- ——
- ほぼ日では毎年、
オリジナルの路線図を作っているんです。
- 松原
- おお、すごい!
(開いて)
これはテンションがあがるなあ。
- 大塚
- 九州の路線図もすごいですね。
- 松原
- JRも私鉄も、ぜんぶ入っているんですね。
ぜんぶ入っている路線図って、
意外とないですよねえ。
- ——
- はい。
読者の方に
「ご近所の路線に変化はないですか?」と
呼びかけて、毎年ブラッシュアップしています。
- 松原
- ちょうどあさって、関西に出張に行くので、
使わせていただきます。
- ——
- ありがとうございます。
路線図の修正を進めているなかで、
ガシャポンの
「東京地下鉄立体路線図 東京メトロ編」
のことを知りまして、
ぜひお話をうかがえたらと。
- 大塚
- はい。このガシャポンは、
今年の1月下旬に発売させていただきました。
- ——
- すごい反響だったそうですね。
- 松原
- そうなんです。
ガシャポンって受注をとって、
それをもとにつくる数を決めるんですね。
でも「路線図〜」は変化球すぎて、
最初の受注がそんなにとれなかった。
だからあまりたくさんの場所で売れず、
都市伝説のようになってしまって。
- 大塚
- 今まで、ありそうで
なかったものだったのかなあって。
- ——
- たしかに、路線のカラーごとに
色分けされた、チューブというか
曲がった棒というか‥‥。
一つひとつのパーツだけ見ると、
失礼ながら、何がなんだかわからないですよね。
組み立てて、「ここがこの駅」と
想像してはじめて、路線図に見えてくる。
- 松原
- 自分がつくりたかったものを、
つくっただけなんです。
- ——
- 松原さんはガシャポンの開発を
担当されているんですか?
- 松原
- はい。じつは私はガシャポンの企画開発チームの
責任者をしています。
管理職なので、通常は商品をもたないんです。
でも、どうしても‥‥やりたくて。
- ——
- 口調から、思いがにじみ出ていますね(笑)。
- 松原
- 10年ほど前、
「キャンディ事業部」という
食玩の企画開発チームにいまして、
この路線図は、当時考えていた企画なんです。
若いときの企画を、経験値と役職を手に入れたいま、
ようやく実現できたわけです(笑)。
- ——
- 経験値と役職!
逆にいえば、昔だと実現できなかった?
- 松原
- バンダイはキャラクター商品が中心ですので、
「これは売れないんじゃない?」という企画は
どうしても通りにくいんですね。
でもガシャポンというジャンル自体が、
競合他社さんを含めて非常に盛り上がっていまして。
「いまだったらいけるんじゃないか」と。
- ——
- 時代が追いついたわけですね。
- 松原
- はい。時代と役職が追いつきました。
- ——
- もともと、路線図や電車がお好きだったんですか?
- 松原
- 男の子なので、やっぱり好きでしたね。
食玩の企画開発をやっていたときも、
鉄道系のものはやりたくてやっていました。
当時は、ブレーキやマスコン(主幹制御器)が使えて、
4つ合体させると運転席が再現できるという
食玩をつくったりしていました。
これも、そこまで売れなかったんですが、
業界人の記憶には残る商品だったと自負しています。
- ーー
- 今回の路線図もそうですが、
松原さんは記憶に残る商品を得意とされているんですね。
「〜路線図」のガシャポンで
いちばん実現したかったポイントはどこでしょう?
- 松原
- じつは、いちばん実現したかったことは
まだ実現できていないんです。
- ——
- まだ?
- 松原
- はい。1月に販売したのは東京メトロ編でしたが、
最初にこの商品を企画したきっかけは、
都営大江戸線ができるまでの苦労を
ニュースで見たことだったんです。
飯田橋駅あたりのわずかな隙間を、
針の穴を通すようにしてつくったときいて、
「なんてロマンチックなんだ!」と思ったんです。
『黒部の太陽』のような
昭和の日本をつくった人たちのドラマが
もともと好きなのですが、
平成に誕生した東京の地下鉄も
それと同じじゃないか!と。
- ——
- なるほど、たしかに。
何もないところに鉄道を切り開くのとは
また違った難しさを乗り越えて、
新しい地下鉄が通っているわけですね。
- 松原
- そうなんです。
実際に地下鉄どうしがクロスしたところとか、
立体で見てみたいよな、と調べはじめたんですが、
一つひとつの駅の深さの資料はあっても、
全体の高低差を俯瞰で見られるような
データがなかったんです。
それをどうしても見たいと思ってしまって。
- ——
- じゃあ、駅ごとのデータをもとに、
地下鉄全体の高低差のデータを、
独自でつくったわけですね?
- 松原
- はい。
だから、どういう答えが出るのかわからないまま
数値データだけをもとに図面をつくりました。
そしたらおもしろいCGができたので、
「これはいいな」と。
もちろんできあがったものに
多少のデフォルメはかけていますけれど。
そこはロマンだと思っていただければ!
- ——
- この立体路線図は、高低差がある程度
現実に忠実であると同時に、
組み合わせた状態で
自立するものでなくてはいけないんですよね?
- 松原
- はい。そして何よりも、
「カプセルにはいるもの」でなければならない。
ぼくは最初、地下鉄の線も描かれた地図を
A3くらいの大きさで出力して、
それぞれの路線の長さにあわせて
ストローを切り刻み、
カプセルに入れて試していました。
- ——
- そんなアナログなやり方で!
- 松原
- しかも300円におさめないといけないので、
金型にも工夫が必要でした。
高いものをつくろうと思えば
いくらでもリアルにつくれるんですが、
やはりガシャポンなので。
- ——
- 値段と、サイズと、形状のせめぎあい。
- 松原
- 設計の方にはすごくがんばっていただきました。
本制作の前に
かたちの確認のために
ひととおりパーツをつくったんですね。
それが、全路線無色透明だったんです。
どのパーツがどの路線のものかわからず、
地獄のようでした‥‥。
- ——
- 色がついている状態でも
どれとどれをつなぐのか
説明書を見なければわからないこのパーツが、
同じ色で9路線分‥‥。
- 松原
- 休み明けの鉄道イベントに出展するため、
会社のお盆休み中に、
協力メーカーさんの事務所に行って
その無色のパーツに色をぬりながら
5時間くらいかけて組み立てたんですよ。
説明書をつくる前だったので
どれとどれがつながるのかわからないですし、
はめ合わせも商品ほどかっちりとしていないので、
すぐばらばらになってしまう。
仕方なく、ひとつずつつなげては
練り消しゴムで間を埋めていきました。
去年の夏のことは、忘れられません。
- ——
- そんな苦労が。
- 松原
- そうやって組み立てたサンプルをもって、
「国際鉄道模型コンベンション」という
鉄道模型のイベントに出展したんです。
僕がブースに立っていたんですが、
コアな鉄道ファンの方がノッてくれたので、
ちょっと自信がつきました。
- ——
- そのイベントは、かなり本格的な
模型が集まるようなものなんですか?
- 松原
- そうです。
皆さんがリアルな鉄道模型を
ガーッと作っている傍らで、
これを展示していて。
「誰が買うんだよ!」っていう
おじちゃんとかもいたんですが(笑)、
すごいねと言ってくれた方もいたので。
- ——
- 組み合わさった模型を見ていると、
高低差を維持するための
支柱もすごいですよね。
- 松原
- 今回の支柱にはこだわりがあります。
4パーツの基本構造で、
13とおりの高さをつくれる。
同じパーツですべての路線に対応できて、
コストダウンを実現できたものなんです。
- ——
- じゃあどの路線も、
入っている支柱はすべて同じものなんですね!
- 松原
- マニアックですが、
ものづくりに携わっている方には
「おお」と思ってもらえるのではないかと。
実際には支柱は2本あれば支えられるんですが、
複数の路線を組み合わせたときに
「ここもう少し支えたいな」という部分が
必ずでてくるので、
3本入れてあります。
- ——
- そんな気遣いまで‥‥。
松原さんのなかでは、
第二弾として、都営地下鉄をめざして
いるわけですか?
- 松原
- そうですね。
東京メトロ同様、都営地下鉄だと
販売箇所が関東メインになってしまうので、
「どう売れるかわからん」ということで、
なかなか第二弾が難しいですね。
設計はもう終わっています。
設計の段階で、東京メトロと都営地下鉄、
13路線一度に組められるようにしていますんで、
あとは商品化するだけ。
- ——
- ぜひ、実現してほしいです。
- 松原
- もともと、長く勝負する商品だと思っていますので。
東京オリンピックのときに
海外の方におみやげとして買っていただきたい。
こんなにも地下に穴を掘っている国、
ほかにないと思うんですよ。
東京の地下鉄は、日本の技術の粋だと思っています。
- 大塚
- 横からみると本当にロマンがあるんですよねえ。
- ——
- お話をうかがっていると、
最初は無機質に見えたこの立体路線図に
だんだん愛着がわいてきました。
最初に「時代と役職が追いついた」というお話が
ありましたが、
それにしたってバンダイのガシャポンのなかでは
異色中の異色だったと思います。
どうして実現できたんでしょう?
- 松原
- もちろん、反対の声も出ましたよ。
- 大塚
- 実現は簡単ではなかったですよね。
- 松原
- 数が売れる商品ではないとわかっていたので、
自販機と一緒に駅に置くといった
複合的な商談を試したりもしていたんです。
それもなかなかうまくいかなかった。
でも、昨年4月に上司が変わって、
「もっと面白いものいっぱいやろうぜ」
と言い出したんで、「チャンス!」と思って。
- 全員
- (笑)
- 松原
- 4月に新しい上司が来て、
5月には提案したんですね。
6月には商品化が決定していました。
- ——
- すごい!
- 松原
- 「面白いことをやろうぜコンペ」
みたいな会議があって、
全員が企画を出したんですけど、
その中で最初に商品化したのがこれです。
- ——
- さすが、10年間温めていただけはありますね。
- 松原
- そういう裏技も使いながら通したので、
絶対に実績を出してやろうと、
先ほど言った鉄道イベントにも
ひっそり出展していました。
- ——
- ひっそり、ですか?
- 松原
- 自分の商品のために
若い人に「ちょっと参加してくれ」
とは言えないので‥‥。
他の人たちはキャラクターもので
大砲をばんばんぶっ放しているなか、
僕の商品は豆鉄砲みたいなものですから。
でも、どうせ中間管理職として
いろんな責任をとらされるのなら、
やりたいことをやりながら
働いた方がいいですよ。
世の40代の皆さんに、
それだけは伝えたいです。
- ——
- 立体路線図のお話からはじまって、
さいごに働く40代へのメッセージが聞けるとは
思ってもみませんでした(笑)。
- 松原
- だって、中間管理職って、
下には突き上げられ、上には抑えられ。
だからこそ、たまにはやりたいことをやるべきです!
- ——
- やりたいことをやった結果
立体路線図が生まれたと思うと、説得力があります。
ありがとうございました!
(おわります)