虹色風鈴のつくりかた─ ガラス工場を見学してきました。

  ── 「虹色風鈴」をデザインした
鈴木啓太さんとは
長いおつきあいなのでしょうか?
菅原 そうですね、長いです。
鈴木さんがまだ学生のころからですから。
── 学生のころから?
どういう出会いがあったんでしょう。
菅原 「ボンベイ・サファイア」というジンをイメージして
マティーニグラスを創作するコンテストが
毎年、世界規模で開かれているんですね。

▲「菅原工芸硝子株式会社」社長、菅原裕輔(すがはら ゆうすけ)さん
── カクテルグラスのコンテストですか。
菅原 ええ、学生を対象にしたコンテストです。
日本代表として出品するグラスの製作を
毎年うちが委託されていまして、
2006年に多摩美術大学の鈴木啓太さんが
日本代表に選ばれたんです。
── へえー、そういう出会いが。
菅原 そのコンテストのための作品製作は
何年かやっていたのですが、
鈴木さんは、作品でも人としても、
最も印象に残った学生さんでした。
ガラスという素材の特性を理解しようと、
ほんとうに熱心だったんです。
── 学生時代から、鈴木さんはそうだったんですね。
菅原 それからしばらくご無沙汰していたのですが‥‥。
ある日、
「ミッドタウンのデザインコンペで優秀したグラスを
 製品化したい」
というお話をいただいたんですね。
でも、うちは基本的にOEMはやってないんです。
── 他社ブランドなどから
デザインだけを受け取って製造することは
やられていない。
菅原 はい。
デザイナーさんとのコラボレーションはするんですが、
かならず共同開発でものづくりを進めています。
ですから、デザインコンペで賞をとったものを
ただ単に形にするようなお仕事は、
お断りしようと思ったんです。

ご依頼くださったかたに
デザイナーさんのお名前をうかがいました。
ご本人にきちんと説明した上で
お断りをしようと思ったので。
そしたら、
「デザイナーは鈴木啓太さんです」と。
── ああー。
菅原 「調べていただけますか、
 その鈴木さんというかたは、
 マティーニグラスで日本代表になった人?」
そうたずねましたら、
「その鈴木さんです」と。
私はすぐに、
「だったらやります」と(笑)。
── つまりそれが、
「富士山グラス」だったわけですね。
菅原 はい。
「富士山グラス」の製作は、
うちの職人たちにとっても
たいへん勉強になるものでした。
── そしてその後、
「虹色風鈴」を作ることに。
菅原 「虹色風鈴」は
鈴木さんがずっとあたためていたアイデアで、
「シャボン玉のような風鈴を作りたいんです」と。
── やはり試行錯誤があったのでしょうか。
菅原 ありました。そうとう試行錯誤がありました。
なかなかシャボン玉のようにならなくて。
── うかがったお話では、
その昔、イミテーションの真珠をつくるための
技術でようやく実現したと。
菅原 そうです。
虹色にする塗料をガラスに焼き付けるのですが、
それは別な工場でやっているんですよ。
── そうですか、別な工場で。
ガラスの表面に、焼き付けるんですね。
塗料をガラスに混ぜるのだと思っていました。
菅原 本体は、透明なガラスの風鈴です。
── あのきれいな球体の風鈴は、
どういう方法で作られるのでしょう。
菅原 「型吹き」という方法ですね。
── 「型吹き」。
菅原 型の中に、溶けたガラスを吹き込んでつくります。
── ガラスを吹き込むというのは‥‥ええと‥‥。
菅原 実際に見ていただいたほが早いですね。
行きましょう。
工場へご案内します。
(ほぼ日の取材チームは、菅原さんの案内で敷地内の工場へ向かいました)

▲Sghrのマークは敷地内にある「スガハラショップ」。
その奥に工場があります。
── 工場の前にあるこれは‥‥。
「ルツボ」と書いていますが。
菅原 そうです、ルツボ。
高温でガラスを溶かすルツボです。
── 「興奮のるつぼ」という言い方をしますが、
その「るつぼ」がこれなんですね。
菅原 日本独特のかたちで「ねこつぼ」と呼ばれています。
これから行く工場の釜に、
これが10本入っています。
さあ、行きましょう。
(いよいよ工場内へ!)
── ‥‥おおーーー。
── 中央にあるのが、釜ですね。
菅原 せっかくですから、近くでご覧になってください。
どうぞ。
── ありがとうございます。
お仕事のじゃまにならないように‥‥(釜へ接近)。
── ああ‥‥すごい‥‥。
‥‥当たり前ですが、すごい熱です。
さっきの、ルツボですね。
菅原 珪砂(けいさ)という砂に、
ソーダ灰や石灰を混ぜたものを
1400℃で十数時間かけて溶かします。
── そんなに時間がかかるんですね。
菅原 そうですね、きれいなガラスのためには。
砂を溶かすのは、たいへんで、大切な工程です。

溶けたガラスを鉄パイプに巻きつけて、
成形していきます。
── ‥‥すごい。
菅原 残念ながらきょうは
「虹色風鈴」を作っていないのですが、
ちょうどいまそこで、
鈴木啓太さんの「富士山グラス」を作っています。
── その溶けた赤いかたまりが「富士山グラス」に‥‥。
菅原 「富士山グラス」も「虹色風鈴」と同じ、
型吹きで作ります。
── 「型にガラスを吹き込む」んですね。
菅原 そうです。
これはグラスなので、まず底をたいらにして‥‥
菅原 型ではさんで‥‥
菅原 パイプから空気を吹き込みます。
── パイプをくるくる回していますね。
菅原 そう、回しながら吹き込みます。
菅原 回されているガラスは、型には触れていません。
まわりから水をかけてるでしょ?
その水が型の表面で水蒸気の膜になるんです。
ガラスは、その膜の上をすべるように回ります。
── へえーー。
菅原 型からはずして‥‥
菅原 こういう形に成形されました。
── はああーーーー。
菅原 ルツボの中のガラスは水飴みたいな液体ですが、
パイプに巻きとって外気に触れると
冷めながら徐々に固まってきます。
だんだん赤みが変わってくる。
このくらいの赤みのときに、
ガラスはこのくらいの固さだから、
そのときにこのくらいの感じで息を吹き込むと
きれいな仕上がりになる‥‥。
そういう感覚はすべて、職人の経験ですね。
── 「型吹き」という作業がよくわかりました。
菅原 こちらに「虹色風鈴」の型があります。
どうぞご覧になってください。
── これが「虹色風鈴」の‥‥。
菅原 型の表面を触ってみてください。
── (指で触る)‥‥ざらざらしてます。
菅原 そこにガラスが直接触れれば、
ざらざらした表面に仕上がってしまいます。
── だから水蒸気の膜の上をすべらせる。
菅原 はい。そのときの、吹き加減が難しいんです。
ある程度は強く吹かないと形ができない。
でも強く吹きすぎると、
水蒸気の膜を超えて型のざらざらに触れてしまう。
── すべては職人さんの加減なんですね‥‥。
菅原 閉じると、こうなります。
菅原 成形されたガラス製品は、
このあとゆっくりと冷ましていく必要があります。
2時間半ほどかけて。
── そこから仕上げの作業に移っていく。
菅原 そうです。
成形されたガラスには不要な部分がついています。
たとえばこれは、グラスです。
── ちいさなツボのような形ですね。
菅原 上の部分が不要なので、
ここを「ガラス切り」で切断します。

▲ガラスの表面に見える線が切断する部分。
ここから上を取り除くと、下がグラスのシルエットに。
菅原 切断面を「研磨」します。
菅原 研磨をかけてもまだなめらかではないので、
切り口の部分だけにもう一度、熱を加えます。
菅原 ここでまた、ゆっくりと冷まします。
── そうしてできあがった「富士山グラス」が
こちらですね。
これらが箱詰めされていく‥‥。
菅原 そうですね。

こちらでは「虹色風鈴」の
最後の仕上げをしているところです。
── ああ、ほんとだ、
風鈴を組み立てる作業を‥‥。
ガラスの表面が虹色になっています。
菅原 塗料を焼き付ける工場から戻ってきたものです。
菅原 ちなみにここに並んでいるのは
球体に当たってチリンと音を出す部品で、
これも「手吹き」で作るんです。
── ええー? この小さい部品も「手吹き」?!
菅原 あとは、そうですね、
球体の上に穴があいてますよね。
── ええ。糸を通すための穴が。
菅原 ガラスを成形したあとでこの穴をあけるのですが、
これがなかなか手のかかる作業でして‥‥。
油を流しながらキリをあてて、
ゆっくりゆっくり回してガラスを削ります。
── 時間が、かかる。
菅原 1時間に4個ですね。
── そんなに‥‥。
菅原 風を受ける短冊をつけて‥‥
菅原 紙に包んで、箱につめます。
── ‥‥頭では理解していたつもりでしたが、
ほんとうに、最後の最後まで、
すべてが「手作業」なんですね。
菅原 たいせつに、ていねいに、
ひとつずつお作りしています。
「虹色風鈴」が
みなさんの暮らしをたのしく彩れば、
私たちはそんなにうれしいことはありません。
── 作られる現場を拝見して、
あの風鈴への思いがますます強くなった気がします。
菅原さん、お忙しいところ、
本日はありがとうございました。
菅原 こちらこそ、ありがとうございました。

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