「mt」のデザイナー居山浩二さんインタビュー「mt」の世界を、支えるものは。

カモ井加工紙が手掛ける
マスキングテープのトップブランド「mt」。
「ほぼ日手帳2020」では、
その「mt」とのコラボレーションによる
3つのアイテムが誕生しました。
一緒に製作をしてくれたのは、
「mt」シリーズの全アイテムのデザインや、
「mt博」などのイベントをはじめとする
さまざまな活動全体のディレクションを担当している
デザイナーの居山浩二(いやま・こうじ)さん。
「mt」のアイテムひとつひとつや、
今回のほぼ日手帳のカバーを、
どのように製作されているかを聞きました。

目次

(その1)かわいいけれど、かわいすぎないように。

(その2)互いの信頼が、スピード感を生む。

(その1)かわいいけれど、かわいすぎないように。

(その2)互いの信頼が、スピード感を生む。

ほぼ日手帳2020 「mt」シリーズ  10月4日(金)発売!

(その1)

かわいいけれど、かわいすぎないように。
居山
(完成した3つの手帳を前に)できましたね。
ほぼ日
販売前ですが、すでに
お客さまからの反応も良いんです。
居山
嬉しいな、ありがとうございます。
こうやって実体のあるものになると、
またいいですね。
ほぼ日
このたびは本当にありがとうございました。
今日は、居山さんがそれぞれのアイテムを
どう考えて作られたかについて、
あらためて伺えたらと思っています。
居山
まず最初に考えたのは、
「マスキングテープがコラボした」
ということがすぐわかる
デザインにすべきだということでした。
ぜひマスキングテープの形状を
わかるものにしたいなと。
ほぼ日
コラボレーションとわかるように。
居山
ええ。ただ、仕上がりの手法は
決まっていなかったので、
僕自身もいったいどうなるんだろう?
と思っていました。
織りのサンプルは最初に見ていたので
イメージできていましたが、
最終的にこんなかたちになるとは
想定してなかったです。
ほぼ日
織りで作った生地に、
さらに織りで作ったテープを縫いつけて、
立体感を出すという。
居山
途中で「こんな方法はどうですか?」と
ご提案いただいて、
面白いなと思ってやってみたら、
こんなに存在感のある仕上がりになりました。
そんなふうなトライアルを組み込んで作れたので、
作り手としても楽しかったです。
ほぼ日
最終的にコラボレーションならではの
仕上がりになって、
私たちもとても嬉しかったです。

それにしても、
織りはいろんな制限があって、大変でしたね。
居山
そうですね。
ちょっと聞いただけでは、
なにができて、なにができないのか、
まったくわからない(笑)。
ほぼ日
色数も限界がありましたし、
デザイン自体にも制限があって。
だから途中で、テープの向きを変えたり、
柄を変えていただいたり、
なんども調整していただきましたね。
いま、できあがってみて、
そういったこまやかな調整をしていだいたからこそ
完成したシリーズ‥‥という感覚があります。
居山
最初の設計から変わった部分も多かったですが、
楽しいプロセスでした。
コンピュータでデザインする前の時代の、
版下(はんした)で入稿していた頃の
感覚を思い出しました。
ほぼ日
版下時代のものづくり、ですか。
居山
ええ。いまは印刷物であれば、
コンピュータ上でおおよその仕上がりを
確認できますが、
昔はモニタで確認しながらの作業ではなかったので、
いつも頭のなかでイメージしながら
デザインしていました。
「こうなるはずだよな」と作ったものが、
「あれ? 何か違う」ということもよくありました。
コンピュータが用いられるようになってからは、
そういう経験はほぼなくなったのですが、
今回、久々にその感覚を味わいました。
「うまくいかなかった」も
「想像と違うけどよかった」も両方ある。
仕上がってみたら
「うわ、こうなるんだ」という驚きがある
計算できないものづくりの醍醐味を
味わうことができました。
ほぼ日
大変だったけれどたのしかったですね。
うまくいったときのよろこびも、
ひとしおというか。
居山
「織り」でのものづくり自体も、
興味深かったです。
同じ色でも、織り方の順序などで
見え方が変わるわけです。
同じ白でも、織り方によって
真っ白に見えたり、ちょっと銀色に見えたりする。
サンプルをたくさん見せていただきながら、
迷いつつ決めていきましたが、
新鮮な経験でした。
ほぼ日
今回の3種類のデザインですが、
マスキングテープそのものではないのに、
パッと見て
「あ、マスキングテープだ」とわかるのは、
どうしてなんでしょうか。
居山
まず、誰もがもともと持っている
マスキングテープのイメージが、
そのまま踏襲されたデザインだから
というのはありますよね。
マスキングテープって、
基本的には色柄のある同じ幅の
一定の長さを持った紙の集合体ですから。
ほぼ日
なるほど。
居山
また、今回はたくさん出したデザイン案の中から
ほぼ日のみなさんに選んでいただいたわけですが、
3つとも、すごくベーシックな
マスキングテープの貼り方だと思うんです。
ランダムな長さのものを
垂直に並べていく方法もあるし、
端から端まで長くも貼ってもいい。
短く切ったものをコラージュ的に貼るやりかたもある。
その、マスキングテープの基本の貼り方だから、
というのもあると思います。
基本の貼り方が、3アイテムに
バランスよく振り分けられてますよね。
ほぼ日
言われてみると、まさにそうですね。
ちなみに「mt」のアイテムで、
こんなふうに織りや織りテープで作ったものは
過去にありますか?
居山
これまでたくさん作ってきたんですけど、
このかたちはないですね。
「mt」のイベント用に作ったシャツがあって、
それは前立て部分に織りテープを使っているので
近いといえば近いんですけど、
やっぱりこれとは全然違います。
ほぼ日
「mt」には非常にたくさんの、
さまざまなデザインのアイテムがありますが、
世界観を保つために、
決まりにしているようなことはあるのでしょうか?
居山
明確には答えにくいんですけど、
僕の中でのルールはなんとなく設定しています。
誤解を恐れずに言うと
「かわいすぎないように」。
かわいすぎるものって、たくさんあるんですけど、
そこには足を踏み入れないようにしています。
もちろん「かわいい」と言われるものに
しなきゃいけない、とは思っているんですけど。
ほぼ日
なるほど‥‥。
そのあたりの感覚があるから、
「mt」は広い層の人たちに
愛されているのかも、と思いました。
居山
ただ、「かわいい」ってほんとに定義が難しいんです。
以前、雑誌『pen』の「かわいい」をテーマにした特集で
取材していただいたときも、
「『かわいい』って一体何だ?」を
考え続けたんですけど、明確な答えは出ませんでした。
最終的には受け手側の感覚次第とも言えるので、
ほんとにわからない。
だれかにとってかわいくないものも、
「かわいい!」と感じる人がいたりもしますし。
ほぼ日
だから「mt」には
居山さんが必要なのかもしれないですね。
居山さんの
「かわいいけれど、かわいすぎない」基準で
コントロールされているから、
世界観が統一されているというか。
居山
そこはあると思います。
やっぱり担当者次第で
「かわいい」の軸は変わってくると思うので。
あと僕は「mt」の世界観を設計はするものの、
そこはフレキシブルな、
縛りのないものでなければと
常に思っています。
「かわいい」のフレームって、
時代とともに変化していきますから。
自分が生活者として、
日々いろんなものを見たり買ったりするなかで、
敏感に感じ取っていかないと、と思っています。
ほぼ日
「mt」のアイテムを作るにあたって、
使う人の姿は具体的にイメージされますか?
居山
全くゼロではないですけど、正直あまり考えないです。
たとえばもし今回、
1種類しか手帳を出さないのであれば、
男性にも使いやすい色味は必要ないのかな
とか想像したりはしますけど。
ほぼ日
つまり、大きくは考えるけれど、
細かい年齢層などまでは考えない。
居山
そうですね、絞り込んでいくような感じはないです。
というのも、もともと「mt」自体が、
使うかたからの提案で生まれたアイテムなんですね。
最初にマスキングテープが大好きな
仲良しの女性3人組がいて、その人たちが、
工業用マスキングテープを作っていた
カモ井加工紙さんに
「新しい色のテープがあったらいいな」と
意見を伝えて、カラフルな色のテープが
作られたのがきっかけですから。
ほぼ日
ええ。
居山
そして「mt」は以降もずっと、
お客さんとのやりとりのなかで
使い方が広がってきたアイテムなんですね。
イベントのインスタレーションなども、
子どもたちがテープを貼る様子などに
よくヒントをもらっていますし。
作り手側から「こう使ってください」
「こんな人にぜひ」みたいに絞り込んで
提案するというより、
「こんなの作ってみました、どう思います?」
と出してみて、
「私ならこうします」「僕だったらこう」
みたいなことを返してもらいながら、
いまのかたちになっているものですから。
ほぼ日
そこはちょっと、ほぼ日手帳とも
通じるところがありますね。
ほぼ日手帳もまさに
「ユーザーのかたが使い方を広げてきてくれたから、
いまのかたちがある」
というものなので。
居山
そうですよね。
で、「mt」の場合もそういう商品ですから、
作る側がターゲットを絞り込むのは
ふさわしくないのでは、という思いがあって、
あえてこちらからターゲットを
絞ったりしないようにしているんです。

(つづきます)

互いの信頼が、スピード感を生む。