HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN × ORIX Buffaloes
		野球の人・田口壮の新章 はじめての二軍監督
13 吉田凌投手と佐藤世那投手

負け惜しみではないのです。
勝てなくても、勝てなくても、
やっぱりじわじわと、
前に向かって進んでいるオリックスの二軍です。
プロですから、二軍とはいえ
勝敗にこだわらなければならないのは承知の上で、
どうかできうる限り長い目で見ていただければ幸いです。

活気を作るひとつの要因は、
たとえば若い先発投手陣の、
かわいらしいライバル意識です。

「俺のほうが、10秒も長くトレーニングしたもんね!」
「いやっ、でもっ、
俺のトレーニングのほうが形がきれいやし!」

お前ら、おこちゃまか!
が、いいのです。
前向きで楽しい競争は、
お互いにとってプラスの刺激となるはずです。

高卒ルーキーの先発同士、
吉田凌投手と佐藤世那投手。
きっとこの二人も、どれだけ仲が良くたって、
見えない火花を心のうちでは
燃やしているに違いありません。

いかに現代の高校生が
昔と比べていい体格をしているとはいえ、
それはあくまでもアマチュアレベルのお話。
プロに入れば、先輩たちの
コア(体幹)を中心とする完成された身体や、
技術の高さや、化け物のような体力に
ひっくり返るほど驚かされます。
汗まみれ、泥まみれで朝から晩まで野球をやっていても、
やっぱりプロの質の高い練習量にはかないません。
ついていくのが精いっぱい、という状況にあると、
上を目指してはいても、
先輩をライバル視することもままならず、
さしあたっては自分にとって一番身近な存在に
対抗心を燃やすことになります。

キャンプから一度も怪我をせずに投げてきたからこそ、
凌はセナより一足早く、プロ初登板を経験しました。
一方でセナは、自分のチャンスを待ちつつ黙々と練習を重ね、
先日凌から遅ればせながらの初先発、
それがプロ初勝利となりました。
今度はセナの勝ち星に刺激されて、
凌がプロ初勝利を目指す番がきたわけです。
お互いを引き上げ合う、理想的なライバル関係です。

これが2年目ともなると、少し余裕が出てきます。
プロの水に慣れ始め、1年下のルーキーたちの動向を
さりげなく目の端で気にしつつ、
しかしもう少し広い範囲、
高い位置にライバルを設定するようになります。
高卒2年目の鈴木優投手、佐野皓大投手、
そして齋藤綱記投手あたりがいま、そんな状態でしょう。

大学や社会人を経験している選手は、
多少なりとも大人の香りがするのですが、
高校を出てすぐにプロ入りした選手には、
まだあどけなさや子供らしさが残っています。
彼らの行動や発言内容や身体つきが
少しずつ変化していくのを見守りながら、
時に楽しく面白く、時に歯がゆく切なく、と、
僕の父親気分は盛り上がりっぱなしです。

一人一人に誰にも真似できない個性があり、持ち味がある。
若い選手たちとともにある日々は、
彼らの人生の一部を分かち合ってもらっているかのような、
親御さんたちにそっと報告したくなるような、
僕にとってのかけがえのない経験でもあります。



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