「理想のアランカーディガンをつくるには、
それにふさわしい、理想の毛糸が必要」
気仙沼ニッティングは、
オリジナルの毛糸をつくるところからはじめました。
どの羊の毛を使うのか?
どんな配分で混ぜるのか?
どれくらいの撚り(より)を入れるのか?
ひとつひとつ試行錯誤しながら開発を進めることで、
限りなく理想に近い毛糸をつくることができました。
今年お届けするセーターは、数がとても限られています。
その限られた数のセーターのために
一から糸を開発するというのは、
ずいぶんと贅沢で、遠回りのようでもあります。
それでも、糸を作るところから始めたいと思ったのは、
アラン諸島に行ったことがきっかけでした。
今年の6月、
私たちはフィッシャーマンズ・セーターの本場、
アイルランドのアラン諸島に行きました。
その旅のあいだに、
ひとめ惚れをしてしまうようなセーターにも
巡り会うことができました。
シンプルなのに、しっかりとした表情があります。
陽の光を浴びて、その陰影できりっと柄が浮き出るような、
ハンサムな白いセーターでした。
「アラン模様は、立体で表現されるんだ」
そう気づかせてくれるセーターでもありました。
どうしたらこんなセーターが編めるのでしょう。
探っていくと、そもそもアラン島のセーターは、
日本のものとは糸が違うことがわかりました。
アラン島のセーターは、
かっちりと、撚りのきつい糸で編まれています。
そんな糸で編まれたセーターは、
アラン島の強い風から身を守るように固く密です。
固く密な毛糸が、
このキリっとした模様をつくりだします。
ただ、そんなアラン島のセーターは、
私たち日本人には
すこしばかりごわごわしているようにも感じられます。
一方で、日本で使われる毛糸は
肌触りを重視したやわらかい糸が多いため、
アラン島のセーターのような
しっかりとした柄は出にくいのだとか。
本場・アラン島のセーターのようにキリッと柄が立ち、
それでいて着やすいやわらかさがあり、
かつ、ずっと長持ちする糸はできないものだろうか‥‥。
そんな、無茶な夢をもつことから、
この気仙沼ニッティングの毛糸づくりは始まりました。
こんなわがままな要望を受け入れて、
いっしょに毛糸づくりをしてくださったのは、
京都の手芸糸専門店、AVRILさんです。
毛糸ができるまでには、4つの工程があります。
1. 原料選び
2. 紡績
3. 撚糸(ねんし)
4. 染色
AVRILさんとの糸づくりは、
いちばん最初の原料選び、
つまり、羊を選ぶところからはじまりました。
羊にもいろいろな種類がいることを、私たちは学びました。
毛がもじゃもじゃのものもいれば、短いものもいる。
また、同じ種類の羊でも、
年や地域によって毛質が違います。
気候によって毛質が影響を受けるからだそうです。
「今年はいいメリノがスペインから出たよ」
そんなお話を伺いながら、原料となる羊毛を選びます。
さらに、毛糸というものは、
違う毛質とのブレンドの妙で、その味が決まるのだとか。
「もうすこしブルーフェイスを足してみるか」
「このメリノ種を、あと5%増やすとどうでしょう」
膨大な種類の羊毛から組み合わせを決め、
すこしずつ加減を変えながら
ブレンドしていく作業が続きました。
羊毛のブレンドが決まると、紡績をして、
撚糸の作業に入ります。
撚糸とは、
紡績した羊毛を撚って、糸の形状にすることです。
「1メートルに5回、撚りを増やすだけで、
糸の風合いはまったく変わるんですよ」
AVRILの福井雅巳社長のことば通り、
糸は撚りの入れ方をすこし変えるだけで、
編んだときの表情がまったく変わりました。
福井さんは何度も糸を撚りなおしては、
見本をつくってくださいました。
そしてそれを、三國万里子さんが実際に編みながら、
今回のカーディガンにいちばんよいものを探していきます。
ゆるすぎたり、きつすぎたり、
手ざわりはいいけど、柄が思うように出なかったり。
ひとつひとつ、試行錯誤しながら加減をたしかめ、
進めていくしかない作業です。
毛糸をつくりはじめて数か月。
その糸を前にして、
AVRILの福井社長も、
三國万里子さんも、糸井重里も、
気仙沼ニッティングのメンバーも、
みんなが、にっこりしていました。
ついに、糸ができたのです。
じんわりと静かな満足感がありました。
この糸の開発にたずさわったみんなが、
胸を張って言えると思います。
「これが私たちが信じる、アランセーターに最高の糸です」
世界のどこにもない、
気仙沼ニッティングのためだけにつくられた糸。
今年の冬の気仙沼ニッティングの商品は、
この毛糸で編まれます。
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