
グレ子 |
Tシャツのデザインを受け取ったり
プリントの確認に行ったり
撮影に行ったりで、
出場者のみなさんの事務所に
たくさんおうかがいしましたね。 |

シロ子 |
しましたね。
‥‥すごかったっすね。 |

グレ子 |
デザイナーさんの事務所って、
あたりまえだけど、すごくキレイでね。
いちばん驚いたのが、
佐藤可士和さんの事務所です。
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シロ子 |
まず客人に出す「お茶」が
お茶じゃなくて水じゃなくて
ペリエでしたよね。 |

グレ子 |

それに、ドアがビョーンって、
横に開くんですよ。
ミーティングテーブルには
傷がひとつもないし。
朝いちばんに打ち合わせに行ったら、
スタッフの方が‥‥ |

シロ子 |
そうですよ‥‥スタッフの方が、
パソコンにつながった
コード一本一本に至るまで
雑巾がけをしていました!
あの事務所は、おかしなんかを不用意に
机の上に出して仕事できないですよね。 |

グレ子 |
スタッフの人も
「おかし? そうですね、
食べるときは、そっと食べます」
とおっしゃっていました。
可士和さんの事務所は、
社内全体がパソコンの内部のような考え方で
整理された空間になっていまして。 |

シロ子 |
打ち合わせに行ったわたくしたちは
さしずめ、そこに侵入したウィルス、と、
そんなかんじでしょうか。
でも、その整理のしかたに、なんだか
可士和さんのイキイキとした雰囲気が
にじんでいて、
乙女心がキュンとなるんですよね。
美しいといえば、青木克憲さんの事務所!!
あそこは、広かったっすね。
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グレ子 |
大きーいテーブルに
ポッツーンと数名で座ってね‥‥。
最初に打ち合わせに行ったとき、
青木さんたら、企画書にメモをするのに
油性のマジックペンを使っていましたよ。 |

シロ子 |
あああ、そうだった。
油性の、しかも茶色でメモしてました。 |

グレ子 |
ふと横をみると、
青木さんの事務所のスタッフの方も
青い油性マジックでキュッキュッと
コピー用紙にメモを取っていました。
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シロ子 |
社風なのかもね。 |

グレ子 |
命令なのかもね。 |

シロ子 |
でも、青木さんはあんなにかっこよくて
自信満々で決断が早いのに
「いま女の子に人気があるのは
淡い色ですよねー」って
ふと、言ったら
「え? もう一回言って?」
と、おっしゃって。 |

グレ子 |
おっしゃっていましたね。
乙女心がキュンとなりましたね。
秋山具義さんの事務所も、最上階で
すごくキレイなんですよ。 |

シロ子 |
あそこは、テラスみたいな場所があって、
ビアガーデンができるんですよね。
チカチカ電灯がついて、最高です。
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グレ子 |
秋山さんの事務所は
おしゃれタウンにありますから、
打ち合わせの帰りに、
洋服屋さんに寄ろうと思ったんです。
場所がわからなかったから、
洋服屋さんの隣に目印のようにあると聞いていた
ラーメン屋さんの場所を秋山さんに訊ねました。
そうしたら、渋谷やら恵比寿やらいろんな場所の
ラーメン屋さんを
どんどんどんどん教えてくださって。
「ここのゆず塩ラーメンが
おいしいから、食べてけ」
って。 |

シロ子 |
洋服屋さんに行きたいのに!
ラーメンのことは訊いてないのに! |

グレ子 |
鉛筆でサラサラーッと
何軒ものラーメン屋さんの地図を
秋山さんみずから手描きしてくださって、
「ラーメン屋さんについて訊ねたわけではない」と
言い出せなくなってしまいました。
しかも、ラーメンを食べたあとの
ダイエットのサプリメントまで
強く勧められました。 |

シロ子 |
でも、そういう
東京下町の生まれのアニキ肌は
秋山さんの魅力ですよね。
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グレ子 |
乙女心がキュンとなりますね。 |

シロ子 |
井上嗣也さんの事務所もすごかったっすね。
T-1サイトのインタビューにも出ましたけど、
あの本の積み方!
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グレ子 |
それに、初対面のとき、
いきなり何をおっしゃったか、憶えてます? |

シロ子 |
憶えてますよ。
「ビューンって空を飛ぶイカがいるの、
知ってる?」 |

グレ子 |
「し、知りません」 |

シロ子 |
「ね? 世の中、知らないことだらけですよ」
って、おっしゃいました。
企画書片手に、その場に居合わせた一同あんぐり。 |

グレ子 |
続いて、うちの女性スタッフがひとり、
カモメについての詩を朗読しはじめました。 |

シロ子 |
そうそう。突然、
「ここのページ、読んでみて。
ぐふふふふ」
と、嗣也さんに言われて。 |

グレ子 |
そのあと、おもむろに石を出してきて
「9000万年前の水がここに溜まってるんだよ。
こんな石とかにしたら、
スケジュールなんてどうでもいいんだよ」
と、言い出されて‥‥。 |

シロ子 |
そんな話をするうちに、
どんどん日が暮れていくんですよ。
「いま、きてるのは、太陽だよ。
太陽、カッコいいよね、太陽。ね?」
と言われたこともありました。

|

グレ子 |
ほんと、楽しかったなぁ。
そんな嗣也さんですが、最後には必ず
エレベーターホールまで
皆を送ってくださるんです。 |

シロ子 |
乙女心がキュンとなりますね。 |

グレ子 |
のっけから驚かされた人といえば、
トム・ヴィンセントさんですね。
初回の打ち合わせのとき、トムさんに
「Tシャツをデザインしたことありますか?」
と訊ねたら、
「あんまりないです」 |

シロ子 |
「"あんまり"とは、つまり
どういうことですか?」
と突っ込んで訊いたら
「いま、日本的にお答えしてみました」
って(笑)。
「イエス・ノーじゃなくて、
"あんまり"とか言うでしょ、日本は」
とおっしゃって。
実はTシャツをつくったことがないのに、
あえて"あんまり"! |

グレ子 |
わたくし、メールを出すときに気を遣って
ひらがながたくさん混じった
平易な文章を書いていたら
バリバリの漢字メールがバーッと返ってきました。
「お世話になっております」とか
「それではご査収くださいませ」などは、
あたりまえでした。 |

シロ子 |
トムさんの事務所は大きいんだけど、
閑静なところで、
なんだか迷いやすいんですよね。
 |

グレ子 |
4人でうかがったりすると
2人くらいは迷って遅刻してしまう。
「近くには、いるんですけど!」
と、連絡しながらさ迷い歩くんです。 |

シロ子 |
そんなとき、トムさんはいつも
心配してくださってね。

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グレ子 |
やさしいんですよね。 |

シロ子 |
やさしいんです。
乙女心が、 |

グレ子 |
キュンとなりますね。 |

シロ子 |
キュンとなるといえば、大橋歩さんですね。
雑誌「アルネ」の世界
そのままのような事務所でした。 |

グレ子 |
憧れの神様みたいな方ですから、
緊張して緊張してガチガチになっていたら
「私のほうが緊張してしまって、ごめんね」
とおっしゃって、卒倒しそうになりました。
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シロ子 |
泣けましたね。 |

グレ子 |
泣けました。
大事に使い込まれたテーブルと、
絵本に出てくるような陽あたり。
目の前にいるのは、
おかっぱで、鮮やかなブルーのシャツを着た
目がキラキラの、大橋さん。
夢みたいでしたよ。
ずーーーっと、長居しそうでした。
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シロ子 |
ほんっとに、かわいい方でした。
Tシャツの話をしていると止まらなくて
「あの、バイクに乗ってる子たちが
宣言を書いたようなTシャツを着てるけど、
あれは何かしら?!」
とおっしゃっていて。 |

グレ子 |
根っから、Tシャツがお好きなんですよ。 |

シロ子 |
事務所には、女性スタッフがふたり
いらっしゃって
しっとりした空間でしたね。
「アルネ」があるね、あそこには。
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グレ子 |
「アルネ」があるねぇ。
出されたお茶がまた、
おいしくておいしくて。 |

シロ子 |
乙女心がね‥‥。 |

グレ子 |
深澤直人さんの事務所は、
インタビュー収録のとき
とても大勢でおしかけたのですが、
スタッフ全員が座れるように
椅子を運んでくださったうえに、
新品のミネラルウォーター+コップ+氷が
ひとりずつに出されました。
田舎から出てきた子どものように感動しました。 |

シロ子 |
お水を出してくださるときに
「ガス入りになさいますか? それとも
ガスなしにしますか?」
とひとりずつに訊いてくださって、
これが都会というものじゃな、と思いましたね。
それに、考えられないくらい
おっきいテーブルがありました。
 |

グレ子 |
ありました、ありました。
深澤さんは、とてもテキパキした方で、
噂どおりの理論派、それゆえの感覚派。
こちらが1訊ねたことを
800くらいにして返してくださって、
それが、すごくおもしろいお話ばかりで。
ほんとうに感動しました。
 |

シロ子 |
スタッフのみなさんは、
帰るときに、出口に並んで
「さようなら、ありがとうございました」
と挨拶してくださって、とてもすてきでした。 |

グレ子 |
深澤さんのまわりにいると、
みなさんすてきになってしまいますね。 |

シロ子 |
乙女心をキュンとさせるマジックを
持っていらっしゃいますね。 |

グレ子 |
深澤さんは、
イメージどおりの方だったのですが、
佐藤卓さんは、ちがいました。 |

シロ子 |
どんなふうに思っていました? |

グレ子 |
もっとインテリのバリバリの
近寄りがたい大御所‥‥。 |

シロ子 |
卓さん、
めちゃめちゃエネルギーのある方ですよね。
 |

グレ子 |
テンションが高くバイタリティがあり
いっっっっっろんなことを
考えていらっしゃる。
やはり、こうでないと
あんなお仕事はできないですよ、と
魂がうちふるえました。
乙女心などの騒ぎではないです。 |

シロ子 |
テープおこしをしたインタビューの文字量も
卓さんと深澤さんが圧倒的に多かったです。
ここは、もういわずもがなですが、
事務所がすてきでしたね。 |

グレ子 |
入ったらまず、ハテ、どちらが入り口?
歩いていたら、おっとこちらはつきあたり。
なんて、すごく楽しかったですね。
また、行きたいなぁ。
 |

シロ子 |
行きたいですね。 |

グレ子 |
卓さんの事務所だけでなく、どこも
これぞトップデザイナーのオフィスなり、
というかんじの、洗練された空間でしたね。 |

シロ子 |
デザイナーさんの事務所って
あらためて並べるとすごいですね。 |

グレ子 |
さ、最後に残った方は。 |

シロ子 |
洗練されたデザイン事務所とは
ひと味ちがうかもしれない空間でお仕事の
祖父江慎さん‥‥。 |

グレ子 |
どちらかといえば、書店の倉庫でお仕事
‥‥ってかんじでしたよね。
で、シロ子さん、合計何時間いました? |

シロ子 |
グレ子さんこそ。
予想はしていましたが、この方が
Tシャツデザイン案の
最後の提出者でいらっしゃいましたね。
|

グレ子 |
しかも、ブービー賞の人を
ダントツで引き離してね‥‥。 |

シロ子 |
打ち合わせのとき、〆切の日付の下に
「ふん、ふん、うん、うん」と頷きながら
ものすごく太い線を引いてらっしゃったのに。
 |

グレ子 |
打ち合わせ中、テーブルの上に
突然生きものを放したりなさったりして、
結局は頭に入っていなかったようでしたね。
わたくし、最終のデザイン受け取りのときに
何時間か祖父江さんの事務所ですごしまして
いろんな方とご挨拶しながら
アガリを待ちました。
完成して、お話しをしているうちに
「あ、チョコッとこっちを直しちゃおっかな!」
と手直しをされまして、
「この色指定のチップ、貼ってくれるかな?
どっちがどっちの色かわかるかなー?
ア、正解♪、正解だー♪(小躍り)」
というのをくり返しまして。
ずいぶん長く私なんかとお話しされるなぁ、
と思っていたら、
その間に提出用のフロッピーを焼いたり
控えのコピーをとったりなさっているんですよ。 |

シロ子 |
うわははははは。 |

グレ子 |
おしゃべりはいいんで、
そういう作業に集中しちゃってください、
と思うんですが、
こっちもおしゃべりしながら
指定を書き込んだり確認したり
封筒を閉じたりするのを
一生懸命手伝っちゃって。
さあ、「じゃ、デザインお預かりしますね!」
と帰ろうとしたときに
祖父江さんがいつのまにか着替えていたんですよ。 |

シロ子 |
うわははははは。 |

グレ子 |
玄関で笑顔で
「じゃねー! えへへへ」と
小躍りで見送ってくださる祖父江さんが
着替えている。
おっかしいなぁ、と思ったんですが、
事務所を出て道を歩いた3分後、
インクの種類を
確認しなければいけないことに気づいて
携帯から電話をしたんです。
そうしたら、スタッフの方が
「祖父江は出張で、
最終の新幹線に乗るようでして、
いま出て行きました」
と、ごく普通のトーンでおっしゃいました。 |

シロ子 |
うわははははは。 |

グレ子 |
急いでいるなら、そう言ってくださいよ、と
思いました。
祖父江慎さんといったら、
グラフィックデザイン界のスーパースターですよ。
このとき、乙女心がね。 |

シロ子 |
キュンとなりますねぇ‥‥。
 |

クロ子 |
おいおい、おまえたち。 |
 
ふたり |
あ、クロ子にいさん。 |

クロ子 |
もう乙女心と言っている年でもなかろう。
もうじき販売がはじまるぞ。
落ち着いたように見えるがな、
俺はものすごくドキドキしてんだぞ。 |

シロ子 |
知っていますよ。
だってクロ子さん、泣きそうだもん。
昨日も意味なく
コーヒーを口から噴出していたもん。 |

クロ子 |
9人の出場者のみなさんが
心臓バクバクしてると思うとな。 |

グレ子 |
そうですね。
いよいよですね。 |

クロ子 |
いよいよ、幕が、開くな。 |