南 |
最近、似顔絵っていうのがさ、
似てても当たり前になっちゃった。
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糸井 |
え、どういうこと?
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南 |
昔はね、似てる似顔絵を見ると、
わぁ、似てる似てるって
笑ったりしたんだけどさ、
自分が仕事で描いてるからかなぁ
その、似てて笑っちゃうっていう感覚が
わかんなくなっちゃった。
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糸井 |
ほう、ほう、ほう。
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南 |
いま、似てる似顔絵を見ても、
うまいなって感心するけど、
笑ってないの。
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糸井 |
あーー、なるほどね。
わかるような気がするわ。
昔はそれ、素直に思ったよね。
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南 |
素直に笑ってた。
笑うの好きだからさぁ、
笑うタネがへっちゃって
さびしい(笑)。
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糸井 |
そうだねぇ。
あの、写楽がね。浮世絵の。
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南 |
うん。
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糸井 |
NHKの番組で言ってたんだけど、
写楽が江戸時代に役者の絵を描いたとき、
あんまり似てたんで、
描かれた本人にいやがられたらしいんだよ。
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南 |
はいはい。
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糸井 |
記録にも残ってるんだよ、その評判が。
あまりにも写しすぎるんで、みたいな。
つまり、簡単にいうと、そのころの人々は、
人を描いた絵に対して、
似てなくていいと思ってた。
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南 |
そうそうそう。
だいたい顔を似せようって考え方が
あんまりなかったみたいね、昔は。
似せようとか努力してない。
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糸井 |
だから、たとえば、
ある役者さんの絵を描いたとき、
まったく似てないんだけど、
絵の出来映えとしてはすばらしい、
っていう肖像画が描かれたとすると、
それを人々は「いい!」って言ったんだろうね。
似てる、似てないじゃなくて。
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南 |
うん。
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糸井 |
いまだったら、それは
いやがられるだろうねぇ。
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南 |
うーん、でも、よく描いてあると、
ぜんぜん似てないんだけど、
喜ぶ人はいるかもしれない(笑)。
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糸井 |
それも、それも、
似てるとか似てないとかいうこととは
まったく違う話だよね。
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南 |
そうだねぇ。
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糸井 |
あの、舞妓さんがさ、
おしろいをぺったぺたに塗るじゃない。
あれって、似顔絵の概念からすると、
あらかじめ外れるわけだよね。
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南 |
そうね、とりあえず、みんな同じにキレイ。
写楽のやったことっていうのはさ、
舞妓さんの顔、ひとりひとりよーく見て、
「みんな同じようだけど、
よーく見るとこうなってる」って。」
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糸井 |
そうそうそう、みんな違うぞと。
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南 |
たしかにそうなんだ、
いくら塗ってあっても
本人の顔は透けてくるから‥‥
キレイにしたつもりなんだから
それ描かれた人はやだよね。
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糸井 |
そういうこと。そういうこと。
いや、もう、どうしよう。
もういいこと言いまくりじゃん、オレら。
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一同 |
(笑)
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南 |
アハハハハ。
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糸井 |
もう、黙っとこう。
怖い、自分の教養が。
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南 |
尽きたんじゃなかったの、教養?
(ぼちぼち終わりに向けて。つづきます) |