やさしいタオル
ディズニーの神田さん、 “その頃”のミッキーのこと、 教えてください。
「やさしいタオル」にはじめて登場した ディズニーのオリジナルデザイン。 「ほぼ日」がえらんだ絵柄は、 ふるい、ふたつのアニメーションから、でした。 そのなかに登場するミッキーとミニーは、 もちろんオリジナルのミッキーとミニーで、 とってもキュートなんだけれど、 いまの彼らとは、どこかがちがう‥‥。 ふたつのアニメーションの話を中心に、 いろいろおたずねしてきました。  お答えくださったのは、 ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社の チーフ・アーティストである神田茂樹さん。 神田さんは以前、「ほぼ日手帳」のコンテンツでも たくさんお話をしていただいています。 そちらもあわせて、ごらんくださいね。

 

ミッキーにとっての第1弾作品っていうのは、1928年の
『蒸気船ウィリー(Steamboat Willie)』でした。
ただし、裏話があって、実はこの『蒸気船ウィリー』が
制作される前に作られた作品がありました。
それが、『プレーン・クレージー(Plane Crazy)』と『ギャロッピン・ガウチョ(Gallopin' Gaucho)』です。
ですから公開順としては第2作目であるはずの
『プレーン・クレージー』のミッキーほうが、
ある意味、古く、より個性が強い顔をしています。

そして『蒸気船ウィリー』の顔は、
いわゆる我々が言う“オールド・ミッキー”の顔に
きわめて近い顔をしているんですね。

じゃあ、『プレーン・クレージー』の特徴って なんだろう?

たとえば顔ですが、オールドミッキーのころは、
額に見えている顔の上の部分全体が、目なんですね。
額と思えるようなところまでが、白目なんです。
だから、上を見る時は、かなり頭のてっぺんに
近いところまで、黒目が移動します。
『プレーン・クレージー』では顔の中央に
眼球のラインが入っていて
この目の構造がよくわかりますよ。


衣装も、ほら、『プレーン・クレージー』のときは、
靴すらもはいていないんですよ。
裸足です。
手袋ももちろんしていない。
そして、この、パラシュートのシーンですが、
そのパラシュートになっているのは、
ミニーのパンツですよね。
こんなギャグは、最近では、ほとんどありませんよ(笑)。
ちなみに『蒸気船ウィリー』の時は
ミニーがブラジャーをしていますね。
驚かれるでしょう?


これはウォルトや当時のアニメーターが、
いわゆる女の子らしさを
どう表現するかの一環として、考えたんだと思います。

個性としても、まだミッキーもミニーもやんちゃで、
たとえばミッキーは『プレーン・クレージー』のなかで
大西洋単独横断飛行を成功させたリンドバーグに憧れて
ものまねをしている、というようなシーンもあります。


ミニーもだいぶ、アメリカの女の子の
活発な印象が強いですしね。
そして『蒸気船ウィリー』には、
山猫をモデルにして描かれたピートが初めて登場しています。
だから、ある意味きっちり、
今も活躍している3人が、
ここですでにその原型ができあがった状態で
出てきているわけです。


この時代はアニメーション自体の創世記でもあり、
改革者でもあるウォルトがミッキーに対して
少しでも演技者としての人格というものを与えたい、
じゃあ、どうしたらいいかを試行錯誤していた、
その始まりの時期でもあるので、
おもしろい、細かなマイナーチェンジが
この時代にはいっぱいあります。

アニメーション自体の手法についても、
この2作から、ディズニーのアニメーションの手法、
たとえば“ストレッチ&スクウォッシュ”というような
重力を感じさせるような
アニメーションの描き方であるとか、
いろいろな技術が発展していきました。
それにともなってミッキーの姿も、
それを表現しやすいように
そら豆的な体つきに変わっていきます。
このふたつのアニメーションは、
そういう意味でも、ディズニーのアニメーションの、
原点だと言ってよいと思いますよ。

『プレーン・クレージー』制作の直前の1927年には
ウォルト自身が、彼のキャラクターのオズワルドというのを、
他の会社に実質奪われてしまったような事件があり、
本当に、もう失意のどん底だったんです。
ロスアンジェルスに戻る途中の列車のなかで
ミッキーマウスを思いついた、
というのが逸話になっています。
なので、このアニメーションはウォルトにとっても
原点であり、再生の象徴的な存在だと思います。

個人的な思いで言えば、やっぱりこういった
きわめて初期のレアな顔つきのミッキーを
商品に取り上げていただくっていうのは、
すごくうれしいことです。
ミッキーっていうのは、本当に歴史が古くて、
いろんな顔を持ったキャラクターですよね。
進化、変遷してる。
なので、こういった原点の、少しちょっと癖があって、
しかもその当時の制作者たちの思いとか意図が
しっかり込められているものが、
商品になって出ていくっていうのは、
ミッキー自身の幅広い外見であったり、
パーソナリティを世の中の人に知っていただく上で、
すごくうれしい傾向だなと思っています。

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