糸井 | ぼくは陸上のことはわかりませんけど、 「言える」と「できる」っていうスパイラルは すごく思い当たるんですよ。 じぶんにとってその発見がおもしろいから どんどん言いたくなるっていうのもよくわかる。 ただ、ひとつ大きく違うところがあって、 ぼくはそんなに追求しなくても平気なんですよ。 それは専門の領域がまったく違うから しかたないと思うんですけど、 「これはいま言ってもわかんないな」とか、 「ここは曖昧にしといたほうが ダイナミックレンジが広くなるな」とか、 そういうことについては、案外、 「言えない」ことのまま、置いといてる、 みたいなことがぼくの世界にはあるんですね。 |
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為末 | ええ、ええ。 |
糸井 | もちろん、為末さんは、 選手としての時間が限られているから、 「言いたい」「わかりたい」という気持ちが ぼくなんかとはまったく違うというか、 切実なんだろうと思いますが。 |
為末 | じぶんの時間が限られているからこそ 加速しちゃった、という感じはすごくあります。 競技とか、速く走るということって、 どんどんどんどん、こう、 中毒みたいになっていくところがありますから。 |
糸井 | そうか、そうか。 |
為末 | だからもう、考えて、やってみて、 わかったら言って、思いついたことも言って。 |
糸井 | 「言える」と「できる」がつながるから。 |
為末 | はい。どんどん、言うんですね。 だから、結婚してからは、 うちのかみさんとかは、たいへんで(笑)。 グランドに行っては、 なにか発見して帰ってきちゃうもんだから それをずっと言ってて‥‥。 |
糸井 | え、奥さんに言いますか。 |
為末 | やっぱり、話してましたけどね、それは。 |
糸井 | それは、でも‥‥聞いてくれますか? |
為末 | いちおう、聞いてましたけどね。 聞いてるふりかもしれないけど(笑)。 |
糸井 | ご家族は、もともと陸上やってた方ですか。 |
為末 | いや、ぼくの妻は、陸上はぜんぜん。 スポーツもそもそも関係ない人間なんですけど。 |
糸井 | それは聞いてくれるのは、いつまででしょうね。 |
為末 | はははは。 |
糸井 | はははは。 え、でも、ほんとですか、聞いてくれますか。 |
為末 | そうですね。 だから、こう、たとえば、ある日発見して、 「地面をこのへんで踏むと思ってたけど、 踏むっていうのはじつは もうちょっと早いタイミングだったんだ」 みたいな話を、延々と、 1時間くらい話すんですけど、 黙って聞いてくれてましたけどね、そのときは。 |
糸井 | それは‥‥「愛」ですね。 |
為末 | (笑) |
糸井 | 例えば、逆に、奥さんが 何かについて発見したっていう話を、 為末さんにとうとうと話すことがありますか。 |
為末 | ‥‥あんまりないですね。 なんか、自分の興味がある分野について、 まとめてしゃべったりすることはありますけど、 ぼくがあんまりそこに興味がなかったりすると 聞き流してるっていうか。 |
糸井 | ははははは。 |
為末 | 糸井さんは、家では? |
糸井 | ぼくはそこは、ほとんどしゃべらないですね。 |
為末 | そうなんですか。 |
糸井 | たまにどうしても言いたいっていうときには、 こう、まるで囲碁を打つかのように、 言いたいところからすごく遠く離れたところに 碁石を置いていって、なんとか囲い込んで、 「あ、そういえば、アレがさぁ」っていう(笑)。 |
為末 | ははははは。 |
糸井 | 「‥‥なんだよなぁ」って言って、 聞いてくれてなくても いいような角度でしゃべりますね。 |
為末 | なるほど。 独り言との境界ぐらいの感じで。 |
糸井 | そうそう、むしろ、独り言に近いぐらいで。 そうすると、向こうも、 聞いてるんだか、聞いてないんだか、 ぐらいの感じで、ななめに、否定もせずにいる。 |
為末 | なるほど。 |
糸井 | っていうのは、もう、 最高のケースといっていい。 |
為末 | (笑) |
糸井 | いやぁ、そうですか。 それは、しかし、すばらしいですね。 奥さんが聞いてくれる、っていう。 |
為末 | いやー(笑)。 だから、なんていうんでしょう、 ちょっと話がずれちゃうかもしれないですけど、 ぼく、ツイッターとかで何か言ってるときって、 じぶんは誰に話しているんだろう? って感じるんですよね。 その、相手がよくわからないというか。 |
糸井 | ああ、わかんないですよね。 |
為末 | 対象を誰にして話してるのか、 っていうのが、最初は戸惑うし、 ある意味では、そこがおもしろいし。 |
糸井 | やっぱり、漠然と、 「誰っていうことじゃない友だち」というのを、 仮想してるような気がしますね。 |
為末 | あー、なるほどね。うん、うん。 |
糸井 | 親しい、会ってる会ってないじゃなくて、 ある親しさを感じてる人が、漠然とそこにいて、 「飲み屋」とか「喫茶店」とかいう 言い方をぼくはしてるんだけど、 そこでみんなで集まってて、 「思ったんだけどさぁ」っていう。 で、その意味では、じぶんのツイッターなんかは 「自分のお店」だと思ってますから、 何かあったら足をすくってやろう、 みたいな悪意を持った人が店にいると、 なんかじぶんもお客さんも 互いに力が発揮できないというか、 場そのものがつまんなくなるんで、 そういうのは、もう、いなくなってもらって 構わないって、考えてますね。 |
為末 | ああ、はい。 |
糸井 | その点、為末さんは、なんというか、 きちんと答えてらっしゃいますよね。 こう、ぎりぎり、線のこっち側に、 そういう人もいていい場所をつくってる。 ああいう対応を見ていると、 やっぱり、この人は、教育者になれるなぁと。 |
為末 | そうですか(笑)。 |
糸井 | ぼくはもう、 老い先長くないせいかしれないけど、 それは無理だって思ってるから。 |
為末 | でも、ぼくもまぁ、ぜんぶじゃないですから。 わかりあえない人たちもいるから、 それがなるべくこう、 ぶつからないようにしているという面と、 おっしゃるようにギリギリのところにいる人に なんとか答えてみたり。 でも、やっぱり、手間というか、 時間はかかりますよね。 |
糸井 | かかります、かかります。 だから、為末さんも、 いまだからできるのかもしれないですね。 ほんとに競技にかけてる時期だったら、 その手間は、やっぱり、 頭の中が荒れるような気がするんですよ。 |
為末 | それはそうだと思いますね。 だから、スポーツの選手たちって、いま、 ソーシャルメディアを、 ファンとのコミュニケーションのツールとして みんな使いましょうって、 どちらかというと 推奨している感じだと思うんですけど、 その、向いてる人と、向いてない人がいて。 |
糸井 | はい、はい、はい。 |
為末 | そのへんのバランスは、スポーツマンにとって 難しいなというのはありますね。 |
糸井 | その人なりのつき合い方がありますよね。 同じツイッターをやるにしても、 たとえば、ダルビッシュ選手と 田中マーくんとでは、 距離感みたいなものがぜんぜん違いますし。 |
為末 | そうですね。 で、この人はやってないだろうな、 という人はやっぱりやってない。 イチローさんとか、やんなそうですもんね。 |
糸井 | そうですね。 イチローはしちゃダメでしょうね。 |
為末 | ね(笑)。 |