったんです。
──
そうですね。
スパッと。
藤中
「a.」がクローズするにあたって、
お客様にもそういう感じが
あるんじゃないでしょうか。
「a.」は、洋服の中に、
大橋さんの世界観があるんですよね。
大人でも丸襟をかわいらしく着るとか、
ドットの着こなし方なんかもそうですし、
定番的なボトム、バルーンパンツやボールパンツなども、
「a.」にしか出せないデザインワークだと思うんです。
この前も生地とかサンプルでお世話になってる業者さんが、
やっぱり「a.」って独特なデザイン性がありますよね、
っていう話をしてくださいました。
そういうテイストを10年続けられたのも、
「a.」を愛してくださっているお客様が
たくさんいらっしゃったからなんだ、と思っています。

ほぼ日とのコラボで、広がりも。

横山
私も、お客様にはすごく感謝しています。
私は主に「aa.」(ダブルエードット)の
服作りに携わってきて、
私たちスタッフでデザインし始めた20年秋冬以降も
「ほぼ日」さんでも取り扱っていただいたことで、
あたらしい、たくさんのお客様にご愛顧いただいて。
高橋
イオグラフィックとは違う表現で
写真やページデザインをしてくださって。
「ほぼ日で見たけれど、着てみたいから」と
ショップにいらっしゃるお客様も多かったんですよ。
──
イオショップの実店舗と、ネットのほぼ日ストア、
両方、いいところがあったんですね。
横山
「ほぼ日」さんのお客様の層と、
イオグラフィックのお客様の層って
重なるようでいて重ならないところがあったり、
あるいは「ほぼ日」さんから
うちのブランドを知ったという方も
たくさんいらっしゃいました。
ほぼ日さんで購入された方で、
親子で着てらっしゃるとかって聞いたりすると、
すごいうれしくて、ありがたくて。
やりがいをすごく感じていました。
高橋
あらためて「a.」って
「ほぼ日」のみなさんと
いっしょにやってきた服作りだったと思います。
──
いえ、そんなことないです(笑)、
いいデザインの服があって、
それを私たちは扱わせていただいただけで‥‥。
でも不思議と、一緒にやってきたという
チーム感は、すごく、持っていました。
横山
ブランドはいったん終了となるんですけども、
大橋さんも、私たちも作ってきた服っていうのは、
時代や年齢や、体形とかに左右されないような
そういう服だと思っているんです。
ですからいままで購入された方も、
これから22年春夏の服を購入いただく方も、
この先もご愛用いただけたら、すごくうれしいです。
お客様には本当に感謝しています。
──
「ほぼ日」での販売はこれで区切りですけれど、
イオグラフィックでは、なんらかのかたちで、
続けられるんですか?
石井
じつは、この3人でつくった次のシーズンの「aa.」、
今、サンプルまでできてるんです。
横山
次の秋冬のものですね。
石井
それは大橋の息のかかっていないものですね。
それを、お店と、うちのネットだけで
少量生産、少量販売でやっていこうかな、と。
卸しはせずに、ということですね。
ただ、どのくらいの数を作れるのかも、
ちょっとわからない状態で、
できる範囲の中でと思っています。
──
「a.」のエッセンスを継承したラインが、
数は少しかもしれないけれど、
イオグラフィックのショップとオンラインで
展開していく方向ということですね。
藤中
はい、「a.」はクローズしますけれども、
大橋さんがつくってきた世界観、
私たちはとっても好きなので、
そこを大切にしつつ、
どれだけできるかわかりませんが、
ちょっとでも継いでいけたらいいなと思っています。
──
素晴らしい。楽しみです。
高橋
「a.」「aa.」を楽しみにしていただくお客様を拝見して、
私たちが励みになりました。
本当にありがとうございました。
イオグラフィックとしての洋服の販売は縮小になりますが、
「a.」「aa.」のアーカイブは展開していき、
これからの春夏と共に
次の秋冬もご覧いただけたら嬉しいです。

これからは、
彫刻のギャラリーとしても。

──
イオグラフィックのこれから、
イオショップ&ギャラリーのこれからは、
どうなるんですか?
石井
ショップは、まだ決まっている話ではないんですけど、
洋服のほうを小さくするにあたって、
お店のスペースを有効活用したいなと。
父が彫刻をやってまして。
──
石井厚生さんですね。存じ上げております。
石井
倉庫に彫刻がいっぱいあるんですよ。
それを見てもらいたいなという気持ちがあります。
それと、今、うちで販売をさせていただいている
小鉢公史さんっていう木彫の作家さんのアート作品も
ぜひ飾って見ていただければなと。
──
お店には、カッティングボードとか、
いわゆるキッチン用品
を置いてましたよね。
石井
そうなんです。
生活用品だけじゃなく、
小鉢さんは、素晴らしい藝術作品を作る彫刻家なんですよ。
彫刻って、銀座とかのギャラリーですと、
やはりその筋の人たちは見にこられますけど、
普通の家庭の方が身近に感じる場面って、
なかなかないと思うんですよね。
そういう、全く美術に興味がない方にも見ていただいて、
生活の中に、何か喜びとか、楽しみみたいなものを、
駒沢から発信できたらおもしろいなと。
彫刻の方って、新作を発表したあと、
あまり日の目を浴びないというか‥‥。
──
じゃあ、ギャラリーは継続で、よりアートに、
とくに立体造形に特化したギャラリーに
なっていくかもしれない、ということですね。
石井
そうですね。そうしたいなと思ってます。
そのなかで、生活と密着した彫刻、
たとえばご自宅の入口にポツンと置けるようなものを
ご提供できたらうれしいなと思っています。
いずれは、日本人のいろんな方の彫刻をもっと広めて、
それこそ国内だけじゃなくて、海外にも。
ネットでも、日本人の彫刻をちゃんと見せるサイトが
今、あまり見受けられないんですよね。
そういうこともアーティストと一緒にやっていく、
そんなかたちができればって思っています。

イオグラフィックも、
スタッフが入れ替わったり
いろいろと変わっていく感じには
なると思うんですけれど。
またなにかご報告できるようなことがあれば。
──
ぜひ、よろしくお願いします。
「a.」については名残惜しいですけれど、
ひと区切り、ということになりますね。
この10年、楽しかったです。
ありがとうございました。
横山
はい。ほんとに。
ありがとうございました。
高橋・藤中
お世話になりました。
──
でもまだ、ラストシーズン、
春夏の販売はこれからです。
すごく、かわいい写真が撮れたんですよ、
読者のみなさんとともに、
たのしみになさっていてください。
そして、アーカイブの在庫があるうちは、
「ほぼ日ストア」の「hobonichi + a.」のページでは
販売を続けていこうと思っています。
どうぞ、よろしくおねがいします。

2022-02-25-FRI