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Snap01
100年後を想像するものづくり。
井上加奈子さん
- イラストや刺繍、コラージュなどさまざまな表現方法で、
身近なものに“とっておきな物語”を創造する
デザイナーの井上加奈子さん。
井上さんが手がける
アパレルブランド「Canako Inoue」はテキスタイルが主役。
そこから服や小物が生まれていきます。
今年4月からは、一軒家を改装した
アトリエ兼ご自宅を拠点に活動されるのだといいます。
「まだ工事中ですけれど、完成がたのしみなんです」
そう話しながら、とてもおだやかな笑顔を見せてくれました。
ニットを手で愛でる様子もとてもよく似合う、
やわらかな物腰とたたずまい。
8年目となる制作活動や、好きなもののこと、
そして特別な「編みもの」への想いもうかがいました。
- 大きな窓からたくさんの陽が差し込みます。
ここは井上さんが日々ものづくりに勤しむ、現・アトリエ。
かつて小学校だった建物を活かした、
クリエイターのための施設「台東デザイナーズビレッジ」の
ひと部屋です。
- 「荷物がいっぱい出ていてすみません」
と井上さん。もうすぐお引っ越しが迫っているそう。
ここ「台東デザイナーズビレッジ」で
アトリエとして部屋を借りられるのは、3年間だけ。
花壇に春が来る頃には、この場所を
卒業しなければならないといいます。
部屋を見渡しながら、「あっという間でした……」
とこぼす声は、どこか名残り惜しそう。
けれど、あたらしいアトリエやあたらしい暮らしも
もちろんとても楽しみにされているようです。
井上さんのインスタグラムより
- 「生活と制作を同じ場所にして、
すぐに取りかかることができた方が
わたしには合っているかもしれない、と思って
アトリエ兼住まいの形を選ぶことにしました。
だけど、今のこの場所も
本当にたくさんの出会いや思い出があって、
ちょっとさみしいですね。
この窓の目の前が公園なんですけど、
そこを友だちと散歩しながら、
たくさんの植物を眺めたりしました。
ザクロだとかめずらしいものもあって、いろいろ見つけては
“こんなにしげしげと見ることなかったなあ”
なんて感動したりして。
それを図案にして、絵を重ねて、テキスタイルも作りました。
すごくいい場所でしたね。」
- 井上さんがモチーフにするのは、
植物や鳥など、身近にある自然たちです。
どこかほっとするような風合いは、自然のものに触れ、
「これを生地にしたら、おもしろいかもなあ」
とめぐらせる、井上さんの素朴で素直な気持ちが
作品に表れているからかもしれません。
- 今回、井上さんにコーディネートしてもらったのも
そんな“自然”のおもしろさを感じさせてくれるような2着のニットです。
jasmine/ペールピンク
- 「寒色が好みなのか、日ごろピンクを着ることはなかったので、
最初は重ねる色にちょっと迷ってしまいました。
インナーに黒色を選んだのは、
カーディガンの葉っぱや蔦(つた)のような透かしの柄が
いちばんきれいに出るから。
もう少し堅めの着心地かと思いましたが、
着心地のやわらかさにはおどろきました。
- ニットと同じように草花が刺繍されたテキスタイルのパンツは、
自作のものです。
モチーフに通ずるところがあったからか、
自然と手にとりました。」
- 胸もとのネックレスも、
今日のコーディネートにぴったりです。
「これまでも、アクセサリーや小物にはときどき
ピンク色を取り入れていました。
このネックレスは数日前に
古着屋さんで“あのニットに合う!”とピンときて、
うれしくなって買ってしまったもの(笑)。
ニットのペールピンクとパンツの白が組み合わせられていて、
バッチリ似合うと思いました。
ニットもアクセサリーも、少しくすんだ色味が絶妙で、
“ピンクもいいな”と思えるようになりました。」
- 井上さんがお好きなファッションは?
「古着屋さんが 好きで、普段からよく出かけます。
洋服作りの参考になることもあって、
このブラウスは古着を参考に作りました。
そのタグには「1920年」と書いてありました。
つくりがおもしろいのでお店の人に聞いてみたら、
当時はカーブを縫うのが技術的にまだ難しく、
直線を使って工夫して、曲線を作っていたそう。
それって、すごくおもしろいなと思って。
自分が作ったものも、100年後にまで受け継がれて、
100年後の人が見たときに、
“悪くないな” “おもしろいな”って
思ってもらえたなら、しあわせです。」
rukoso/ネイビー
- そして2着目に合わせてもらったのが、
rukosoのネイビーです。
「ネイビーやグリーンはよく身につける色ですが、
これはお花の柄が顔まわりにあるのに
甘すぎなくて新鮮ですね。」
- 同じくネイビーのフレアスカートは、
「夜に降る雪」をイメージして井上さんが作ったもの。
足もとから胸もとにかけ、冬から明るい春へと
物語のように移り変わる組み合わせに
思わずうっとりとしてしまいます。
- そして、井上さんはとってもお花柄が気になるよう。
「実は去年から、わたしも編みものをはじめたんです。
だけど初心者にはこれがどうなってるのか、
やっぱり見ただけではわかりませんね。
だけどすごく素敵で、自分でも編んでみたいと思いました。
- イラストや刺繍、シルクスクリーンと同じで
編みものも覚えはじめると、
“新しいことば” “知らなかった言語” を
またひとつ習得しはじめるような感覚があります。
編みものの言葉がわかるようになれば、
たくさんのものを読み解けたり、
世界が広がりそうです。
編みものは上達したいと思っていて、
いつかブランドにも取り入れられたらうれしいです。」
井上さん
- 民芸品が好きで、旅先などで集めているそう。
「ひとつ一つ表情が違うところもいいですね。
手の跡までわかるようなものづくりが
好みなんだと思います」
と井上さん。奥の花瓶は、最近趣味ではじめた
自作の陶芸作品です。
- 「編みものを始めたきっかけは、去年『ほぼ日曜日』で
開催されていた三國万里子さんの展示を見に行ったことです。
三國さんの本を読んでいると、すごく楽しくて。
ちょうどその頃、たまたま実家に帰ると、
母が30年ほど前に編んだセーターを処分しようとしていました。
袖に腕を通してみたら、意外とやわらかでやさしくて。
既製品にはないあたたかさがあるなあ、と思いました。
それに母にもできるなら、
わたしにもできるのかなと思ったんです(笑)。」
それが今では、
楽しくて仕方ない趣味になったのだそうです。
井上さんの作品が見られます。
井上さんの作品を、直接近くで見ていただける
展示が都内で開催されます。
5月3日(火)から5日(木)まで、
表参道SPIRALで開催される
アートフェスティバル「SICF23 MARKET」では
ほかの若手作家の作品と一緒に見ていただけます。
5月11日(水)から15日(日)まで、
調布の柴崎駅にある「手紙舎2nd Story」では
新作の展示と受注会が行われるそうです。
お近くの際はぜひ立ち寄ってみてくださいね。
(つづきます。)
2022-03-24-THU
[販売時期・販売方法]
2022年 3月30日(水)午前11時より
数量限定販売
[出荷時期]
1~3営業日以内