糸井 | 「こうなれば速くなる」っていう理屈があっても 誰かが実際に速く走って 証明しないといけないっていうのは、 おもしろいですね。 つまり、仮説を持ってる人は、 モデルをつくらなきゃならない。 つくるというか、まず出会わないといけない。 |
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為末 | そうなんですよね。 だから、スポーツ以外の世界だと、 仮説があったらすぐ実験できるんですけど、 陸上なんかだと、それを試すにも そうとうな才能が必要なわけで。 だから、革新的な理論を持っていたけど、 すごい選手に会わなくて、 消えていった仮説もあると思うんです。 |
糸井 | それもおもしろいなぁ。 でも、コンピュータとか 3Dの分野で研究が進んでいくと、 数値をぜんぶインプットして 仮説を現実の動きに近づけていく、 みたいなことが、どんどん できるようになっていくかもしれませんね。 |
為末 | そうなってくるかもしれません。 |
糸井 | 風洞実験みたいなやつを、 コンピュータ上でやればいいんですもんね。 |
為末 | 「足だけ」とかだったら、 いまもできるんですけどね。 でも、人体って、複雑すぎるんですよ。 こう、胴体があって、骨盤があって、 そこに足がついてて‥‥。 横から見た動きだけなら まだなんとかなるんですけど。 |
糸井 | そうなんですか。 |
為末 | 人間って、落ちてきた体重で、 足が潰れて、それで溜まったエネルギーが ぽんと弾かれて進むんですよ。 あの、ドクター中松さんの ジャンピングシューズってあるじゃないですか。 あれがポンと跳ねる理屈と似ていて、 足をこう固めて地面に下ろすだけで、 アキレス腱とかがうまく働いて 弾いて、進んで行く。 |
糸井 | うん、うん。 |
為末 | 横の動きの解析はそれで説明がつくんです。 ところが、縦の動きになると 骨盤があるんで、かなり難しい。 たとえば、足がドンと接地した瞬間に、 骨盤がこう‥‥。 |
糸井 | 沈む? |
為末 | 沈んじゃうんですね。 で、逆に、沈ませないようにするために 働く関節もいっぱいあって‥‥。 |
糸井 | ああ、そうか、 それは想像するだにややこしそうな。 |
為末 | もしそれが解析できたとしたら、 そうとうおもしろいんですけどね。 足だけとか腕だけの解析は進んでますから。 |
糸井 | 誰か、どっかのバカが‥‥ いや、どっかの天才が、 関節の数も筋肉の動きもぜんぶ入れた シミュレーターみたいなものをつくって、 簡単に仮説が試せるようになったら みんな食いつくでしょうね。 |
為末 | 食いつくでしょうね。 で、どの筋肉をどの筋肉がどう支えてるか、 みたいなことがだんだん解析されてきたら、 実際の記録はどんどん縮まると思います。 |
糸井 | じゃ、たとえば、100メートルの記録が‥‥。 |
為末 | 9秒3とか行っちゃうかもしれない。 |
糸井 | おおーー。 そういえば、為末さんはよく、 義足が進化していくと パラリンピックの記録のほうが よくなるだろうって言ってますけど、 ぼくもそう思うんです。 |
為末 | はい。 いま、義足をつけた幅跳びの記録が 7メートル95まで来てるんですけど、 日本記録は8メートル25なんですね。 それはドイツの白人の選手なんですけど、 でも、もう跳び方が、なんか、 スッポーンって感じで跳んでるんで、 8メートル50ぐらいまでは、 行っちゃうと思うんです。 で、陸上の世界って、 黒人選手のポテンシャルがかなり高いので、 もっと記録は伸びる可能性があって。 だから、2020年の東京オリンピックのときに、 幅跳びぐらいはもう、 パラリンピアンのほうが 上回ってるかもしれないですね。 けっこうそれはたのしみなんですけど。 |
糸井 | 100メートルなんかも? |
為末 | このままいくと、もっと速くなりそうですね。 まぁ、100メートルは、 10年後っていうのは難しいでしょうけど、 20年、30年経ったら、100メートルのほうも、 パラリンピアンのほうが 速くなる可能性があると思います。 |
糸井 | はーー。 いやぁ、まだまだおもしろいですね。 そういう進化もあるし、 トレーニングの方法とか、 理論の進化もあるでしょうし。 |
為末 | ええ、もっともっとあると思いますよ。 |
糸井 | まだまだ、そういうおもしろいことがいっぱい。 |
為末 | あると思いますね。 |