第8回 9秒3とか行っちゃうかもしれない。
糸井 「こうなれば速くなる」っていう理屈があっても
誰かが実際に速く走って
証明しないといけないっていうのは、
おもしろいですね。
つまり、仮説を持ってる人は、
モデルをつくらなきゃならない。
つくるというか、まず出会わないといけない。
為末 そうなんですよね。
だから、スポーツ以外の世界だと、
仮説があったらすぐ実験できるんですけど、
陸上なんかだと、それを試すにも
そうとうな才能が必要なわけで。
だから、革新的な理論を持っていたけど、
すごい選手に会わなくて、
消えていった仮説もあると思うんです。
糸井 それもおもしろいなぁ。
でも、コンピュータとか
3Dの分野で研究が進んでいくと、
数値をぜんぶインプットして
仮説を現実の動きに近づけていく、
みたいなことが、どんどん
できるようになっていくかもしれませんね。
為末 そうなってくるかもしれません。
糸井 風洞実験みたいなやつを、
コンピュータ上でやればいいんですもんね。
為末 「足だけ」とかだったら、
いまもできるんですけどね。
でも、人体って、複雑すぎるんですよ。
こう、胴体があって、骨盤があって、
そこに足がついてて‥‥。
横から見た動きだけなら
まだなんとかなるんですけど。
糸井 そうなんですか。
為末 人間って、落ちてきた体重で、
足が潰れて、それで溜まったエネルギーが
ぽんと弾かれて進むんですよ。
あの、ドクター中松さんの
ジャンピングシューズってあるじゃないですか。
あれがポンと跳ねる理屈と似ていて、
足をこう固めて地面に下ろすだけで、
アキレス腱とかがうまく働いて
弾いて、進んで行く。
糸井 うん、うん。
為末 横の動きの解析はそれで説明がつくんです。
ところが、縦の動きになると
骨盤があるんで、かなり難しい。
たとえば、足がドンと接地した瞬間に、
骨盤がこう‥‥。
糸井 沈む?
為末 沈んじゃうんですね。
で、逆に、沈ませないようにするために
働く関節もいっぱいあって‥‥。
糸井 ああ、そうか、
それは想像するだにややこしそうな。
為末 もしそれが解析できたとしたら、
そうとうおもしろいんですけどね。
足だけとか腕だけの解析は進んでますから。
糸井 誰か、どっかのバカが‥‥
いや、どっかの天才が、
関節の数も筋肉の動きもぜんぶ入れた
シミュレーターみたいなものをつくって、
簡単に仮説が試せるようになったら
みんな食いつくでしょうね。
為末 食いつくでしょうね。
で、どの筋肉をどの筋肉がどう支えてるか、
みたいなことがだんだん解析されてきたら、
実際の記録はどんどん縮まると思います。
糸井 じゃ、たとえば、100メートルの記録が‥‥。
為末 9秒3とか行っちゃうかもしれない。
糸井 おおーー。
そういえば、為末さんはよく、
義足が進化していくと
パラリンピックの記録のほうが
よくなるだろうって言ってますけど、
ぼくもそう思うんです。
為末 はい。
いま、義足をつけた幅跳びの記録が
7メートル95まで来てるんですけど、
日本記録は8メートル25なんですね。
それはドイツの白人の選手なんですけど、
でも、もう跳び方が、なんか、
スッポーンって感じで跳んでるんで、
8メートル50ぐらいまでは、
行っちゃうと思うんです。
で、陸上の世界って、
黒人選手のポテンシャルがかなり高いので、
もっと記録は伸びる可能性があって。
だから、2020年の東京オリンピックのときに、
幅跳びぐらいはもう、
パラリンピアンのほうが
上回ってるかもしれないですね。
けっこうそれはたのしみなんですけど。
糸井 100メートルなんかも?
為末 このままいくと、もっと速くなりそうですね。
まぁ、100メートルは、
10年後っていうのは難しいでしょうけど、
20年、30年経ったら、100メートルのほうも、
パラリンピアンのほうが
速くなる可能性があると思います。
糸井 はーー。
いやぁ、まだまだおもしろいですね。
そういう進化もあるし、
トレーニングの方法とか、
理論の進化もあるでしょうし。
為末 ええ、もっともっとあると思いますよ。
糸井 まだまだ、そういうおもしろいことがいっぱい。
為末 あると思いますね。
(つづきます)
2014-09-09-TUE