スレキで作った「仮の帽子」をかぶり、
その男は、だれよりも先に、
スソ先生の前に座ったといいます。
先生は、まず、ほめてくださいました。
「山下さんは、ほんとにていねいですね。
仮の型紙を描いたときも、
この仮の帽子の縫い目も、すごくていねい」
ありがとうございます!
では、このまま本番の型紙にしますね!!
「ちょっと、脱いで、みせてもらえますか?」
あ、はい、もちろんです。
「うしろのほうのカーブを、もうちょっとだけ
なだらかにしましょうか」
あ、そうですね、
たしかにそのほうがいいですよね。
すぐに手直しできますし。
そこを直して、すぐ本番の型紙にしまーす!
「ちょっと待ってください」
な、なにか問題が‥‥?
「山下さん、この帽子のツバの部分、どう思います?」
え? ‥‥どう思う、といいますと?
「いや、山下さんはどう思ってるのかな? と思って」
そ、そこは‥‥
「‥‥‥‥‥‥」
それでいいのだと‥‥
「‥‥‥‥‥‥」
ツバがみじかいのが、この帽子の個性だと‥‥
「‥‥‥‥‥‥」
思ってて、それで‥‥‥‥
「‥‥‥‥‥‥」
みじかすぎると思います。
「‥‥わたしもそう思います」
‥‥すみません、自分をいつわっていました。
やっぱりもうすこし、
ツバは長いほうが帽子らしいと、
こころの底では、こころの底ではそう思ってました。
「じゃあ、そうしましょうよ」
で、でも先生、
ここまできたものを、ツバだけ長くするというのは、
これ、おおごとなのではないでしょうか?
大手術になってしまうのではないでしょうか?
「大丈夫ですよ、真ん中からふたつに切って‥‥
(こまかく説明してくださいました)
布を足して、前を3センチくらい出すだけですから」
そ、そうですか‥‥。
「せっかくここまでやったんですから、
もうひとがんばりですよ、ね?
がんばって、しっかりした型紙をつくりましょう!」
はい。そうですよね、せっかくですものね。
ありがとうございます先生、がんばります!
「じゃあ、次のかたの帽子をチェックしますけど、
修正の仕方は、さっきの説明で大丈夫ですか?」
大丈夫です、ありがとうございました!!
‥‥と、元気に返事はしたものの、
正直、すこしばかりへこみました。
慢心。
しばし、ぼうぜんとしていましたら‥‥
いつの間にかこのひとが目の前に座って、
あたたかいコーヒーを注いでくれているではないですか。
「‥‥山下さん、ぶっちゃけさ、
先生に、ほめてもらえると思ってたでしょ?」
ええ‥‥。
順調なのだと思い込んでいたので‥‥。
「まあ、つらいわなぁ、やり直しっていうのは‥‥。
でも先生も山下さんのことを思ってのことだからさ。
‥‥おっと、ぼちぼち自分のをチェックしてもらう番だ」
武井さんは先生のところへ。
なぐさめてくださって、ありがとうございました。
でも、なぐさめてくれるのなら
そのコーヒーをぼくに飲ませてほしかったです。
さて!
気を取り直してまいりましょう!!
そうです、自分は慢心していたのです。
はなはだしく、思い上がっていました。
そして、自分の気持ちをいつわってもいました。
気になる部分に目をつむっていたのです!
「これ“が”いい」
ではなくて、
「これ“で”いい」
にしていたのです!!
切りましょう!
えいやあ!
ぱっかーん。
この切りはなした部分にスレキをつぎ足して、
もういちど、縫いあわせたのが、こちら。
これ↓が修正前です。
そしてこちら↓が修正後。
どうでしょう?
ツバの部分が3センチくらい前に出て、
これでやっとハンチング帽っぽくなりました、よね?
もう、大丈夫でしょう!
「これ“で”いい」
ではなくて、
「これ“が”いい」
になりましたでしょう!!
‥‥さて、これをもとに、
ぼくの場合はもう一度仮の型紙を作って、
さらにもういっかい、仮の帽子を縫わなければなりません。
そこでまた、シルエットがヘンだったら、
またもや仮の型紙を作って‥‥
と、納得のゆくまでこのステップを繰り返すのです。
ああ、まわりの生徒たちが、
どんどん「仮の帽子」を完成させていきます。
トップランナーから急激に、
周回遅れになってしまいました。
そんなこんなで、
慢心していた分だけ、
大きな宿題を背負って、しばしのお休みに入ったわけです。
次回、ここでお会いするときは、
かんぺきな型紙をたずさえて登場したいものです。
しばし、お待ちを。
シー・ユー・アゲイン!
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ご自分から「みじかすぎると思います」と
言ってくれた勇気に、感謝します。
いちどできたと思っていたものを直すのは、
精神的にもつらい部分がありますから。
で、修正して、よかったですね!
やっぱりかわいくなりましたよ。
かんぺきな型紙まで、がんばって!! |
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