スタイリング 伊藤まさこ  撮影 有賀傑  協力 岡田直人
  • たのしくって、キュート。
    どうぶつ好き、かわいいもの好きのかたはもちろん、
    こどもたちにも人気になりそうなタオルができました。

描いたのは、鹿児島睦(かごしま・まこと)さん。
鹿児島さんは、カラフルな絵皿を中心に、
ファブリックやドローイング、版画、オブジェなど、
多様な制作をつづける陶芸家です。

もともとどうぶつや植物の絵柄を
得意とする鹿児島さんですが、
なかでもねこは、鹿児島さんのファンのかたからも
ずっと、人気の高いモチーフ。
今回のねこは、具体的なモデルがいるわけではなく、
かなり記号化して描いたそうですが、
よく見ると、1ぴき1ぴき、ちがう顔!
すましていたり、ちょっと笑っていたり、
いろんな表情があるんです。
(ちなみに、12ひきいます。)
どのサイズも、ガーゼ面いっぱいに、
大胆に、1色でプリントしています。

さて! すでに「ほぼ日」でも
おなじみの鹿児島さんですが、
その素顔をもっと知りたくて、
活動の拠点としている福岡をたずねました。

かごしま・まこと 陶芸作家

1967年福岡生まれ。美術大学で陶芸を専攻。
しかしすぐには陶芸の道にすすまず、
日本の伝統工芸とイタリアの最先端のデザインを
あわせて紹介していた(つまり、とても先端だった!)
福岡のインテリア会社に就職します、
そこで「インテリア営業部」に3年半勤めたのち、
独立、デザインまわりやデッサンの教師、
インテリアコーディネートなどの仕事につきました。
1年半ほどしたところで、福岡にできたばかりの
ライフスタイルショップである
「ザ・コンランショップ」から声がかかり、
ディスプレイの担当者として入社します。
最初はフリーランスの仕事と兼業でしたが、
やがて専任となり、ディスプレイだけでなく、
仕入れや検品、社員教育までと、
あらゆる仕事をしながら走り回る日々に。
同社で忙しい6年半を過ごし、35歳のとき退社、
陶芸作家として独立しました。
その後は、陶芸を中心としながらも、
ファブリック、紙、立体作品、
さまざまなアートワークへと創作の世界をひろげ、
国内外で開催する個展では、
すぐに完売するアイテムが出るほどの人気に。
日本はもちろん、外国のメーカーとの
コラボレーションも積極的におこなっています。

「ほぼ日」ではこれまで、
『オランダへ旅をする。』
『ほぼ日のいい扇子 2013』
『ほぼ日ハラマキ 2012冬』
『TOBICHI』(ロゴデザイン)
などで、ご一緒してきました。

これからの予定をお聞きしたところ、
10月に青山のdoinelさんで「図案展」。
同時期にNEMIKAというセレクトショップで企画展。
そしてデザインウィークに向けて、
アルフレックスの「エー・ソファ」生地をつくるそうです。
そのあと11月にロンドンで個展。
来年になったら福岡のアルティアムというギャラリーと
太宰府天満宮の宝物殿の2箇所を使った展示会。
さらにいろいろとコラボレーションの
予定もあるそうですよ。

鹿児島さんのウエブサイトは、こちらです。

鹿児島さんのフリーランスとしてのキャリアは、
35歳のときにスタートしています。
美術大学で陶芸を学んだのに、そのままその道には進まず、
一般企業に就職した、若き日の鹿児島さん。
なぜ、まわりみちとも思える選択をしたんだろう?
そんな話から、インタビューがはじまりました。

「なぜ、美術大学を出て
サラリーマンになったのか」
──いや、もちろん、お茶わんをつくって
仕事になったらいいな、とは思っていたんですよ。
けれども、いきなりそんなふうにやっても、
私にはぜったいに無理だと思ったんです。
なにしろ自分の視野がとても狭いことがわかっていたので、
いろいろなことを勉強してからじゃないと、
器を作って食べていくなんて、
とうてい無理だろうな、と思ったんです。

大学ではまじめに勉強したと思います。
教えていただいた技術を
すぐに応用して、というか逸脱して、
別のことを始めてしまう私に、
先生たちは手を焼いていたようなんですけれど、
私は私でいっしょけんめいでした。
そして当時の友達に会うと
「君はまったく変わっていないね!」と、
褒めるつもりで言ってくれるんです。
「え、けっこう上手になってるはずなんだけどな‥‥」
なんて思ったりもしますけれど、
たしかに当時から自分で土をこねてロクロを引いて、
自分で描いて、焼いて、というつくり方でしたから、
おんなじなのかもしれませんね。

会社員の時代は、社内で「なんでも屋」のように
いろいろな仕事をしました。
ふたつめの会社では、まわりが私よりも若く、
まじめで頑張り屋さんばかりだったなか、
教育係みたいなことまで買って出ました。
トラブルもたくさん経験しましたし、
なにしろ忙しく、充実していた日々でした。

さいしょに「勉強」といいましたが、
会社でどんなことを学んだかというと、
ひとことでいうと「いろいろなものを見た」ということです。
最初の会社では日本の卓越した伝統工芸と、
イタリアの最先端の家具。
次の会社では、イギリスのスタンダードで、
もうずっと使われ続けている定番のものや、
「つい先日、ヨーロッパで発表されました」
というような新しいものも入ってきます。
私は検品の仕事もしていたので、
倉庫でひとつひとつをじっくり見ながら、
「これ、すごくいい! でも、
 自分だったら、ちょっとこうしたら、
 もっと売れるかも‥‥」とか、
「これとっても楽しいけど、
 価格と品質が見合ってないかな」
なんて考えてみたり。
そういうトレーニングができたんですね。
そういう物の見方って、
学校に行っても学べないことでした。
やろうと思ってできる勉強じゃありません。

また、陶芸をやるには、
先生について修業をする、という道もあります。
自分が本当に尊敬する仕事を
してらっしゃる方のところに付いて、
習ってやっていくってとても大事だと思いますし、
今だったら、もう1回そうやって
勉強させていただけるところがあるなら、って
思うこともあるんですが、
当時の私は、その道を選びませんでした。
じぶんの性質からすると、そういうところではなく、
一般社会でアートとか芸術とか陶芸とか
そういうことも、関係なく、
ひたすらに世の中で揉まれたのが
いちばんよかったなと思います。

社員時代にできた交流は、大きなものでした。
会社を辞めるとき、決意のひとつになったのは、
こういうことなんです。
ほんとうにだいじな友だちだとか、
応援してくれるかたがただとか、
そういう素敵な人たちと、
会社にいたらできないことを一緒にやりたいって。

もちろんすぐに食べていくのはたいへんだと思いましたが、
周りにいた人たちが、
たとえば「うちのスペース使っていいよ」とか
「進物用に、いくつかつくってくれないかな」と
おっしゃってくださったり、
そういう縁に恵まれていたんです。

とはいうものの、私の作風は、
なかなか受け入れられないものでもありました。
当時の陶芸界は、
ほんとうに素晴らしいものをお作りになる方がいて、
流行と言っていいのかわかりませんが、
白と黒の器がとても人気があったんですね。
そのなかで、絵を描いた器っていうのは、
ほとんどなかったと思うんです。
染付でパターンを入れるものは
もちろんあったんですけれども、
こういうテイストで絵を入れる人が
ほとんどいなかったので、
私がこういうのを作っても、
「え、なぜ?」ってよく言われました。
「白や黒を作ったほうがいいよ」
「なんでこんなオモチャみたいなもの作ってるの?」
そんなふうに、けっこう言われましたよ。

たしかに、私の陶器は、不便なものかもしれません。
洗いにくいし重ねられないし、
食洗機も、電子レンジやオーブンにも入れられません。
便利なものではないんです。時代から逆行している。
でも、「便利なもの」は世の中にいっぱいあるわけで、
私はあえてそれを作らなくてもいいかなと。
本当はすごく好きですよ、
そういう機能性のとても高い器は。
でも、それは本当にいいものが世の中にあるので、
私が作らなくてもいいかなって。


▲「蝋抜き」や「下絵付け」で仕上げる、鹿児島さんの絵皿。えんぴつでざっとアタリをつけてから、直接、皿に描いていく。「塗りながらどんどん描いていきます」

ローイングをイラストレーションとして
プロダクト(大量生産のもの)にいかす仕事は、
手づくりのうつわは大量にはつくれないため、
たとえば個展でそれが完売してしまったとしても、
楽しんでいただけるものをと思い、
個展を開催してくれていたショップのかたと
いっしょにはじめました。

プロダクトをつくるときには、
サラリーマン経験が生きています。
そのクオリティでどのくらいの価格だったら
商品として成り立つか、
お客さんが喜んでくださるかという判断がそうです。

それから個展を開くときも、ギャラリー側は
家賃から人件費、光熱費、宣伝費、梱包材と、
さまざまな費用を負担してくださるわけで、
採算が取れる数字というのがあるはずなので、
「どのくらい売り上げが立てばうれしいですか?」
ということを訊き、目標を設定します。

最初のプロダクトはハンカチでした。
描いた絵柄をインドで版木に起こしてもらい、
ブロックプリントをしたものです。
そんなふうに、手描きのものを、
くりかえしのパターンとして使ってもらう方法もありますし、
手ぬぐいや、「ほぼ日」の扇子のように、
全体を1枚の絵として描く場合もあります。
今回のタオルは、そのどちらでもなく、
1点ずつ描いた「ねこ」と植物を、
タオルのサイズに合わせて組んでいます。
だから、くりかえしのようでいて、
どの猫も植物も、ちがうものなんです。

「やさしいタオル」の依頼をいただいたときは、
自由に好きなものを、ということだったんですが、
「ねこ」にしたのは、みんなが好きだからなんです。
そして、ねこと暮らしている人は
「うちの子」だと思ってくださるんですね。
犬だと、犬種のちがいですがたが変わるので、
そうはいかなかったりしますものね。

布もののデザインは、
「たたんだとき」にどう見えるか、
ちゃんとかわいいか、ということを気にします。
たとえばこの、フィンランドでつくったキッチンクロスは、
どうたたんでも、かならず花の模様が出るようにしました。

今回、フェイスタオルとハンドタオルは、
天地左右を気にせずに使えるデザインで、
どこで折り畳んでも「かわいい」柄。
バスタオルは、一方向のデザインになっていますが、
これはベビーカーに使ったり、車のシートにかけたり、
お昼寝のときにはらがけにしたりと、
そんな使い方を想定しているからです。
そのほうが、ちいさな子たちにはわかりやすいだろうなって。
ねこはいろんな表情をしていますから、
使ううちに、お気に入りの子ができたらうれしいです。


▲スウェーデンのグスタフスベリとコラボした磁器のシリーズ「april」。


▲和紙へのプリント。シルクに京友禅を印刷する技法を使っている。BOX & NEEDLEさんと協業。

鹿児島さん、どうもありがとうございました。
鹿児島さんデザインのやさしいタオル「ねこ」は
7/26(火)午前11時販売スタートです。
どうぞおたのしみに!

鹿児島睦さんシリーズ
ねこ

バス4,937円、フェイス1,851円、ハンド875円

2003年の販売開始以来、
たくさんのかたのところにお届けしてきた「やさしいタオル」、
今回のぶんで、2010年10月以来使ってきた糸メーカーさんの
「LA加工の超長繊維綿」が生産を終えることとなりました。
じつはここ2年ほど、それにかわる糸を探し、
次回からは、ちがうメーカーさんのつくる、
「やさしいタオル」にぴったりの糸を確保しました。
次回の「夏のコレクション第2弾」からは、
パイル面に、ギリシアでつくった糸をLA加工したものを使います。
大きな品質の変更はありませんが、ほんのすこし、仕様がかわります。
くわしいことは、あらためて「第2弾」でお伝えしますね。
2016-07-22-FRI