2012年11月5日、正午。 「ほぼ日刊イトイ新聞」のミーティングルームに、 三國さんが、持参した「それ」をテーブルの上に広げます。 |
|
三國 | まだ、ボタンがついていないんです。 |
糸井 | ‥‥いろいろな感想がわきあがってきますが、 まずはとりあえず、 カーディガンにしてよかったですよね。 |
三國 | そう思います。 |
御手洗 | ずっとセーターをつくるつもりだったのに、 最終的にはカーディガンに。 やはり、日常的に着やすいですよね。 室内ではさっと脱ぐこともできるし。 |
三國 | ええ。 |
糸井 | それにしても‥‥‥いやぁ‥‥。 |
御手洗 | これが「気仙沼ニッティング」の、 ファーストモデルなんですね‥‥。 |
糸井 | 堂々としています。 よく、そのブランドを象徴するようなお店のことを 「旗艦店」といいますけど、 これは「旗」ですね。 ほんとに‥‥すばらしい旗ができたと思います。 |
三國 | そうおっしゃっていただけると。 |
御手洗 | 柄がこんなにくっきりしてるのに、 かたくなくて、しっとりした手触りなんですね。 |
三國 | それは、毛糸のおかげです。 |
糸井 | わざわざ毛糸からつくったのは、よかったですか。 |
三國 | よかったです。とてもよかった。 |
御手洗 | 柄は、基本的にアランの伝統柄で。 |
三國 | そうですね。 今回、わたしが自分でつくったのはこの柄だけなんです。 |
御手洗 | へえー、そうなんですか。 |
三國 | ツリー・オブ・ライフという柄があるのですが、 それをちょっと太めにアレンジしたものです。 ですから、もしかしたらわたしが知らないだけで、 どこかですでに存在している柄かもしれませんが。 |
御手洗 | なるほど‥‥。 そのツリー・オブ・ライフという柄の名前は、 アラン諸島に行ったときに覚えました。 |
三國 | なぜかね、気仙沼の何かをつくるときに、 この柄が出てくるんですよ。 「IPPO」のときもそうでした。 |
▲気仙沼でのワークショップ用に三國さんがデザインしたミトン、「IPPO」 |
|
御手洗 | ほんとだ‥‥。 サンマの骨のようにも見えるし気仙沼の大きな樹にも。 |
三國 | なんででしょうね、たまたまかもしれませんけど、 この柄が出てくるんです。 ‥‥たまちゃん、着てみない? |
御手洗 | え? わたくしがですか。 なんか、そんな‥‥。 |
三國 | いいから、はい(歩み寄ってカーディガンを着せる)。 |
御手洗 | わぁ‥‥。 |
三國 | 男性のMサイズでつくったので、大きめだけど。 |
御手洗 | そんなに重くなくて‥‥肌ざわりが、もう‥‥。 |
糸井 | いいね。 似合います、ほんとに。 |
御手洗 | ‥‥ありがとうございました。 (カーディガンを脱いで、そっとテーブルに置く) はあーー、緊張した(笑)。 |
糸井 | だろうね(笑)。 いま御手洗さんが取り組んでいることの、 これはすべての中心なわけだから。 |
三國 | よかったです、たまちゃんにも気に入ってもらえて。 |
糸井 | 「なにが」、なんでしょう? いろいろあるアランセーターのなかで、 ちょっとした違いで ここまでかっこよくなってしまうものの正体は、なに? なにが、そうさせているんでしょう。 |
三國 | うーーん‥‥。 編みものって、ほんとに、 ひと目ひと目がたくさん集まったものなので‥‥。 |
糸井 | なにが、とは言えない。 |
三國 | ひとつひとつの工夫を言うことはできるんです。 でも、それがあったから こういうカーディガンになっているのかというと‥‥ よくわからなかったりします。 |
糸井 | 編みはじめるときには、 なにかのイメージがあるからはじめられるわけですよね。 |
三國 | そうですね‥‥ある程度は。 でもやっぱり、編みながらかもしれません。 編みながらじゃないと‥‥なんて言えばいいんだろう‥‥ 行き詰まったときに立ち止まれないんですよ。 編みながらデザインをしないと、 どこかで破綻が出ても、わからないまま終えてしまう。 だからわりと、いちいちなんです。 編みながら、いちいち、ここを何段ほどいてとか、 そんなことのくり返しで。 |
糸井 | それ、文章の話と同じですね。 |
三國 | 文章もそうなんですか。 |
御手洗 | 似ていると思います。 編みものも文章も、「線」でしか進まない。 「面」で進むことはないですよね。 |
糸井 | そうですね、面で進まない。 絵だったら、面で色を塗れたりするけど。 編みものと文章は、 線で進んで「あれちがうぞ?」と、もどったりできる。 |
三國 | ええ。 |
糸井 | なるほど‥‥ 三國さんは編みながら、 イメージができていくんですね。 |
三國 | ある程度は、最初にあるんですよ。 今回の場合だと、 クラシックな感じにしたいとか、そのくらいは。 |
糸井 | 軽いビジョンが。 |
三國 | はい。 クラシックなアランセーターというのは、 これでもかというくらい、 たくさんのケーブル柄が並んでいるんですね。 そうなると、とりとめがなく見えちゃう。 なので、なるべく柄の種類はすくなくしようと、 それは最初から思っていました。 |
御手洗 | 三國さんのこのカーディガンは、 絵に例えると白地の部分がけっこう多いような、 そんな印象があります。 |
三國 | アランのものをデザインするときって、 つい、ここも柄で埋めなきゃって 思ってしまいがちなんですね。 |
御手洗 | ああー。 |
三國 | ぜんぶ埋めることを目的にデザインをすると、 どこ見ていいのかわからないような そんなものになってしまう気がするんです。 ですからわたしの場合は、 見てほしいところを、ぱんと、こう、 ぺらっと置いていくように‥‥。 |
糸井 | ますます文章の話をしているみたいですね。 「どうしてこう書いたんですか?」 ときかれても説明できない。 でも、わかってることなんです、書いているときには。 |
三國 | 編みながら、なんです。 どういうふうにデザインするかということに関して、 わたしはもう、 「自分の目が気持ちいいと言っているかどうか」 ということに尽きてしまって‥‥。 それだけなんです。 |
糸井 | はい。 |
三國 | あとは、このカーディガンについては、 よく寝て食べて、機嫌よくつくった ということなら言えると思います。 |
糸井 | いいなぁ(笑)、 カーディガンにそれがあらわれていますよ。 |
御手洗 | ほんとうに。 |
糸井 | しかしまぁ、編みものっていうのは、 ロジカルなのにエモーショナルだなぁ。 |
御手洗 | 生々しい。 |
糸井 | そう、生々しい。 「手」がある、「手」を感じる。 |
三國 | ‥‥つくらせてもらえて、ありがとうございました。 |