わたしの好きな要素を集めて作った。
「ポルカのプルオーバー」
ボブルと、ふわふわとしたキッドモヘアの
相性がぴったりのロマンティックな
ヨークセーターです。
模様といえるものはボブルだけ、
のヨークセーターです。
イメージしたのは花で、ボブルはそのおしべ。
「アネモネや芍薬のおしべがぎゅっと並び、
花びらの中で円を描く様子」
ということなのですが、
あまりきっちり「こうです」と説明するのも
編む人の想像を限ってしまうようだし、
土星の輪だと思っていただいても、
天使の輪でも、いや単にボブルでしょう、でも、
お好きなように見ていただければと思います。
模様はシンプルですが、そこここに、
わたしの好きな要素を集めて作っています。
まずは重心を低く設けて、ヨークを広く取ったこと。
襟元で螺旋を描く、減らし目の線。
軽くロールするメリヤスの編み端。
太番手のモヘア糸で編んだ、ほわっとした風合い。
糸はキッドモヘアを配合していて
普通のモヘアよりずいぶん柔らかいのが特徴ですが、
首のあたりとかやっぱり気になる、という方は、
岡尾美代子さんのスタイリング
(赤の差し色がたまらない)を参考に、
襟の詰まったシャツなどを着ていただくと
いいのではと思います。
(三國万里子)
魅了されてしまった。
だから、イデアを形にしたい
「poisson」
白黒のモードな配色で合わせやすく、
カシミヤの気持ちよさとあたたかさ、
バッグにおさまる軽さに出番が期待できるマフラー。
よーく見るとお魚、という形もチャーミングです。
最初は魚を編むつもりはなかったのです。
「鋭角な三角形のショール」を編もうとしていた。
それで端っこのとんがり部分を試し編みしているうちに、
ふと「ここに目をつけたら魚だな」と思ってしまった。
わたしの癖というか、しょうがないところなんですが、
そういうことを思いつくと、そっちの方、
つまりおもしろそうな方に引きずられていってしまう。
その時点で、もう「マフラーの魚」は
わたしの中で泳ぎ始めているし、
こちらは魅了されている。
だから、やってみないわけにはいかない。
たとえば「キツネの襟巻き」を模したマフラーは存在するし、
手編みのプロジェクトとして
市民権を得ているようにも見受けられます。
でも魚は?
いや、見たことない、少なくともわたしは。
ならば作ってみたいし、かつ、未知であるがゆえに、
身につけるアートとしてのポテンシャルを持てそう、とも思う。
まずは前提として「大人っぽいものにするべし」です。
少なくとも「変わってるよね?」が第一印象になるようなものには、
してはいけない。
色はあえて魚の色にしない。
生き物としての再現性を目指す必要はこの場合ないのだから。
それでも形として、イデアとしての魚を体現させたい。
首に巻いてあったかい魚を…。
さて、デザインする上で一番楽しく、
また何度もやり直したのは「尾ビレ」の形です。
掛け目と減らし目で編み地に角度ができるのは知っていましたが、
理想的な尾ビレとなるためには何度か試行錯誤が必要でした。
うろこの柄は、ちょうどよく「scale pattern(うろこ模様)」
というのをパターンブックで見つけ、
ガーター編みバージョンに変えて使わせてもらいました。
Miknitsチームに見せた時の感想は
「三國さんから『マフラー、魚です』って聞いて、
チームでちょっとざわざわしていたんですが、
想像していたのの数倍すてきです」
とのことでした。
よかった。でもわたしが一番ほっとしているんですよ。
(三國万里子)
エストニアの思い出が刺繍された、
手袋「Tallinn」
まるで絵を描くように、
植物が刺繍された三つ又の手袋。
手元を見るたびにうれしい気持ちになります。
まず初めにあったのは、
藍染めの「三つ又手袋」でした。
骨董屋で右手分だけで売られていて、
(耐久性のために)刺し子された様子が
何かの作業用のように見えるけれど、
店主によると用途も、
作られた地方もわからないとのことでした。
手を入れると、人差し指が分かれていることに加え、
親指の根元のマチに工夫があり、指が動かしやすい。
いつかこの形で手袋を作ろうと、
数ヶ月引き出しにしまっていたのですが、
結局Tallinnの「容れ物」になりました。
Tallinnというのはエストニアの古都の名前です。
去年の秋、この街の旧市街に5泊宿を取り、
毎日とぼとぼと石畳の道を巡りました。
とぼとぼ、というのはよく雨が降っていたからで、
坂も多いし、濡れた石で滑って転ばないように、
いつも足元を見て歩いていたのです。
その道が、しかし、本当に大好きだった。
季節柄たくさんの色鮮やかな落ち葉が、
そして木の実が、真っ黒な道の上に散り重なって、
色と形の一度きりのコンポジションを作っていました。
とぼとぼ歩き、立ち止まっては、
なんてきれいなんだ、と見入る。
そしてたくさん写真を撮りました。
帰国して知人たちに「エストニアどうだった?」と訊かれると
携帯を取り出して、これらの葉っぱの写真を見せました。
彼らはなぜか一様に反応が薄く、曖昧な顔で
「こういうのが好きなんだね?」と言いました。
(もうちょっと料理の写真とかあってもよかったんでしょうが、
わたしの一人旅にグルメはあんまりないのです)
そういうわけで、これはわたしの旅の記憶の絵です。
刺繍は見た通りのモティーフですが、
手首部分のジグザグ模様が何かといえば、
旧市街の塀の中を迷路のように巡る、
クネクネ続く細い階段です。
(三國万里子)
ポルカのプルオーバーとpoissonは10月17日(木)、
Tallinnは11月21日(木)、それぞれ午前11:00より販売します。
(つづきます。)