糸井 | 陸上以外のスポーツが陸上に役立つ、 みたいなことって、あるんですか? |
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為末 | ありますよ。 あのー、たとえば、どういうんですかね、 走るときって、こう、足が前に出るときの速度が 最高スピードに影響するんですね。 で、格闘技を観ていたときに、 すごく強いキックをする選手は、 蹴る足と同時にものすごく速く 腕を後ろに引くんだな、と思って。 |
糸井 | ああ、右足で蹴るときには、 同時に右腕をすごく速く引く。 |
為末 | そうです、そうです。 よく見ると、サッカーでもそうなんですね。 キックするときは、こう、 同じくらい速く、強く、腕を引く。 で、ぼくらは走るときに 足を出そう足を出そうと思ってたけど、 じつは、腕を引くということが 足を出すっていうことじゃないかと思って、 意識的に腕を引く練習をしたんです。 それで足の出というか、回転がよくなった ということはありましたね。 |
糸井 | 腕を引く動きを回転に変えるんですか。 |
為末 | ええ。 腕をこう、ぐっ後ろにと引っ張ると、 勝手に腰がこう回るんですよ。 そのエネルギーを使って足を出す、 というか、ひざを出すんですね。 だから、ひざを出すスイッチが、 ひざじゃなくてひじにある、みたいな。 |
一同 | おおーー。 |
為末 | そういうことはけっこう、あって。 |
糸井 | それ、格闘技を見て思ったんですか。 |
為末 | ええ。 足で蹴ってるのか、 手で引いた反動で蹴ってるのか、 っていうときに、ま、両方なんでしょうけど、 じつは、手の役割って 小さくないんじゃないかと思って。 そう考えると、黒人選手の背中って、 ものすごくでかいんですね。 やっぱり、腕を引く筋肉がついてるから。 |
糸井 | ああー。 |
為末 | それで、「上半身だ!」と思って 鍛えていた時期があったんですけどね。 |
糸井 | それはうまくいったんですか。 |
為末 | そのときは、うまくいきました。 でも、やり過ぎちゃうと、 今度は体が大きくなりすぎてしまうんです。 |
糸井 | 重くなっちゃう。 |
為末 | ええ、バランスが悪くなってしまう。 体のバランスって、すごく大事なんです。 たとえば野球のバットって、 ひっくり返してグリップを上にして、 太いほうを持つと、 振りやすくなるじゃないですか。 根元が太くて末端が細いと振りやすいんですよ。 ところが、我々みたいなモンゴロイドって、 ふくらはぎが大きくなりがちなんで、 振りまわす先端が重たくなっちゃう。 |
糸井 | あぁーー、うんうんうん。 |
為末 | だから、どうやったら 「先端を細くした状態で、 根本を大きくするか」っていうのは、 いつも考えてましたね。 |
糸井 | こう、手足が円錐形になってるのが 理想的なんですか。 |
為末 | そうです、そうです。 だから、いま100メートルの 決勝の選手なんか見たら、 もうみんな、ひざから下とか、 手の先はスッと細くなってる。 で、根元が太いんですよね。 あれがたぶん、一番速く、 手足を回転させられる体型なんだろうなと。 |
糸井 | なるほど、なるほど。 |
為末 | とはいえ、なかなか体型は変えられないので、 練習で工夫しながらやってましたけどね。 |
糸井 | なんていうんでしょう、 それは、じぶんでおもしろいんでしょうねぇ。 |
為末 | おもしろかったですね。 だって、なんかじぶんでF1カーつくってる みたいな感じですからね。 |
糸井 | そうですよね。 で、体型を練習で変えられるような メソッドが開発されていくわけでしょ。 どっかのコーチが考えたり、 ある国ではじまったことが流行ったり、 それが流行遅れになったり。 |
為末 | そうです、そうです。 |
糸井 | それがまたおもしろいですよね、きっと。 |
為末 | おもしろいですね。 たとえば、カール・ルイスって、 スタートのときに頭を起こして走ったんです。 当時はみんなそうしてたんですが、 あるコーチは、ヘッドダウンっていうんですが、 スタートしたときに頭を起こさないほうが 地面を踏むときに絶対有効なはずだって言って ずっとそのやり方を試してたんです。 でも、陸上の世界って、やっぱり、 タレントに会わないと、 理屈が証明されないんですよ。 で、そのコーチは モーリス・グリーンという選手に出会って、 その走り方がいいっていうことを証明して、 今度は世界中の選手たちが スタートで頭を下げはじめたんです。 |
糸井 | おもしろいなぁ(笑)。 |
為末 | そういうのが、けっこう、 世界のあっちこっちで。 |
糸井 | いまも。 |
為末 | そうですね。 |