みなさんは、壁画『明日の神話』のことを、
ご存知でしたよね?
(知らない、という方は、どうぞ
 「ほぼ日」内にある
 「『明日の神話』再生プロジェクト」のページ
 見てみてください)
『明日の神話』は、
岡本太郎さんが38年前に描いた、
左右30m、高さ5.5m、重さ14tの巨大壁画です。
モチーフは、「原爆よりも強い人間の生命」だとも
言われています。
その迫力は、太郎同時期の作品でもある
万博の『太陽の塔』を凌駕するほどの大きなものです。
しかも、物理的な大きさも大きい!
学校のプールぐらいの長さで、
ゾウ3頭分ぐらいの重さ‥‥なんです。
事情があって、長いあいだ行方不明になっていました。
その壁画が損傷を受けた姿で2003年に発見され、
修復を受けて、2006年(つまり今年)の夏に
東京で公開されようとしています。



←岡本太郎さんは、この人です。
画家なのに絵を売らない人、でした。
ですから、大壁画『明日の神話』も、
値段がつけられて
誰かに「売られる」ことはありません。
そして、この壁画、
公開されることは決まっていても、
最終的な設置場所も持ち主も、決まっていません。
そんな状態で、お金の目処も立たないままに、
修復は進んでいます。

糸井重里と、わたしたち「ほぼ日刊イトイ新聞」は、
この壁画の修復や展示について、
少しでも力になりたい、と、ずっと思ってきました。
(「ほぼ日」では、2004年にTARO-Tシャツを販売し
 その利益を、壁画の運搬費に充てました)
 また、「ほぼ日」には、この壁画の再生のために、
少しでも力になりたいという申し出が、
たくさん寄せられていました。
岡本太郎さんの養女・岡本敏子さんから、
昨年(2005年)の4月20日に亡くなる前に、
「しっかりたのむわよ!」と言われたこともあって、
たくさんの人が参加できる、たのしいことで、
しかも岡本太郎さんが喜ぶようなことで、
『明日の神話』再生を実現したいと考えてきました。


『明日の神話』の再生のために、
どんな活動がふさわしいか、
ずっと考えていた糸井重里は、
『TARO MONEY』と名付けられたコインをつくり
「ほぼ日」が販売するということに企画しました。
もちろん国が発行するコインとはまったく別のものです。
正式な意味では、「装飾品」「美術品」
ということになりましょうか。
つまり、使い方は買い取った方の自由。
そして、その販売による利益
(売り上げから原材料費と梱包費を引いたもの)を
すべて『明日の神話』の修復と運搬、
保管、展覧の費用に充てようというわけです。

たくさんの人にコインを手にしてもらって、
たくさんの寄付をしたい。
そのコインは、日本中のあちこちで、
「なにそれ?」「岡本太郎のね‥‥」「あげるよ」
「ありがとう」というような会話を生みながら、
『もうひとつの通貨』気持ちのやりとりの道具として、
広がっていくんだ‥‥。
糸井とわたしたちは、興奮しました。
でも、ここでひとつ、
お金の問題が浮かび上がったのです。
お金で「お金」を買ってもらって、
お金を寄付しようとしているところで、
とても現実的なお金の問題です!


日本の法律では、
寄付をするときには、これが
あるところからあるところへの「贈与」とみなされ、
税金がかかります。
(法律で認められている団体への寄付は
 特別に税金が免除されますが、
 この場合は、これにあたりません)
TARO MONEYの合計の売り上げが決定しないと
正確な計算はできないのですが、
利益のうち、おそらく40%ほどの額を、
税金として国に納めることになりそうです。

TARO MONEYが1セット2000円で販売されるとして、
原材料費が1セット800円だとします。
その差額の1200円が
『明日の神話』に寄付されることになりますが、
税金がかかると、
1200円の40%程度にあたる、
480円ほどが税金となって、国に納められます。
したがって、実際に『明日の神話』に役立つのは
約720円になります。








税金として納めたあと、
そこからどのようにお金が使われるかは、
当然のことながら関与ができません。
ひとりの方の払ってくださった
2000円のうち約480円(24%ほど)は、
TARO MONEYでも『明日の神話』修復でもない、
別の使い方をされることになります。
道路なのか、建物なのか、給料なのか‥‥
それが悪いことじゃないとは信じますが、
寄付した人にとっては、「ちがうことに使われる」
という思いは残るかもしれません。

『明日の神話』に寄付するつもりで
TARO MONEYを買ったのに、
480円が、まったく別のことに使われる。
このことについて、
TARO MONEYを買ってくださるみなさんは、
どう感じるのだろう、と、わたしたちは考えました。


この税金がかからないようにする方法も、
あるといえばあるようです。
それは、『明日の神話』を修復するための道具代や
運搬にかかる費用を
『TARO MONEY』の収益で支払い、
株式会社東京糸井重里事務所の経費として
税務署に申告する、という方法です。
(なにしろ絵が巨大ですので、
 例えば、修復のための筆は、
 完成までに約1400本が必要になる予定です。
 また、絵をトラックから地面に降ろす際など、
 ちょっとした位置の移動にもクレーンが必要となります。
 近くから降ろす場合は5tクレーン、
 少し離れた道路から降ろす場合は
 長い腕を持つ25tクレーンや
 35tクレーンが必要です。
 それらのすべてに大きな費用がかかります)

この場合も、たとえそれが筆や運搬費であっても
「ものをあげること=贈与」となるので、
本来ならそこに、税金が発生します。
そのため、これを経費として計上するためには、
“『明日の神話』を応援することは、
 ほぼ日刊イトイ新聞の広告宣伝のためであり、
 筆などを買ったのは、その経費である”
という名目で申請することが必要となります。

ここで、わたしたちは、もういちど、考えました。

『明日の神話』を応援することは、
「ほぼ日」を広告するためだったのかなぁ?
わたしたちは、何を目的にして、
岡本太郎のコンテンツを続け、
『明日の神話』の再生を支援しようと
しているのでしょうか。

それは、糸井重里と「ほぼ日」が
岡本太郎さんを好きで、
太郎さんの表現したかったことを
たくさんの人々に伝えたいからであり、
そして、岡本敏子さんに出会って、
『明日の神話』が展示されるように
みんなで力をあわせてほしいと
手をとって頼まれたから、です。
「ほぼ日」をPRしたいからという理由で
出発したわけではなかったのです。
いわゆる「営業的な目的」のないことだって、
人や組織はするものだとも思うのです。
真剣に頼まれたことだし、
ほんとうに手伝いたいと思ったのですから。

そう考えると、

1.TARO MONEYを買ってくれた人たちのお金が
 たくさんの税金というかたちに姿を変えて、
 他の使われ方をすること。
 
2.『明日の神話』を応援することが、
 「ほぼ日」のPRであるということに決めること。

 
どちらも、しっくりとしません。
会計士さんや税理士さんといろいろお話をしてみても、
このどちらかしか、方法はないようです。
なんだか答えの見えにくい、苦しい二者択一です。


ここで、わたしたちは、
「ほぼ日」をお読みになっているみなさんに、
お金のことをすべてお知らせして、
みなさんとこの問題を共有し、
ご意見をお訊きしたい、と思いました。

みなさんは、『TARO MONEY』について、
どう思われるでしょうか?
どの道が「ほぼ日」に、ふさわしいでしょう?
そのほかにお感じになったこと、よろしければ
どうぞ自由に、気軽に、
postman@1101.comまでお送りください。
(いただいたご意見はこのページでご紹介することがあります)
みなさんのご意見をうかがったうえで、
ほかの方法もできるかぎり模索して、
寄付のしくみを、これから、
決めていきたいと思います。

この問題をかかえたうえで、
『TARO MONEY』は、今日、スタートします。
2月26日の今日は、岡本太郎の誕生日です。
生きていれば、95歳。
太郎はいつも、わたしたちに
試練を与えてくれるようです。
「そうだ、そこから飛べ!」とばかりに。

『TARO MONEY』の販売は、
4月中旬〜下旬を予定しています。
※5月上旬に変更になりました。
次回、『TARO MONEY』とはいったいなんなのか、
その詳細について、お知らせしていこうと思います。
かっこいいですよ、太郎のコイン!
では、また次回!


2006-02-26-SUN