シェフ モチーフは、武士の心得。
正直な告白からまいりますと、
私、帽子というものには
とんとなじみがございません。
冬場にかぶる防寒のための
ニットキャップがよいところです。
しかし、このたび帽子を作ることになったわけで、
ここに、我が帽子の歴史始まる。
しかも、スソさんに教えてもらって作る
自作の帽子から始まる。
そんな幸せが自分にやってきていいのだろうか。
幸せに不慣れな私としては、
このあとに帽子以外の不幸がしのびよる気配がないか、
多少心配であります。
そんな、己の杞憂は寝る前にでも
もんもんとするがよし。
ここに書くひつようもなし。
早速、どんな帽子をかぶりたいかを
考えていくことに致したいと思います。


  「イメージ画を描いてきてくださいね。」
そんな指令がスソさんから届きました。
ふむ。
なにせ帽子をかぶる習慣がないものだから、
どんな帽子が作りたいかというアイデアは
すんなり出てこようはずがございません。
いろいろと思い描こうと務めるのですが、
さっぱり思い浮かばなかったので、
こう自分に問いかける。

「なにを頭にのっけたらうれしいのか?」

(しかし、この考え方は、
 安易な考え方であったと後に気がつき、
 気がついたときには、
 「出直し」という罰がくだったのでした。)

そして、最初に考えたのが、「擬宝珠」。
あの、橋の柱にのっかっているネギ坊主。
こ、これだ! これを帽子に!
と思い、イメージ画を描いてみたところ、
なにかが違う。

次に考えたのが、
「殿様の帽子(病はちまき編)」。
脱着可能な、紫の帯が葵の御紋の帽子に
くっつけられるというシロモノ。

ここでようやく、何が違うのかの
ヒントを得た。
つまり、私は頭の上に
何かを模したものをのっけたい訳ではないということに。
擬宝珠のコスプレやら、
病の殿様のコスプレをして
表を歩きたいわけではないのである!
モチーフがなんであろうと、
それをそのまま作るのではなく、
シェイプだけを利用して、
日常遣いの帽子の形にアレンジする、
というのが、我が帽子のコンセプトなのではないか!

そんなわけで、出直しである。

で、「馬印の帽子」を考えてみる。
これは、秀吉の馬印
(戦場で殿様がここにいるよ、という旗)の
瓢箪をモチーフにしてみた。
これ、薄い布でつくって、
普段はくしゃっとしているんだけど、
ふくらませると、瓢箪型をしているのである。
結構、いけてる?
とおもってスソさんに相談してみると、
「布地の分量が多いから、
 薄い布地でつくったとしても、
 重くなりますよ。
 かぶってて疲れちゃう帽子になるかもしれないです。」

なるほど、なるほど!
機能的でないと、日常では使わなくなる。
そのとおりである!
それに、よく考えれば、
これも、ふだんはくしゃくしゃでよくわからないけど、
瓢箪をただ頭にのっけているのに
ほかならないとも言える。

う〜む。
う〜む。
う〜む。

悩むことしばし。
最終的に思いついたのが「切腹」である。
詳細に解説をするとドン引きされそうで怖いが、
仕方がない。
切腹をモチーフにするのが
どういうことかといえば、
ざっくりかっさばいた腹から、
中身がちらりとでているの図である。
あいや、またれよ。
そこで、大潮の引き潮のように引いていかぬよう!
なにも私は、リアルな切腹を
頭上にのせようというわけではござらん!
てらってらのリアルな肌色の布地から、
しっとりとした赤い布地がこぼれているような
そんな帽子を頭にのせようとしているのでは
ござらん!
それじゃあ、
(って、そんなものがあるわけもないが)
切腹の頭上コスプレである!
もう自分が何を書いているのかわけがわからん!

ともかく、切腹はあくまでもモチーフなのである。
切腹の形状をデフォルメして、
ただ、「帽子から、布がはみだした帽子」という
普段遣いの帽子を作るのである。

よろしいか?
「切腹」を頭に頂くのではなく、
「切腹」はモチーフである、と。な。


スソ先生のアドバイス
切腹‥‥(絶句)。そうですね‥‥。
内臓の部分をどうやって表現するかがポイントになりますね。

とじる