『フィンランドのおじさんになる方法。』が
書籍になりました。

2008年から2012年まで、
フィンランド各地へ取材におもむき、連載をしてきた
「フィンランドのおじさんになる方法。」が
KADOKAWAから、1冊の本になりました。


▲よこながのかわいい本です。カラーページもたっぷり。

著者の森下圭子さんは、最近の「ほぼ日」では、
「トーベ・ヤンソンの人生を、
 ぼくたちはもう一度生きる。」
でもおなじみ。
そのときインタビュアーをつとめてくださった
作家・重松清さんが、連載のなかで
森下さんの仕事について、こんなふうに語っています。
「コーディネートって、
 おそらくそれは案内じゃなくて、
 出会わせることだと思うんだ。」

そうなのです。重松さんのおっしゃるとおり、
森下さんのコーディネートって、
ただの「紹介」や「案内」ではなく、
もっと深く、人と人とをむすびつけるものなんです。

1994年に渡芬、首都ヘルシンキに居を構え、
ムーミンの研究を軸に、取材や視察のコーディネート、
通訳、翻訳の仕事をしている森下さんは、
見ていてもふしぎなくらい「人があつまってくる人」。
取材に同行したぼく(武井)は、
どんな田舎に行っても知り合いがいたり、
フィンランドの人たちとほんとうに打ち解けて
たのしそうに話をしている森下さんを見て、
こころからうらやましいなあと思いました。
森下さんにしかできないそんな出会いから、
この本は、生まれたのでした。

そもそも。
「ほぼ日」でこの取材と連載がはじまったきっかけは、
フードスタイリストの飯島奈美さんのところで
はじめてお目にかかった森下さんから、
フィンランドのおじさんたちの「おもしろさ」を
いろいろ聞かせていただいたことでした。
そのときのエピソードについてくわしくは、
この回を読んでいただくとして、
そこからばたばたとはじまった取材は、
正式には3度でした。
夏に行き、冬に行き、また夏の終わりに行きました。
都会に行き、地方都市に行き、うんと田舎にも行きました。
そして、取材とは別に、個人的にも、
あれから何度も訪れたフィンランド。
ほんの数日しか滞在しない、
通り過ぎるだけの旅をする者の目にも、
取材をはじめた2008年から今に至る変化は
(こと、首都ヘルシンキでは)
すぐにわかるほどですけれど、
この取材で触れた
「おじさんたちのたましい」のようなものは、
きっと、かわっていないんじゃないのかな、と思います。
書籍化にあたり、あらためて文章を読み、写真をみて、
そんなふうに思いました。

この本に登場するおじさんは、11人。
みんなごくごくふつうに生きている
「市井の人々」です。
ぜんぜん有名な人たちなんかじゃありません。
それでも、彼らの歩いてきた道や、
いま、生きているすがたは、
取材をしているときからほんとうに面白かった。
そんな彼らのことを、
森下さんと武井の文章と、
松井康一郎さんによる写真で紹介してきた連載が、
このたび、一冊の本にまとめられた、というわけです。

本書の構成は、おおきく3章にわかれています。
第1章は、おじさん楽団タンメルハヌリのこと。
第2章は、森や湖、島を愛するおじさんたちのこと。
第3章は、おじさんたちの冬のくらしのこと。
フィランドに住む森下さんと、
通りすがりのような武井、
それぞれの視点からの、
フィンランドのくらしにまつわるコラムも
9本、収載しています。
単行本化するにあたり、森下さんの監修で、
ヘルシンキの海と島と森などの自然を体感できる
スポットを中心にした特製マップもつくりました。
(武井のお散歩マップもついています。)
ちなみにブックデザインは、
「ほぼ日」でもおなじみの「sunui/素縫い」さん。
手づくり感あふれる本になりました。


▲マップは、書籍の最後に、綴じ込みで収録しています。

さて、あれから数年、
みんないまごろどうしているのかな‥‥と、
そんなふうに森下さんにおききしたところ、
「その後のフィンランドのおじさんたち」を
「ほぼ日」に書いてくださることになりました。
ぜひ、本とあわせて、後日談として
お読みいただければと思います。

 

 
takei


その後のおじさんたち。その1
アコーディオン楽団のカリさんとエーリクさん。

ご無沙汰しております。
『フィンランドのおじさんになる方法。』の連載から、
何年かの時が過ぎました。

相変わらずおもしろいおじさんたちが周囲にはいて、
自分の人生を自分の足で歩いていくことって
なんて魅力的なんだろう、
なんて幸せだろうと、
おじさんを見ていて思います。
最近も
「65って定年なのに、
 俺、65で手を広げてるぜ」
という漁師さんがいました。
この人のことも、
いずれご紹介できたらいいなあと思う、
魅力的なおじさんです。

さて連載に登場していただいたおじさんたち。
中にはなかなかお目にかかれないままの人もいるし、
今でも連絡をとりあっている方もいます。
当時のまままっすぐに生きているおじさん、
びっくりの展開をみせたおじさん、
そして故人になられた方もいます。

今日からまた、
連載時に登場いただいたおじさんたちの、
その後を少しお話させていただこうと思います。

まずはアコーディオン楽団のカリさんとエーリクさんから。

彼らと知り合って、
私はフィンランドがずっと大切にしている
ダンスの文化のことをたくさん教えてもらいました。
男女の出会いにダンスがあること、
ダンスがなによりもの長寿の秘訣になっていること、
ダンスが村一番のお祭りになること、
ちょっとしたチャリティーとしても
ダンスが貢献できること。
ああ、そして、続けることが義務や意地になったら、
足をいったん止めてごらんなさいとうことも。

カリさんとエーリクさんが率いるタンメルハヌリ楽団は、
フィンランドのアコーディオン楽団の中でも
評価の高い楽団です。
本人たちの自覚も相当なもので、
フィンランドじゅうのアコーディオン楽団が
総勢300人舞台にあがって演奏したときも、
彼らは最前列の真ん中に陣取っていました。
彼らのお祝いコンサートは、
チケットの入手が困難なほど。
彼らが演奏するならと、
遠方からやってくる常連さんたちもいます。

もともとはのんびりと楽しみながらやってきた、
おじさん&おじいさんたちの楽団ですが、
少しずつその流れに変化が生じてきました。
「うまくなることより、私は楽しんで演奏したいから」
‥‥そういって楽団を退団したおじいさんたち。
思えば連載のための取材のときも、
エーリクさんは少しずつ
自分の趣味に没頭していく感じではありました。
楽団のクオリティーを上げたいと力を注ぐことも
容易に想像がつきます。

取材後も、私は何度か彼らの演奏を聴きにいきました。
時々エーリクさんとトゥーラさんの
お宅に泊めていただいたりして‥‥
エーリクさんが子供の頃に夏休みの宿題で作ったという
草花採集の押し花標本を見せてもらったりもしました。

ある夏の日のこと。
それはカリさんやエーリクさんの
少数精鋭のバンド編成の会でした。
とある村の個人のお宅にある納屋でダンス!
というのです。
それは昔からフィンランドの
あちこちの村で行われてきたお祭りのようでした。
行くと、庭にはいくつかの屋台がでていて、
くじ引きなんかもやっています。
納屋はきれいに掃かれ、
そこにコーヒーの粉がまかれていました
(これがダンスのステップにいいのだそうです)。
普段は薄暗い納屋ですが、
扉が開け放たれて光が差し込みます。
裏の畑の向こうから、
自転車で一列になった家族が
こちらに向かってやってきます。

赤ちゃんからおじいさんおばあさんまで。
主催された家は何人かの里親をしているお宅で、
この会もチャリティーを兼ねていました。

ある秋の日は、大人数の編成で行われた
公民館でのコンサート。
楽団員の奥様たちが
休憩時間に売るコーヒーやケーキの準備、
そして楽団員たちのおやつも用意しています。
じっくり聴かせる第一部、
皆で踊って盛り上げる第二部。
彼らの演奏は不思議な一体感がいつもあって、
そして確実に浮いているだろう見学気分の私を、
誰かしら誘ってくれて踊りの輪の中にまぜてくれます。
「あなた、初めてのポルカで完璧じゃない!
 (私は何度初めてのポルカを踊ってるんだろう)」
って必ず誉めてくれる人たちがいて。

真摯に生きていると、
途中どうしても以前のままではいかない事もあるけれど、
それでも多くの人たちを楽しませ、
幸せが漂う空間はずっと変わらずある。
タンメルハヌリ楽団は忙しい秋を迎えようとしています。
新しいCDも出ました。
そのお祝いも兼ねて、
久しぶりに彼らに会いに行ってみようかな。

(つづきます)

 

 

2015-09-11-FRI
takei

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