第8回 寝ないから、なに?

糸井 なんか、今日の話は
まるで京極さんの小説みたいですね。

「睡眠」を中心に置きながら、
触れるか触れないかスレスレのところで、
そのまわりを、みごとにグルグルと。
京極 あ、それね、
ぼくの習性なのかもしれません。
糸井 ん?
京極 いま、ラジオやってまして。
糸井 はい。
京極 『怪ラヂヲ』っていう番組。

『怪』って、妖怪の雑誌ですから、
妖怪がテーマのラジオだと思うじゃないですか、ふつう。

糸井 はあ。
京極 けっして妖怪だけはやるまいと。
糸井 そうなんだ(笑)。
京極 たぶんね、妖怪って、空洞なんです。

‥‥というか、
少なくとも学者が研究してるようなもんじゃない。
もちろん科学的に説明できないですしね。
糸井 うん。
京極 それに、ぼくらが知ってる「妖怪」って
たんなるキャラクターでしょ?

キャラ一体一体について語ったところで、
おもしろくもなんともないし。

つまり、妖怪ってのは
「妖怪の周辺」があるから「存在する」わけで。
糸井 ああ、まわりをグルグル回ってると
輪郭がどんどん濃くなってくるんだ。
京極 うん、妖怪の周りね。
でも、中心は空っぽなんです。

だからまあ、今日の「眠り」についてもね‥‥
寝ちゃえばおしまいでしょう。
糸井 ああ、言ってしまった(笑)。
京極 むりやり繋げますけど、
まず、ぼくは、あんまり寝ないと思われてる。
糸井 うん、思われてる。
京極 そして、寝ないんですよ、ほんとうに
糸井 一気に核心をつくなぁ(笑)。
京極 でもね‥‥寝ないんですけど、
「寝ないから、なに?」と。

糸井 いやいや、どんなふうに寝ないのかとか
あるじゃないですか(笑)。

京極 さっきから
ちょこちょこ出てきては遠ざかる話題の延長で
説明しますとね、
まあ、ふだん、仕事してるでしょ。
糸井 ええ。
京極 で、よくゲーム好きな人が
「気づいたら、一日、経ってた」みたいな人、
いるじゃないですか。
糸井 うん、たまにね。
京極 それ。
糸井 ああ‥‥。
京極 仕事しちゃうんですよ。
糸井 やっぱり。
京極 24時間、ゲームやっちゃったみたいな状況が
ゲーム以外でも訪れると思えば
そんなに不思議なことでもないと思うんですよね。
糸井 それは、絶えず訪れるわけ?
京極 絶えず訪れるほど仕事だけに集中できたら、
ぼくは宮部みゆきさんぐらい儲かってるでしょうね。
糸井 そうはいかないぞと。
京極 うん。
糸井 じゃ‥‥寝る日もある?
京極 ほら、非経済的シャドウワークが(笑)。

それに、あの‥‥デビューしたてのころから
ずうっと同じように言ってるんですけど、
ぼく、あまり「気負わない」んです。
糸井 うん、うん。
京極 大嫌いな言葉が「気合」。
糸井 好きな言葉が「老獪」で。
京極 「気合」ってなんですか。
糸井 なんですかと言われても。
京極 腹に力を入れたところで
屁ぐらいしか出ないでしょう。

なんでも「気合」でなんとかなるなら、
日本はアメリカに勝ってますよね。
オリンピックだったら、ぜんぶ「金」です。
糸井 はい、はい(笑)。
京極 気合でなんとかなるものなんて、
世の中にひとつもないですよ。

ようするに、なにが言いたいかというと、
ふつうにしてるのが
いちばん効率がいいんです、人間って。

だから、ぼくは自然体でいるだけなんですね。
ああしたいとか、こうしたいとか思わない。

できることをして、
できないことはしませんというのが
ぼくの人生ですと‥‥。
糸井 うん、そこまではわかる。
京極 ただし‥‥。
糸井 ただし?
京極 暑いとか寒いとかが
あんまりわからないように‥‥。
糸井 ように?
京極 ムリがきいてしまう身体だってことを
計算に入れていなかったわけですよ。

糸井 自分ではふつうにしてるつもりでも(笑)。
京極 じつは、ものすごくムリしてた可能性が。
糸井 めちゃくちゃ気合いを入れて、
ものすごくムリしてる人よりも、ムリしてたと(笑)。
京極 そう、気を抜いてぬーっと生きていたつもりが、
ものすごくムリしてるのに
気がつかないだけのバカだったと、
そのあたりに、最近、思いいたったわけです。
糸井 つまり、ムリしてるのに気づかず、
むりやり寝てなかった、と。
京極 もしかしたらそうなんじゃないかと。

<つづきます>



2007-12-26-WED