わたしの刺繍は下書きのない「ラクガキ刺繍」です。
裏の白いチラシをもらってお姫様を描く、素敵なドレスと、王冠の。1枚ではやめない、やめられない。2、3枚でも満足しない。もっともっと、紙があるだけ、明日も明後日もずっと描く。そういう子供がやがて大人になった時に描くであろう刺繍です。
土台に使ったのは、
カシミヤのニット、20枚。
売り場に残っていて、
来年売ってもいいけど、
売らなくてもいい、
なんて言うのを聞いて、
それならわたしに刺繍させて、
とお願いしたのです。
1日に刺せる面積は、
手のひら半分がいいところ。
刺すときわたしはとても小さくなり、
ニットはとても大きくなる。
5センチ四方が野原になり、
街角になり、
樹上に変わる。
糸の花を植え、
お爺さんに猫を登らせ、
リスを走らせる。
わたしの刺繍には、
特別な技術はありません。
針を持てば真剣になるけれど、
糸を切った後には
楽しい気持ちだけ残って欲しい。
だから「じょうず」だなんて言わないで。
(言われないと思うけれど)