第3回
やらかしてますか?
- ──
- 編集部のみなさんが、これまで
新井編集長にいちばん多く言われたことって
なんですか?
- 新井
- あ、それは聞いてみたいですね。
- 板子
- えーと‥‥なんかこう‥‥、
つねに「やらかせ」みたいなことを
言われます。
▲編集部の板子さん。
- ──
- へぇえ。やらかせ、と。
- 板子
- 「やらかしてる感、足りなくねぇか?」
みたいなことを、新井からは
しょっちゅう言われる気がします。
あとはですね、
「編集者は怒られる職業だ」
- 新井
- そんな名言、言った?
- 板子
- 言いましたよ。
「謝ればいいんだから」って(笑)。
- 新井
- そんなことまで(笑)。
- ──
- 編集長からそう言われると
お尻が軽くなりますね。
- 新井
- そうだといいですね。
これはじつは、昔ぼくが
沢木(耕太郎)さんに言われたことなんです。
「しでかして、なんぼだよ」ってね。
いまも沢木さんに会うと、
「最近しでかしてないね」と
言われたりします。
- ──
- いつも見てらっしゃるんですね。
- 新井
- ありがたいです。
沢木さんとか、
池澤(夏樹)さんとか、
藤原(新也)さんとか、
糸井さん世代の方々はみんな‥‥いわば
「面倒くさい人たち」ばっかりです。
- ──
- はい(笑)。
- 新井
- そういった方々とつながっていると、
姿勢をやっぱり、言われますよね。
だからぼくらは「しでかして」ないと悔しいです。
そう心がけていると、いろんな人たちが
「SWITCHおもしろい」といって
一緒にやってくださるんだと思います。
それこそ福山(雅治)さん、是枝(裕和)さん、
坂本(龍一)さん、小泉(今日子)さん、
操上(和美)さん、荒木(経惟)さん──、
いろんな方々がSWITCHといっしょに
なにかやろうと思ってくれる。
面倒くさい人は、やっぱり面倒くさいだけの、
ものすごい力があります。
ほぼ日は吉本(隆明)さんの
取材を長くなさいましたけど、
ぼくらもCoyoteでやりました。
- ──
- はい、吉本さんは、私たちも
たいへん勉強になりました。
- 新井
- 吉本さんのCoyoteを作るとき、
ほぼ日の記事は、かなり意識しましたよ。
今回も、ほぼ日のWEBの仕事を
見せていただいて思ったんですが、
ものすごくアナログ的なやり方ですよね。
- ──
- はい。
- 新井
- それがすごいなぁと思ったんです。
今回、ぼくにとってよかったのは、
糸井さんのやり方、ほぼ日のやり方を
学べたってことです。すごくていねいだし。
- ──
- そう言っていただくとたいへん励みになります。
ほんとうにありがとうございます。
‥‥ほかのみなさんは、新井さんに言われて
心に残ったことはありますか?
- 槇野
- うーん‥‥、じつはぼくも同じなんですよ。
「しでかせ」ってよく言われるんで。
▲槇野さん。
- ──
- 新井さん、さんざん言ってるんですね。
- 槇野
- その言葉は、プレッシャーになりますよね。
企画を考えるときにも、
びっくりするようなものがないと
だめだろうなって思います。
- 新井
- 槇野は、いくつかすごいところがあるんですけど、
四国の八十八ヶ所をひとりでバイクで回って、
1冊の本を作ったことがあるんですよ。
そんなふうに、ぼくにとって編集は
「ひとりでやれるんだ」というところが、
大きくてたのしいんです。
雑誌はもちろんみんなで作るものなんですが、
結局、記事を作っている最中はひとりなんですよ。
自分でやりたいことをやりたいから、
しかも怒られるの嫌だし(笑)、
どんどんどんどん進めて、
みんな、ほかの人に見せないです。
おたがいぜんぜん無視。
最後に自分で責任を持てばいいし、
ぼくも、どこかの段階で、
レイアウトで組まれたものを確認すればいいわけです。
やってる最中にほかからガンガン言われるよりは、
ただ自分の思うままにどんどんやればいい。
なによりもしでかすことが大事。
- ──
- 編集部内にすごい信用があるんですね。
それは精鋭ぞろいだからできることで。
- 新井
- 江夏豊選手の言葉で、
「野球は一人でも勝てる」
というのがあるんですけど、
それがぼくは好きなんです。
槇野は八十八ヶ所の本を
彼なりのやり方で作った。
そういうことを、ほかの人も、
たとえば菅原くんなんかもやっちゃいますね。
- ──
- 個人プレーもアリで、チームプレーもアリで。
- 新井
- めちゃめちゃ個人プレーですよ。
ほかの人が関わるより、
ひとりの人の愛情があったほうが
絶対いいに決まっている。
まぁ、大失敗もありますけど。
- ──
- 大失敗、ありますか。
- 新井
- よくあります。
その場合、謝りに行く人も必要ですし。
- ──
- 謝ることも含めて
編集長のお仕事‥‥みたいな?
- 新井
- そうですね。ほんとうにそうです。
- ──
- 謝るくらいのことを、
ときにはやるのもアリ‥‥みたいな?
- 新井
- 決して居直りではなくて、そうなんですよ(笑)。
インタビューは
大事なことを聞きにいってるわけですから、
相手の都合のいいことばかり言われても
しょうがないですよね。
だから、ぼくが怒られるのはしょっちゅうです。
- ──
- 個人プレーの得意な菅原さんが、
編集長に言われたことは、なにかありますか?
▲菅原さん。
- 菅原
- もうずいぶん前ですが、
「取材したい人がいたとしたら、
その人にお願いするために、ちゃんと手紙を書け」
とか、
「特集取材をやるなら、旅をしろ」
とか、そういうことをよく言われたなと思います。
- ──
- 旅というのは、具体的な旅ですか?
- 菅原
- 「取材するために
その人と一緒にどこかに行ってきなさい」
ということです。
とはいえ、メジャーなアーティストなど、
そんな時間がなかったりするので、
100パーセントできたかというと
そうではないと思います。
しかし、その心構えというか、
そういうつもりで特集を作っていくということだ、と
ぼくは受け取っています。
- ──
- なるほど。
実は私も、ひざづめの取材より
ロケが好きなので、わかります。
手紙はなかなか‥‥最近メールですから、
書かないですよね。
- 菅原
- そうですね。
手紙にすることで、
こちらが「思っています」とちゃんと伝える。
仕事としてドライにやるだけじゃなくて、
そういうところから入っていくように、という
アドバイスだったと思います。
ぼくがSWITCHに入ったころですから、
10年か20年くらい前のことですが‥‥。
- ──
- 記憶にありますか?
- 新井
- まったくないです。
でも、取材させてもらうその人と
過ごすことはとても大事だと
ぼくはいつも思っています。
だってそれこそ、その人の原風景を見たいでしょう。
大江(健三郎)さんだったら愛媛県の内子の山間、
星野(道夫)さんだったらアラスカ、
(井上)陽水さんだったら、福岡県の田川。
井上さんの生まれ育った地の炭鉱の町に行くのです。
あのぼたやまの跡地ではじめてぼくは、
陽水さんの歌う
「風あざみ」というものの意味がわかりました。
そういうことが大事だと思います。
- ──
- じゃあ最後に
「ほぼ糸井重里」の
編集担当をしてくださった猪野さんは‥‥。
- 猪野
- ぼくはあまりアドバイスはもらえないんですよ。
▲猪野さん。
- ──
- えぇ?
- 新井
- 彼は言ってもしょうがないんです。
- 猪野
- あきらめられてるんです(笑)。
- 新井
- あきらめてるわけではないですよ、
だって、みんな個性が違うじゃないですか。
- ──
- はぁぁ。
- 猪野
- SWITCHはルーティンがすごく少ない雑誌なので、
特集をはじめるとき、みんな
一から考えることが多いんです。
何月ごろにファッションをやる、とか
定期的な特集は決めていないし、
そんな自由さがあるのはとてもありがたいと思います。
- ──
- じゃあ、放っておかれることがアドバイス‥‥。
- 猪野
- そうですね。
比較的、ほんとうに、放っておいてくれるのが
すごいなぁと思います。
- ──
- なるほど‥‥。
じつは「ほぼ日」も、糸井から
「チームプレー」と言われますし、
自分たちも「チームだ」という自覚があります。
けれども、どうしても
自分ががんばるところはあって、
しかもそれが大きいので、かなり個人プレーです。
- 新井
- ですよね。
- ──
- はい。個人個人が
たったひとりのときにがんばらないと、
チームとしてもよくなりません。
しかも、ほぼ日もSWITCHと同じく、
不安なほど放置されるんですよ。
見ていてはくれますが、かなり泳がされます。
考えてみれば野球もアメフトもバレーボールでも、
どのチームプレーもそうです。
局面局面では、個人のちからが極限まで試されます。
- 新井
- だって、その人が
ワクワクしてないとダメですから。
これはどこでも同じですよね。
- ──
- まさにそうですね。
- 新井
- たとえ仕事が大変でも、
そのワクワク感があるといいなと思うんですよ。
自分たちが書いたものが好きで、
それが人に読んでもらえて、売れれば、
ほんとうにハッピーじゃないですか。
▲SWITCH編集部のみなさんと、ほぼ日編集部。
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- (つづきます)
2017-02-15 (WED)