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矢島さんの作品
「一詩一冊本・雨ニモマケズ手帳」は、
ルリユールという製本技術で
作られています。
どのような技術なのでしょうか。
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矢島 |
はい。ルリユールは
ヨーロッパで受け継がれてきた
人の手による、
手製本の技術なんですね。
同時に本を守る文化とでも
いいましょうか。
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本を守る、ですか。
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矢島 |
そう、守る。
テキストや紙や挿絵、印刷、活字‥‥、
本に関わった人の仕事を、
100年先の人たちに守り届ける。
そのための技術なんです。
昔、本は今よりもっと貴重なものでしたから。
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しっかり製本をして、丈夫な表紙をつける。
そうやって本を守るということですね。
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矢島 |
それがベーシックな考え方です。
そのうちに、お金持ちの貴族が
ステイタスのために美しい本を求め、
広い知識を身に付けた
愛書家と呼ばれる人たちが
本の美しさを楽しむようになりました。
お気に入りのルリユール作家に
希少本を依頼したりして。
一方で、老夫婦が大切な本を持って、
街の中のルリユール工房を訪れ、
革や紙の見本を見ながら
「どの革にしますか?
どのマーブル柄にしますか?」
と、職人さんの
アドバイスを受けながら、
自分好みの製本に
仕立ててもらうこともあります。
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なるほど。
美しく守り届ける、ですね。
ところで、矢島さんは
「ルリユール作家」として活動をされています。
どうやってルリユールの技術を
学んだのですか。
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矢島 |
本場フランスの学校に通って
ルリユールを一から学びました。
20年以上前、偶然手に取った本で
ルリユールを知り、
魅せられちゃったんです。
こんな美しい本、一体どうやって作るの?
その思いだけで、フランスへ行きました。
そうしたらもう、
気の遠くなるような時間と情熱と根気。
それがルリユールの正体でした。 |
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今回の作品も、
相当な手間ひまと聞いています。
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矢島 |
そう、これ。
何気ない手帳に見えるでしょう(笑)。
でもね、すごい手間が
かかっているんです。
1冊作るのに、1か月半かかります。
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1か月半!
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矢島 |
まず中身の紙は、本のサイズに折り畳んだ
4ページで1折りのものを
全ページ作った後、
1ページずつバラして、
オングルと呼ばれるツメに
2ページを和紙で接合し、
麻ひもで2重重ねの羊皮紙を芯にして
縫い綴じてあります。
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当然ですが
機械でガッチャン、ではないんですね。
手でひとつひとつ。
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矢島 |
そう。手製本ですから。
それから表紙は
芯となる台紙にクラフト紙を貼って
紙ヤスリで立体成形していくんです。
本が手におさまった時の事を考えて。
さらに補強の紙を貼ってから革張りです。
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何工程も経ているわけですね。
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矢島 |
表紙の中側も、同じように3重張りです。
どちらも美しく平らになるよう、
紙やすりで削りながら作業を進めます。
内側に折り返した革の部分も
厚みが出ないように、
医療用のメスや紙ヤスリで削ります。
革は、元々2ミリ厚ぐらいなんですけどね
あらかじめ薄く漉いて、
糊しろ部分なんかは
0.1ミリまで薄く漉きます。
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すごいですね。
見ても触っても、すべすべの平ら。
まさかそんな多重構造とは
見た目からはわからないです。
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矢島 |
まだまだ、ありますよ。
傷みやすい本の角は、羊皮紙で覆って
強度を高めてあります。
もちろん、上から触っても
わからないよう薄く漉いてから。
美しい本というのは、
表紙のデザインだけでなく、
仕立ての美しさまでを言うんです。
それがルリユール。どうだ(笑)。 |
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いやいや、本当にどうだ、ですね。
恐れ入りました。
素材も特別なものなのでしょうか。
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矢島 |
表紙の革はベルギーの革屋さんから
内側や箱に使ったマーブル模様の紙は
フランスの作家さんから
取り寄せてます。
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いたるところまで
吟味されていますね。
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矢島 |
100年もつ、が前提ですからね。
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ということは、中身の詩も
それを前提に選ばれたのでしょうか。
一詩一冊本には
宮澤賢治の「雨ニモマケズ」が
印刷されています。
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矢島 |
そう。こんなにも美しく優しい詩が
この世の中にあるだろうかと思うぐらい
大好きな詩で。
「雨ニモマケズ」は、
賢治が生前使用していた
黒い革の手帳に書かれていた詩なんですね。
その手帳と同じ
51ページから59ページに印刷しました。
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あ、本当ですね。
ほかの部分はまっさらな紙のまま。
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矢島 |
そこには、みなさんそれぞれが、
好きな言葉や詩を書いてもらえたらと思います。
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宮澤賢治のように。
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矢島 |
自分の大事にしている言葉や詩を
一冊の手製本に。
それが、一詩一冊本のテーマです。
大量生産の本や電子書籍のように
読むことが目的ではなく
大切な言葉を記して長く大事にする。
そういう本があってもいいなと思って
作ったものなんです。
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大変な手間と思いがこめられた手帳。
かけがえのない言葉を記して、
その人だけの一詩一冊本として
愛用して欲しいですね。 |