糸井 |
あの、たいへん失礼なのを承知で言いますが、
田口さんは、タイプとしては
ホームランバッターじゃないですよね。 |
田口 |
はい、そうですね。
2007年のホームランは3本でした。 |
糸井 |
もちろん、その3本を打てることが
とんでもなくすごいことだ、ということは、
まぁ、いったん置いておきまして(笑)。 |
田口 |
はい(笑)。 |
糸井 |
ホームランバッターじゃない選手が、
ホームランを打つときの気持ちって、
あんまり聞いたことがないんですけど、
どういう感じなんですかね。 |
田口 |
あ、打ったときですか?
まぁ、冷静にベースを一周してますけど、
内心、飛び上がってます。 |
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糸井 |
いいなぁ(笑)。 |
田口 |
「やったぁっ! 入ったっ!」
もう、そういう感じですよ。 |
糸井 |
大笑い、みたいな感じですか。 |
田口 |
もうその場で大爆笑したいぐらい。 |
糸井 |
(笑) |
田口 |
あと、ふだん打たないからこそ、
「おまえ、なんでオレに打たれんねん!」
っていう気持ちもあります(笑)。 |
糸井 |
ははははは。 |
田口 |
もちろん、態度には出しませんが。 |
糸井 |
けど、田口さんも、打撃練習のときは
簡単にスタンドに放り込めるわけでしょう? |
田口 |
練習では打てます。 |
糸井 |
それってなに? なんなんですか、それは? |
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田口 |
まあ、打たせてくれようとして投げた球と、
打たすまいとして投げた球は、
まったく違いますからね。 |
糸井 |
そりゃそうですよねぇ‥‥。
試合でのホームランというのは、
いい当たりをしたと思ったら、
その打球がどんどん伸びて
スタンドまで届く、みたいな感じですか? |
田口 |
いや、だいたいホームランって、
打った瞬間わかるんです。 |
糸井 |
わかるんですか。 |
田口 |
打った瞬間に、ガッととらえたときに、
「あ、これホームラン」というのはわかるんです。
それは、ホームランバッターじゃなくても。 |
糸井 |
はぁーーー。
それ、言葉として思うんですか。
「ホームラン」と思うんですか。 |
田口 |
「行った」と思うんです。
で、そのあとに、
「どこまで飛ぶんだろう?」
っていう興味が湧いてくる。 |
糸井 |
おーもしろいなぁ(笑)!
じゃあ、「行った」と思ったのが
失速してスタンドまで届かない、
というようなこともあるんですか。 |
田口 |
いえ、基本的に、
失速というのはあんまりないです。
ただ、昨シーズンは球場が新しくなって、
フィールドが広くなったので、
「行ったと思ったら行かなかった」
ということが何回かありました。 |
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糸井 |
それは、悔しいものですか? |
田口 |
腹が立ちますね。
「この当たりでなぜ入らない!」
という気持ちになります。
ツーベースでも、腹が立ちます。 |
糸井 |
(笑) |
田口 |
まぁ、年間3本しか打ってないぼくが言っても
あんまり説得力ないかもしれませんが。 |
糸井 |
いえいえ、3回あるだけでどれほどすごいか。
逆にいうと、メジャーリーグで
1年にホームランを3回打てるほどの人なんだ、
っていうことはたしかなわけですからね。 |
田口 |
そうなんですよね。うまく打てば届くんです。 |
糸井 |
でも、ホームランを狙うことはしないんですね。 |
田口 |
いえ、そんなこともないです。
2007年に打ったホームラン3本のうち、
1本は確実に狙って打ちました。 |
糸井 |
へぇ! それはどういう? |
田口 |
同点で迎えた10回表の先頭打者、
という場面でした。
伏線があって、じつはその前日に、
似たタイプの投手と対戦して
ぼくはスライダーを打ち損じてたんですね。
その投手と、延長で対戦した投手は違うんですが、
サインを出すキャッチャーは同じだったんです。
だから、たぶん、
同じイメージで来るだろうなと思った。
前日の初球はスライダーで、
ぼくはまったく反応しなかったんですね。
だから、今日もスライダーだろうと思って、
肩口から入ってくるスライダーを待ってたんです。
つまり、「スライダーを投げ損なえ」
と思いながら待ってた。
そしたら、本当に投げ損なったんです。 |
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糸井 |
はぁーーー。 |
田口 |
その甘いスライダーを狙って引っ張ったら、
ポールに当たるホームランになったんです。 |
糸井 |
それは、狙い球を絞って、
「ここが来たら打つぞ」と思ってただけじゃなく、
「ホームランを打つこと」を
具体的に狙ってたわけですか。 |
田口 |
そうです、そうです。
肩口からスライダーが入ってきたら
スタンドへ放り込もうと。 |
糸井 |
その球なら、放り込めるぞと。 |
田口 |
はい。やっぱりぼくが打てるのは、
レフトに引っ張ってのホームランしかないので、
いちばん引っ張りやすい球はなんだろう?
いちばん飛ぶ球はなんだろう? と考えるんです。
肩口からのスライダーならありえる。
配球を考えたら、それがいつ来るだろう?
というようなことをぜんぶ考えたうえで、
じゃ、初球だけ狙わせてくださいっていう。 |
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糸井 |
「初球だけ狙わせてください」(笑)。
誰に言ってるんだかしらないけど、
いいなぁ、それは。 |
田口 |
野球のカミサマに、ですかね(笑)。
あまり大胆なこと言うとバチ当たるんで。 |
糸井 |
「初球だけ」(笑)。 |
田口 |
はい。
「初球だけ狙わせてください。
初球がダメだったら、
デッドボールでもいいから塁に出ます」
っていう覚悟なんですよ。 |
糸井 |
あー、ギリギリなんですねぇ。
そこなら狙えるぞっていうことなんだ。
で、見事にそれを引っ張って、
あとはファウルになるかどうか、という。 |
田口 |
いえ、打った瞬間には、
切れないというのがわかってるんです。 |
糸井 |
ああ、このへん、おもしろいですねぇ。
ポールに当たるホームランなのに、
打った本人にはわかるんですね。 |
田口 |
はい。 |
糸井 |
たまんないですねぇ。
(続きます) |