黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第11回 セミについて。
糸井 セミの抜け殻をさ。
うん。
糸井 セミの抜け殻を、去年の夏、
部屋の壁につけといたらさ、
いまだにくっついてるんだよ。
セミの抜け殻? どういうこと?
糸井 セミの幼虫をね、
こう、木の根元を這ってたやつを採ってきて、
うちで羽化させたのよ。壁につかまらせてさ。
へぇ。
糸井 で、ふつうにセミになってね。
外へ放してあげたわけ。
そうすると、抜け殻だけが残るわけだよ。
けっこう高い位置でさ。時計の横かなんかで。
うん。
糸井 簡単に手の届く場所でもないし、
どうしたもんかなと思ったけど、
ま、記念に、と思って、そのままにしといたの。
どうせ嫁がいやがって捨てるだろうと思ったし。
うん。
糸井 ところが、意外と、そういうものを
大事にする人なのか知らないけど、
ずっとそのままでさ。
ひと夏終わって、冬がきて、
気がつくとまたつぎの夏が過ぎちゃって、
まだうちの壁にいるんだよ。
うーん。そりゃ、取らなきゃいるやねぇ。
糸井 取らなきゃいる、そうそうそう(笑)。
だからね、ここ1年くらい、
時計見るときにいつも見てるんです。
抜け殻もいっしょに。
糸井 うん。
あのさ、セミって、鳴くのはオスだけなんでしょ。
糸井 そうです。
で、鳴かないセミっていうのは、
あんまり見ないよね。
‥‥どこにいんの?
一同 (笑)
つまりさ、鳴いてるから、こう見るわけで。
で、見ると、いるので、
「あ、セミだ」って思うんだが、
つまり、それはオスなんだね。
糸井 たださ、オスにしたって、
四六時中鳴いてるわけでもないからさ、
鳴いてないセミがいたとしても、
それは鳴かないメスなのか、
休憩してるオスなのかは、わかんないぜ。
ああ、そうかそうか。
なんだか、わかんなくなってきたな。
どっちにしろ、セミのメスを見る機会は少ないね。
糸井 いや、私はね、大いに見てますよ。
お、セミのメスを?
糸井 そうです。
もうね、私に言わせればね、
セミの半分はメスです。
ははははははは、くだらないね。
一同 (笑)
糸井 真面目な話をするとね、
子どものいる人は、見ると思うよ。
なぜかというと、
いっしょに捕りに行くからさ、セミを。
ああ、はいはい。
糸井 とくに、子どもが幼いころはさ、
セミを捕ったりすると、尊敬されるから。
だからもう「見ていろ」ということで、
どんどん捕るわけだ。
そうすると、すーごく、
「かっこいい!」って思われちゃうわけ。
うん、そりゃそうだ。
糸井 だからもう、バンバン捕って、
こんなにいらないじゃないか、
っていうくらい捕って、
「こんなにいらないじゃないか」
って自分で言って、
男らしくバーンとセミを逃がしたり、とか。
マッチポンプだね。
糸井 マッチポンプ、マッチポンプ(笑)。
そんなに捕ってたんだね。
糸井 佃煮にするほど捕ります。
そうすると、鳴かないセミも。
糸井 たくさんいますよ。注意深く、見てください。
じゃ、今度の夏は、そういうつもりで見てみます。
糸井 ぜひそうしてください。
だから、なんていうのかな、
ミーンと鳴いたから見る、
という受動的なセミ見じゃなくてね。
「セミ見」(笑)。
糸井 花を見るのが「花見」なら、
セミを見るのは「セミ見」でしょう。
もっと能動的な「セミ見」をするべきだと。
糸井 そうそうそう。
ぼくなんかは、去年、夜中に懐中電灯持って、
セミの羽化を見に出かけたりしましたからね。
そうとう好きなんだね、セミが。
糸井 なんだか総合すると、そういうことになるね。
だいぶ好きだよ、セミが。
夜中にでかけるわ、佃煮にするわ、
壁に抜け殻を一年中ぶらさげとくわ。
糸井 佃煮にはしてないよ。
とにかく、熱心だよ。
糸井 そうかな。そんなことないでしょ。
まぁ、いってみれば‥‥セミプロ?
言うと思ったけどね。
糸井 ともかくね、
セミの羽化というのはなかなか神秘的なんだ。
夜中に地面を照らしてみると、
穴から出てきたばかりの、
こう、緑色っぽいような、黄色っぽいような、
生命の重さと存在感のある抜け殻が
地面を這ってるわけだよ。
抜け殻?
糸井 中身のある、抜け殻。
それ、中身が入ってるときは、
抜け殻って言わないよ。
糸井 生抜け殻。
まぁ、いいや。わかるよ、言ってることは。
糸井 うん。それがね、
木の根元をウロウロと歩いてるんです。
で、枝を照らすっていうと、
多い場所ではひとつの枝に
何匹も何匹もセミがつかまってる。
へぇー。
糸井 で、そこで、めいめい、セミになってね。
こう、羽を伸ばしたり、乾かしたり。
そうそう、あの羽は、
乾かさないといけない感じだよね。
ヨレヨレのシワシワだもんね。
糸井 うん。
だから、真ん中にヨレヨレのセミがいて、
まわりでほかのセミが、
「ふぅー、ふぅー」って吹いてるの。
‥‥ああ、そう。
糸井 ほかのセミが、「ふぅー、ふぅー」。
お互いにね、助けあってね。
糸井 うん。先に乾いたやつが、
あとから出てきたヨレヨレを
助けてあげるわけだね。
「オレもやってもらったからさ」って。
ずいぶん協調性があるね。
糸井 あるよー。
なんせ、土の下で7年も
友情をはぐくんできたからさ。
ああ、そう。
(つづきます。おわりません)

2009-10-12-MON

前へ 最新のページへ 次へ

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN