糸井 | スポーツ選手の場合は、 個人がじぶんを追求する一方で、 やっぱり「注目されながら生きている」 というのが難しいところですよね。 やっぱり、ちょっとそれは 「異様なこと」ですから。 |
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為末 | そうですね。 やっぱり、外から見られる職業ですから、 つねに「期待される」ということがありますし、 その姿をじぶんが演じきれない ということもありますし。 たとえ結果を出したとしても、 期待って、どんどん加速しますから、 そこは、なかなか難しい。 |
糸井 | ああ、そうですね。 ぼくは、為末さんたちみたいに、 一気に目玉がこっち向くことはないので 期待がすごく重くなったりはしませんけど、 なんというか、慣れてるつもりでも、 人間って、ほんとは、 慣れるもんじゃないという気がするんですよ。 |
為末 | そうですね。 |
糸井 | 見られる人間として生きるって 決めちゃった場合には、 演じること自体が好きになっていく ということはあるかもしれませんけど。 ぼくの場合は、演じるのがすごく苦手なんで、 影にいるときも、表でいるときも、 できるだけ同じでありたい。 そうすると、やっぱり、 「万人にわかってもらいたい」というのを なるべくやめるようにしよう、と。 |
為末 | ああーー。 |
糸井 | あとは、じぶんのことを、個人じゃなくて 組織の人格と重ねて表現してみたりね。 |
為末 | 「組織の人格」? |
糸井 | 為末さんでいえば、 「陸上競技」とか「ハードル」が 主語になったりするじゃないですか。 |
為末 | ああ、はい。 |
糸井 | ぼくもそうで、会社とか、 ほぼ日刊イトイ新聞っていうものを、 一人称にしてしまうと、 それをじぶんで応援するみたいなことは、 けっこう平気でできるんですよ。 そうやって、ちょっとずつずらしたところで、 ラクな場所からものを考えてみたり。 |
為末 | なるほど、なるほど。 |
糸井 | 為末さんの場合は、どうなんですか。 そもそも最初からこういう、 人の注目を集めるようなことを やりたいと思っていたんですか。 |
為末 | うーん‥‥なんというか、 陸上競技をやっていくうえで、 ヒーローになりたいという気持ちはありました。 |
糸井 | あ、そうですか。 |
為末 | ぼくは広島出身なんですけど、 やっぱり、まわりに 野球をやってる子たちがたくさんいて、 そういう子たちが将来どうなりたいかというと、 すごく明確なんですね。 毎日のようにテレビで カープの試合をやってますから、 つまり、ああなりたい、と。 大観衆の前で、プロとして活躍したい、と。 一方、陸上競技というのは、 当時の日本選手権で 観客がだいたい2000人くらい。 そういう中で走るっていうのが 陸上選手としての頂点だったんです。 そこに物足りなさを感じていたので、 こう、ヒーローになりたい、有名になりたい、 という思いは強かったと思います。 |
糸井 | うん、うん。 |
為末 | そんな感じでずっとやってきて、 世界選手権でメダル取ったぐらいから (2001年世界陸上エドモントン大会 400mハードルで銅メダルを獲得)、 陸上競技場の外の人たちにも 自分が知られるようになっていった。 そのへんまでは、ぼくは、じぶんが ヒーロー気質だと思ってたんです。 むしろ、向いてるんじゃないかと。 |
糸井 | じぶんでふつうにそう信じてたわけですね。 |
為末 | はい。でも、テレビに出たりすると、 そういうヒーローの人たちって、 すごくいっぱいいるじゃないですか。 |
糸井 | はい。 |
為末 | いちばん最初にぼくがくじけたのは、 バラエティー番組に呼ばれて出たときに、 まったくついて行けなかったときです。 こう、お題が振られて、 それにすごく上手に返す人がいて、 でもぼくは、どの役にもなれなくて、 ぽつんと座ってたんですね。 で、いまじぶんが、テレビの中に 座って映ってるんだなっていう 不思議さを感じていたり‥‥。 そういうことがあるうちに、 どうも、ぼくは有名になりたいと思ってたけど、 そういう能力はないというか、 あんまり向いてないんだな というのがわかってきた。 それでも、何回かチャレンジしたんですけど、 やっぱり能力はないんだな、というのを、 なんか、ここ1、2年ぐらいで、わかってきて。 |
糸井 | あ、ここ1、2年なんですか、それは。 |
為末 | ええ。 それまではやっぱり、もうちょっとなんか、 いわゆる、なんでもできる、かっこいい状態に なりたいと思ってたんですけど。 |
糸井 | たぶん、そっちは、無理にでも 「行こう!」って決めたら、なれますね。 |
為末 | あー、そうですか。 |
糸井 | そこは、じぶんの名刺に どっちで印刷するかじゃないかなぁと思う。 つまり、「テレビタレント為末大」って書いたら なっちゃうと思いますよ。 でも、為末さんはそこに 魅力を感じなかったんじゃないかなぁ。 |
為末 | ああ、そうかもしれませんねぇ。 でも、できなかったですね、テレビは。 |
糸井 | ぼくも、いま、 テレビはもう、まったく無理です。 |
為末 | そうですか。 |
糸井 | NHKは、こういう、できないぼくを、 できないという素の状態で呼んでくれるので まだなんとかなりますけど、 民放はもう、まったくできないですね。 |
為末 | ぼくもできなかったですね。 なんというか、陸上競技って 基本的には個人競技だから、 多人数の中で上手に切り替えていくというのが あんまり得意じゃないのかもしれないですね。 |
糸井 | あー、そうか。 |
為末 | あと、ぼく、ジャンプ力とかはあるんですけど、 反射神経がじつはすごくないんですよ。 |
糸井 | ほう。 |
為末 | 陸上選手の中でも、一番ぐらい、反応が遅い。 ライトが点いて、それにパッと反射するまでの 時間を測定するテストがあるんですけど、 ふつうの人はだいたい0.3秒くらいで反応して、 スプリンターだと0.2秒を切るくらいなんです。 ぼくは、数字は忘れちゃったんですけど、 女子柔道の柔ちゃんといっしょに測ったら ぜんぜん遅くて、女子のバスケット選手よりも ちょっと遅いくらいの反射速度だった。 |
糸井 | へーー。 |
為末 | だから、体の性能はいいんだけど、 レスポンスはめちゃくちゃ悪い。 一回跳ぶって決めたらドーンと行けるんだけど、 身体的な瞬発力はないんです。 なんか、頭の回転についても 同じなんじゃないかと思ってて、 テレビの番組とかだと、聞かれたことに 考えているうちにどんどん流れていっちゃう。 得意じゃないなぁ、と思ったんですよね。 |
糸井 | というか、それ、得意な人がいすぎですよね。 |
為末 | そうかもしれない(笑)。 |