Miknits Vintage Pattern WorksMiknits Vintage Pattern Works

ニットデザイナーの三國万里子さんが、夏に登場です。
ニットだけでなく、実はソーイングも得意な三國さん。
イギリスに買い付けに行ったときにみつけた
ヴィンテージワンピースをヒントに、
涼しげなサマードレスのパターンと生地をつくりました。
気軽に洋服づくりにチャレンジしてもらえるよう、
あまり裁縫をしたことがない方にも
縫いやすいアレンジになっています。

プリント生地はオリジナル。
三國さんの相棒「編み針」をモチーフに、
ソーイングのお店CHECK & STRIPEさん、
イラストレーターの山本祐布子さんとご一緒に、
上品で愛らしい生地をつくりました。
「いますぐ着たい!」という方には、
完成品のサマードレスをお届けします。

また、サマードレスに合わせたサマーニットカーディガンを
三國さんがデザインしてくれました。
冷房のきいた場所でサッと羽織れて、
軽くて、着心地のいいサマーニット。
ボタン専門店COーさんセレクトの貝ボタンがアクセントです。
モダンな色展開で、サマードレスやワンピースはもちろん、
Tシャツやキャミソールにも合わせやすい一着です。

夏に思いきり着たくなる、
自分のためのお洋服。
どんなものになったのか、
つくり手のみなさんにお話をうかがいました。

04 「編み針」をモチーフにした
プリント生地。 山本祐布子さん

イラストレーター。京都精華大学テキスタイルデザイン科卒業。
切り絵やドローイングを用いたイラストレーションや、
雑誌や広告、プロダクトデザインのディレクションなどに携わる。
千葉県夷隅郡大多喜町で「mitosaya薬草園蒸留所」を運営。

──
オリジナルプリントをつくる際に、
三國さんらしいモチーフとして
「編み針」柄を考えていました。
そのときに、三國さんが
「山本祐布子さんにお願いできたら、
とてもかわいいものができそう」と、
直接ラブコールを送らせていただいて。
山本
お話をいただいて、うれしかったです。
ずっと前から三國さんのお名前は知っていて、
その独特の世界観が、私も好きでした。
──
三國さんも山本さんのイラストのファンでいらして、
やっとご一緒できた、とよろこんでいました。
両思いですね!
山本
光栄です。
ありがとうございます。
──
山本さんは「mitosaya薬草園蒸留所」に住まわれていて、
イラストのお仕事と自然を相手にしたお仕事を
両立されています。
ときどき、果物に追われている様子を
インスタグラムで拝見しています(笑)。
山本
周囲からは、何をしている人なんだろう、と
思われていますよね(笑)。
収穫に追われて、3日ほど机に向かえない時もありますし、
みかんを40キロくらい収穫して、
ずーっとひとりで皮を剥いてることもありました。
手の筋肉がだいぶ鍛えられましたね。

偶然ですが、絵も”手”がつくるものなので、
どちらの仕事でも手の筋肉や神経を
鍛えておけるのはよかったです。
「最近、全然絵を描いてないな」と思っても、
手に筋肉がついてるので、ブランクを感じずに描けます。

──
それは、すごいです。
なまらないんですね。
山本
そうそう、なまらないです。
絵に100%向き合っていられない状況ですけど、
その分頭が柔らかくなっている感覚はあります。
使っている筋肉も、変わらないですしね。
なので、私の中ではどちらの仕事も、
そんなに違和感なくやっていけてると思います。
──
今回も限られた時間の中で
編み針柄を考えてくださったと思うのですが、
普段、アイディアはどのように考えられるのでしょうか?
机に向かってじっくり考えるタイプか、
それとも何かをやりながら考えるタイプか。
山本
ケースバイケースですが、
何かをやりながら考えることがほとんどです。
お風呂に入りながら、
ごはんをつくりながら、
頭である程度構想を固めて机に向かいます。

それは、机に向かうことができる時間が
限られている、という理由もあります。
ストップウォッチを持って、
「ヨーイドン」で絵を描きはじめて、
時間が来たら終了。
そんな風にやっていかないと毎日が追いつかないので、
「ヨーイドン」ですぐに手が動くように、
頭でアイディアを構想しています。

──
イラストができあがるまでのことを
おうかがいしたいのですが、
「編み針」というモチーフをイラストにする際に
気をつけられたのは、どのようなことでしょうか?
山本
「編み針」は三國さんにとって仕事道具であり、
すごく思い入れのあるモチーフだと思います。
なので、編み針がきちんと”編み針らしくみえる”
ことを意識して描きました。

単体のイラストとは違って
生地の柄になるものなので、
イラストのサイズ感がすこし違うだけで
一見編み針にみえなくなる可能性はあります。
そこはこだわって、
三國さんの世界観の中にある「編み針」という
モチーフを描きたい、と思っていました。
──
イラストの製作途中で山本さんが、
「編み針がエノキにみえてしまう」
「まち針と間違えてしまいそう」と、
現在の形になるまで苦戦していらっしゃいましたよね。
山本
編み針って、
まっすぐで、頭にちょんっと
アクセントがついているだけの、
すごくシンプルな形じゃないですか。
なので、サイズ感、配置、描き方などを
想定してから進めないと、
なかなか描きづらかったです。

あまり細かったり小さすぎたりしちゃうと
食材にみえてしまったり、
あまりにも太いと印象が強い感じになったりして。
編み針って先が尖っているので、
強い印象が目立つと今回の生地に合わないと思いました。

結果的には私も三國さんも、
鉛筆で描いたシンプルなドローイングの雰囲気が
すごくフィットしましたね。
──
三國さんも
「最初にもらった鉛筆画のドローイングで、
胸がいっぱいになった」とおっしゃっていて、
おふたりとも共鳴しあっていましたね。
山本
ああー、よかったです。

今回は「線を描くことに集中しよう」と思って、
鉛筆の感じがいいのか、墨の線がいいのか、
はたまたペンがいいのか、すごく考えました。

道具だけじゃなくて一本の線の中でも、
ゆらぎのある線なのか、まっすぐな線なのか、
ちょっとした線の表情だけでも
印象がだいぶ変わるので、そこも考えて。
──
鉛筆には、いろいろな表情があるのですね。
山本
鉛筆は無限の表現力がありますね。
ササーッと描くのか、
じっくり描くのかで、
印象がまったく違う。

今回はゆっくりゆっくり、
鉛筆の線を何度も重ねながら描きました。
勢いのある線だと、殺伐としてしまうというか、
すこし強いイメージになるんですね。
編み針で糸が編まれて、
これから作品が生まれるような、
あたたかい雰囲気を出せたらいいな
と思って描きました。
──
編み針の頭の色が塗られているところも、
色鉛筆ですか?
山本
そうです。
ベタだとのっぺりした印象になるので、
バランスを見ながら何度もトレースして
色鉛筆で塗りました。
──
わあー、それはすごく細かい作業ですね。
色のチョイスをしているときも、
おふたりの感覚がバッチリ合っていました。
山本
不思議なものですよね。
何百と色の選択肢がある中で、
サマードレスにするならこれだなっていう感覚は、
なんとなく合うんだなと思いました。
──
色はどのようなポイントで選ばれたのですか?
山本
大人になると、年齢的に
着られる色と着られない色が出てきます。
自分だったらどういう色なら着られるかを考えて、
この色を選びました。
カラフルでもきっとかわいいと思いますが、
顔のそばにくる衣服なので、
全体的に抑えめの着やすい色です。
──
ネイビーの色味を出すのが、大変でしたね。
山本
ネイビーはすこしニュアンスが変わると違う風に見えて、
はじめは浴衣柄のようになってしまったんですよね。
そこから、赤みのある青に色味を調整しました。
透け感のある綿素材だったので軽さも出て、
いい色になりました。

──
編み針の頭が、ピンクやオレンジなど
差し色になっているのがかわいいですよね。
色の組み合わせかたが、すてきです。
山本
服などになって広く絵柄をみると、
点々がきれいな模様にみえますよね。

──
普段の紙にイラストを描くお仕事と、
生地にイラストを描くお仕事は、
どのようなところが違いましたか?
山本
うーん、生地はイラストと目的が違いますよね。
鑑賞するというよりも、
何かに使われることが前提。
今回の場合は洋服以外にも展開されます。
だから、カッティングされて部分的に見られたり、
リピートされて同じ絵柄が大きな面に並んだりするので、
仕上がりと同じ原寸サイズのものを用意して
柄行きから考えはじめました。

生地のイラストを描くときだけでなく、
プロダクトデザインをするときは必ず、
原寸の仕上がりをみるようにしていますね。
──
3メートルの生地なら、
同じ長さのものを用意されるんですか。
山本
色のシュミレーションは
パソコン上でやることもありますが、
イラストを描くときは紙でも物でも、
まずは原寸をみることを必ずやります。

たとえば、テーブルクロスをつくるときは、
原寸大をつくって、
テーブルに広がった生地のイメージを
自分の頭に入れてから柄を考えます。
雑誌にイラストを描く場合も、
雑誌のサイズに合わせて紙を切り抜いて、
原寸をわかった上でイラストを描くのを癖にしています。
そうするとアイディアが生まれやすい気がして。

手描きもPCも、
どちらにもよさがあると思います。
私の場合は若い頃に先輩に言われた
「必ず原寸をみろ」という言葉をずっと守っています。
──
今回、3mカットの生地を購入いただくと
CHECK & STRIPEさんによる
長袖のプルオーバートップスとギャザースカート、
子ども用のワンピースがつくれる3つのレシピが、
1mカットはちいさなバッグのレシピがついてきます。

どんな風にアレンジしても
かわいいものができあがりそうです。

山本
いいですね。
シンプルなギャザースカートとか、
すごくかわいいですよね。

洋服や小物や、
いろんな展開を考えられる生地なので
大きく使っても、小さく切っても、
「編み針」の感じは消えない布に
なったかなと思います。
どんなものをみなさんがつくられるのか、
わたしもたのしみです。

(つづきます。)

2020-07-12-SUN
スタイリング|岡尾美代子
撮影|清水奈緒(イメージ写真)、
沖田悟(商品写真)
ヘアメイク|茅根裕己(Cirque)
モデル|岩崎咲(身長・154cm)
(étrenne)