黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第13回 天狗、幼稚園に現る。
とある幼稚園でね、
昼寝の時間に起きてる子を
おどかしちゃったことがあるんだよ、オレ。
糸井 それはなに? 大人になってから?
うん。オレはほら、仕事上、
いろんな人になるでしょ?
糸井 はい(笑)。
で、天狗だったときもあってさ。
糸井 わはははは。
要するに、顔を真っ赤に塗ってね、
鼻は発泡スチロールでつくって、
両面テープでくっつけて、羽団扇も持って、
山伏っぽい格好して、一本歯のゲタも履いて、
完全装備の天狗になった。
糸井 「完全装備の天狗」(笑)。
で、群馬県にさ、
天狗で有名な山があるじゃない。
糸井 迦葉山(かしょうざん)。
そうそう、迦葉山。
迦葉山に行って、天狗になったわけですよ。
糸井 うん。
で、まぁ、写真を撮ったりしてたんだけど、
そのときに、衣装担当でもあり、
カメラマンでもある妻がね、
「天狗っていったら、やっぱり、
 村に下りていって、
 子どもをかどわかしたりするんじゃない?」
って、こう言うわけだ。
一同 (笑)
「じゃ、行ってみよう」ってことになってさ、
ウロウロしてたら、いい案配に幼稚園があったの。
で、その園庭のところにこう、
天狗として、近づいていってね。
糸井 ふふふふ、ふふふ。
そしたら、どうやら、お昼寝の時間でさ。
みんなが寝てるなか、
窓の外を見てる女の子がいたんだよ。
ほかのみんなは、寝てんだよ。
で、その女の子が、眠れずに、
ひとり窓の外を見てると、
そこに‥‥天狗が立ってる。
糸井 はははははは。
天狗のオレが、
こういう状態で(天狗風に目をむく)。
糸井 いい(笑)。黙ってね。
黙って。
もう、窓の向こうから、上目遣いで、
ものすごく一所懸命、見てた。
糸井 いいねぇ(笑)。
で、泣かれたりしたらまずいから、
しばらくそうしてから、スッとその場を離れてね。
正面玄関のところに回ったら、
お昼寝してない教室もあってさ、
気づいた子どもたちが、
わっと出てきちゃったんだ。
糸井 あらら(笑)。
で、悪ガキどもがオレを見て
「中に人が入ってるんだよ!」とか言うからさ、
オレはちょっとむきになって
「入ってない!」って。
一同 (爆笑)
着てるわけじゃないからね。
鼻はつけてるけど、中に入ってはいない。
糸井 天狗としては、そこはゆずれない(笑)。
幼稚園児といえど。
糸井 いい話だねぇ(笑)。
その、最初の、ひとり起きてた
女の子だけが見てたとしたら、
また違う趣があっただろうね。
そうだね。
「昔、幼稚園のときにね、
 あたし、天狗、見たんだよ」って。
糸井 うん、うん(笑)。
しばらく言えなくて、
おばあちゃんになったころに
ようやく言えたりしてね。
「おばあちゃんが幼稚園のころ、
 お昼寝の時間にね‥‥」って話したら、
けっこう、じんわりくるんだろうね。
「ほんとに、いたんだー」って。
糸井 ねー。
でも、いまでも、うちの妻とふたりで
思い出しては話したりするんだよ。
「あの女の子は、いま、
 どういうふうになっただろうね」って。
(天狗の思い出話、つづきます)

2009-10-14-WED

前へ 最新のページへ 次へ

(C)HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN