糸井 | それにしても伊藤さんと 大橋さんの組み合わせはすごいですね。 作り手かと思ったら、 ちゃんとお客さんにスッと戻れる。 心がお客さんなんですね。 これだけキャリアがあって、 それをずっと守ってるってやっぱり‥‥ |
大橋 | いや、もともとお客さん側なんです。 |
伊藤 | うん。 |
大橋 | ずっとお客さんの立場だから、 長いこと、仕事をして 来れたのかもしれないし。 |
糸井 | いや、あんまりいないと思うなあ。 |
大橋&伊藤 | そうですか? |
糸井 | 例えば作ってる側の話っていうのを、 どこかと特別に仲良くなったら 聞いちゃうじゃないですか。 例えばグルメみたいな人が、 料理長とかと知り合ったり、 「仕入れが大変なんですよ」とかなんとか 相談に乗ってるうちに、 お客さんじゃなくなるんですよね。 食い物はとくに早いですよね。 |
大橋 | ああ。 |
糸井 | 生活雑貨みたいなのも、ご自分で作っているのに お客さんでいるっていうのは、 よほどキープしようと思ってないと できることじゃなくて、 「こっちのほうがやっぱりすぐできるし」とか、 作り手の論理と消費者の気持ちを ちゃんと戦わせるっていうのは むずかしいことなんです。 「自分は買う」ってところに 戻れるかどうかっていうのは 作り手として、けっこう、 命懸けなとこありますよね。 |
大橋 | 私は、何か物を作っても、 自分が欲しいかどうかでしか もう判断できないので。 自分とこのちっちゃい会社だったら、 最終的には自分が好きなもので いいんじゃないかなって、 最近は思うようになりました。 |
糸井 | うん。おっしゃるとおりで全部そうですね。 「こういうのができたら 私使いたいな」と思ってるものを 作っていくってことですよね。 表現活動でもあり、欲しいでもありみたいな。 ぼくはね、チームプレーでやってるんだけど、 邪魔する役なんです、いつも。 |
大橋 | はい(笑)。 |
糸井 | 全部を台無しにするようなこと言って‥‥ ぼくがやってることはそれだよね、大体。 |
ほぼ日 | そうですね(笑)。 |
糸井 | 邪魔しないと、つまんなくなるんです。 ぼくは、面白いのが好きなので(笑)。 タオルケットに、 伊藤さんが飛びついたみたいな面白さが。 |
伊藤 | (笑) |
糸井 | ああいうことをしたいわけで。 |
大橋 | ああ、なるほど。 |
糸井 | その意味で、 「ああ、いいね、いいね」って 普通に言われてるものっていうのを作ると、 怒りに行くんですよ。 |
大橋 | ああ、なるほどね。 |
伊藤 | 私、今、いろんな会社や作家さんと組んで ものを作ってるんですよ。 その会社の人からは、 「こちらの材料の方が在庫が充分にあるので、 ぜひ使って欲しいのですが‥‥」と お願いされることがたまにあり、 「じゃあ、その素材にしましょうか」 となりかけるのですが、 いつもはたと、 「いや、でも、これを自分でお金出して買うかな」 と思って。 |
糸井 | ああ、そうなんですよね。 |
大橋 | うんうんうん。 |
伊藤 | お金を出しても買いたいものを 作ろうというのが基本で、 それって一番大事なことだなって。 「売れるかも」よりも、 「お金を出す」っていうのが大事だなあと。 でも、ものづくりってすごく大変ですね。 それをつくってもらう予定だった アジアの工場が急に倒産したりとか! |
糸井 | 事件が起こりますよね(笑)。 多分、この3人は、 それぞれ似たようなことをしてるんだけど、 大橋さんとぼくは決裁ができるんですよ。 ゴー、バックっていうのを 自分たちで言えるんです。 伊藤さんは多分、 誰かさんもう1人なり、もう5人なり、 最後に判を押す人が必要になるんですよね、 それがやがてどんどん年取ると ワガママになって、 「ぼくが決める!」(笑)。 |
大橋&伊藤 | ふふふ(笑)。 |
糸井 | 大橋さんがとうとう 『アルネ』まで行ったんだからね。 |
伊藤 | じゃ、わたしもどんどんワガママになって?! |
糸井 | なっていくんです。なるんです。 あるいは自分のワガママを全部消して、 消したんだけど売れたっていうのを 喜びにするか。 |
伊藤 | それは、多分、ならない。 |
大橋 | ならないね。 |
糸井 | 一致すれば一番うれしいですね。 うちは一致させやすい場所には いるんだと思うんですけど。 |
伊藤 | 勝手に自分の好きなもの作るのは、 できることですけれど、 それがすごく多くの人に認められるというのが 一致すると面白いですよね。 本を作ってても、 こんなふうに好きなことやっているのに、 重版がかかったと聞くと、 ほんとうにうれしい。 |
糸井 | いや、よくわかります。 好きだからやってる仕事ですからね。 売れるということは、 それをやってもいいよって言われた、 っていうことでもあるんです。 政治家が選挙で票もらったみたいなことですから。 自分が雇われてる時には、 「もっといいものを使って、 儲けなんかなくたっていいじゃないですか」 と平気で言えたんですけど、それを言っちゃうと、 身売りして稼いでるみたいなものですから、 本当の支持を得ることにはならなくて。 |
大橋 | そうですね。 |
糸井 | よそと組んでやる時、 例えば仮にS社の仕事をする時、 そのS社のお金について、 以前のぼくは、無頓着だったんですよ。 どこかにロケに行くについても、 S社が出すだけでしょ、 あいだに代理店がいるでしょ、 そうすると、そこはどうでもいいんですよね。 そして「こんなに赤字出しちゃった」っていうのが、 下手するとクリエイター同士の 自慢話だったりしたんです。 だけど、自分が決裁する側になり、 その赤字はどこかで誰かが働いて 取り返すんだと思うと、 そういうこと言えなくなるんですよね。 本当に一致させるってことは どれだけ大事かみたいなことを考えるんです。 うち、赤字出すプロジェクトさせないんです。 もし赤字出すっていうことがある場合は、 「お金では赤字だけど、目的は何だっけ?」と考えて、 その目的を達成したかどうかが問われる。 だけど、基本的には全部赤字を出さないように、 ひとりひとりが雇う側であり、雇われる側でもある。 みんなも、いまは全部知っていてやるけれど 最初は「そんなことまで私は考えるんですか」 ってきっと思ったに違いない。 そんなところで──、大橋さん、伊藤さん、 ありがとうございました。 こういういい機会でお会いできて 本当に助かりました。うれしかったです。 |
伊藤 | こちらこそありがとうございます! |
大橋 | ありがとうございました。 ──白いタオルはとにかく私たち(笑)。 |
伊藤 | はい。白い「やさしいタオル」が並んでる姿を 目に思い浮かべますね。白がバーッて! |
大橋歩さん、伊藤まさこさん、 お読みくださり、どうもありがとうございました! |