LIFEのBOOK ほぼ日手帳

エチオピアからの贈りもの。

一度触れば誰もがそのやわらかさに驚く、「andu amet」のシープ革で作った手帳カバー。
ふわふわの革のひみつとものづくりに込められた思いを、「andu amet」の代表でありデザイナーの鮫島弘子さんに聞きました。
東京とエチオピアを行き来しながら、エチオピアのシープ革の魅力を伝えている鮫島さん。
今回は、エチオピアと電話をつないで取材をおこないました。
> 鮫島弘子さんプロフィール

“ブルーム”
オリジナルサイズ用
カバー
“ナイルブリーズ”
オリジナルサイズ用
カバー

−後編−

エチオピアの工房で、ひとつずつ手作り

そうして立ち上げた「andu amet」。
東京にバッグなどを販売するお店がって、エチオピアに、その工房があるのですよね。
工房では何人ぐらいのみなさんが働いているんですか。
鮫島
スタッフは14名です。
「エキスパート」と「アシスタント」がいて、アシスタントは、エキスパートの下について仕事をサポートしながら学んでいけるようにしています。
わたしは、日本の徒弟制度がいいなと思っていてそれを参考にしているんですけど。
師匠と弟子のような関係ですね。
鮫島
そうです。そして基本的には流れ作業ではなくて、ひとつのものに対して、エキスパートの職人さんが責任を持って1から10まで作り上げます。
すごい!
ではみなさんが全部の工程をひととおりできるんですね。
手帳カバーにしても「誰々さんが作ってくれたもの」みたいになりますね。
鮫島
ええ。そうしているのには理由があって、やっぱり作るものに対してきちんと愛情とか責任を持ってほしいって思ったから。
機械で右から左に流れるものじゃなくて、自分が手をかけ面倒をみる、子どもみたいに……。
まあ、ちょっとそれは大げさかもしれないけど(笑)。
いえ、すごくよくわかるたとえですし、そうやって作られているものって、やっぱり手にしたときに、うれしいです。
鮫島
機械作業や流れ作業のなかでケーキにイチゴをのせる仕事やお刺身にタンポポをそえる仕事をする場合、ケーキやお刺身にそれほど愛着を持てないと思うんですね。
それと、パティシエの人が誰かの結婚式のために、材料はどれにしようとか、デコレーションはどうしようとか考えながら1から10まで作るケーキとは、クオリティが絶対違うと思うんですよ。
私はどっちかっていうと、パティシエが作るケーキみたいなものが、作りたい。
ええ。
鮫島
私が考えるいいものって2種類あるんです。
ひとつは、材料がいいとか、デザインがいいとか、縫製技術がいいとか‥‥
そういう、ものとしてのスペックがいいもの。
もうひとつは、職人さんが本当に愛して作って、その情熱や愛情が、込められてるもの。
どんなにデザインや技術がよくても、それだけのものと、ちゃんと愛情が込められていて、その背後のストーリーも含めて美しいものとでは、やっぱり違うと思うんですよね。
私は、その両方が満たされているものを作りたい。
工房の写真も拝見しましたが、みなさんが仲良さそうで、たのしそうに働いていますね。
この人たちが作ってくれているんだ、って顔が見えるのもうれしいなと思いました。
鮫島
ありがとうございます。
あと、さらにもうひとつ言えば、作る人だけで完成するものじゃなくて、使う人も、その製品を愛して大切にお手入れとかをしてあげることで、すばらしいものが、育まれていくんだと思うんです。
作って売って終わり、じゃなくて、
使われることで、完成する。
ほぼ日手帳といっしょですね。
鮫島
そうですね!例えば、長年使われたレザー製品って本当に美しいですよね。
そういうものを作っていきたいなと思っています。
その製品が愛されるためには、やっぱり作る側にも愛がないと。
そういうこと考えて、1から10までひとりの人が作るっていうことをやってます。

エチオピアの花と風

今回、手帳カバーになったデザインが、オリジナル「ブルーム」とカズン「ナイルブリーズ」です。
どんなストーリーがあるのでしょうか。
鮫島
「ブルーム」は、エチオピアの春のようなイメージですね。
エチオピアの季節は、大きく分けると雨季と乾季の2つで、あとはその間に小雨季っていうのがあるぐらい。
すごくおもしろくって、エチオピアの雨季は、もう、一日中嵐みたいな大雨なんです。
で、乾季の日は、数か月間雨が一滴も降らない。
日本みたいに「今日、雨降るかなあ?」っていうことがないんですよ。
雨がずーっと降っているか、一滴も降らないか、どっちかなんですね。
鮫島
乾季の間、何か月もずっと乾いていた大地はカラッカラに干からびてるんですけど、そこに春がやってくると、雨がサーって降ってきて、緑が育ち、花が開いていく‥‥。
春は、そういう時期なんです。
ブーゲンビレアやハイビスカス、ジャカランタとか、そういうアフリカの花が、バーっと広がって大地に咲き誇るような、そういうイメージですね。
うわあ、いつか見てみたいです。
鮫島
「ナイルブリーズ」は、ナイル川の上を吹く爽やかなそよ風のイメージですね。
ナイルというと、エジプトのイメージを持たれるかもしれないのですが、源流のひとつはエチオピアにあるんです。
つまりナイル川は、エチオピアで生まれた水がエジプトまで下っていく川ともいえ、このカバーからも、アフリカの大地を潤す雄大な川とそこに吹くやさしい風を感じていただければうれしいです。
この、弾力のあるデザインも、特徴的ですよね。
鮫島
はい。「andu amet」では「HUG(ハグ)コレクション」と名付けているいわゆるシグニチャーバッグともいえるシリーズがあるんですが、今回は、それを手帳カバーに展開しました。
革のやわらかさをさらに楽しめるように、スポンジを入れてふっくらさせています。
‥‥この感触、ほんとに気持ちがいいです。
鮫島
最初に「andu amet」のバッグを作ろうと思ったとき、もの入れて運ぶただの道具というよりは、毎日持ち歩いて、そばにいてくれる存在として、愛情の象徴になるようなものにしたかったんですね。
このエチオピアのシープ革の気持ちよさをぜひ、五感で感じてほしいな、抱きしめて堪能してほしいなっていう気持ちで、作ったバッグなんです。
今回、ほぼ日さんとのお話のなかでもその感触をこの手帳の中でも入れたいね、ということで、このデザインになりました。
デリケートな革ではありますが、ぜひ革の魅力を味わっていただけたらうれしいです。
手帳カバーの「ブルーム」と「ナイルブリーズ」も、たくさんの人にハグしてもらって、このやわらかさを味わっていただきたいですね。
ありがとうございました!

写真:andu amet(エチオピア)、大江弘之(手帳カバー)< 前編へ