黄昏 た そ が れ  日光・東北編       南伸坊さんと、糸井重里。昔なじみのふたりが、始終しゃべりながら小旅行。前回は鎌倉の名所をめぐりましたが、今回は日光、松島、花巻あたりを回ります。ゆっくと変わる風景と、めくるめく無駄話。いったいいつまで続くのかな‥‥? そしてこの不思議な企画は、なんとすべてをまとめて本になるのです。いえ、ほんとの話です。
第43回 樋口可南子が険しい顔をする瞬間。
糸井 食べ物のことを話すときに
すごく真剣になるっていうのは、
うちの奥さんもそうかもしれない。
あの、うちは、
だいたい奥さんが料理をつくって、
それをふたりで食べるんですけどね。
うん。
糸井 たまにね、
なにかもう一品つくってたはずなのに、
食卓にその料理が見あたらないぞ、
っていうケースがあるの。
ほぅ。
糸井 「あれ? たしか、もうひとつあったような」
と思って、ふと奥さんを見ると、
たいてい、すごく険しい顔をしている。
いまはもう理由がわかってるから
わざわざ訊かないんだけどね、
昔、わかってなかった時代のオレは、
愚かにも訊いたりしたわけだよ。
「あのー‥‥あれは?」って。
すると、険しい顔をした人は、
ぴしゃっと言うわけ。
「失敗したから」。
ははははは、それは訊いちゃダメだね。
糸井 あるいは、1回、皿に出した料理を
自分で食べたあとで、
またちょっと険しい顔をして、
「つくりなおす」と言って台所に引っ込む。
厳しいね。
糸井 納得がいかない、というときがあるんだ。
年に1回か2回くらいなんだけど。
そんときはねぇ、正直、怖いんだよ。
はははははは。
糸井 過去、いちばんすごかったのは、
「食べに行こう」っていうときがあって。
ああー、つくったのに(笑)。
糸井 さぁ、夕食だっていうときに、
「食べに行こう」って言い出したときはね、
オレは、ことさらに機嫌よく振る舞ったね。
「ああ、なにがいいかなぁ!」
なんつって(笑)。
ははははは。
糸井 このあいだ、テレビの番組でかみさんが、
「夫婦でなかよくやっていく
 秘訣はなんですか?」みたいな、
ありがちなことを訊かれてたんだけどね。
うん。
糸井 そのときのかみさんの答えは、
「ふたりで食事とか行ったときに、
 一切、ほかの話をしないで、
 食べ物のことだけを話せるのは、
 すごくいい」と。
似た者夫婦だね。
糸井 そうかもしれない。
ちなみに、食べ物のことだけを
話しながら食事をすることを、
うちでは「純食事」と呼んでる。
いいね(笑)。
糸井 すごく仲のいい友だちと食事に行っても、
その食事についてだけ話すっていうのは、
まずできないんですよ。
うん、うん。
糸井 ぼくらは、外で夫婦で食事するときは、
だいたい食事のことだけ、話してる。
そのほうがおいしいんでしょ。
糸井 おいしい。
友だちどうしで食事なんかすると、
たいてい、どこかで食事以外の話が
すごくおもしろくなっちゃったりしてさ。
糸井 そうそう、ダメダメ。
せっかくおいしいもの食べてるときに、
おもしろい話するとダメ。
糸井 ダメダメ。
その意味ではやっぱり、
夫婦以外で純食事はありえないんですよ。
そうだね。
食べ物の話だけするっていうのは、
かなり難しいよ。
糸井 こう、食べながらね、
「さっきのヒラメもおいしかったね」
って言うと、
「ああー、あのヒラメはよかった」みたいな。
それはでも、正しいと思うよ。
「おいしい」とか、
「おいしかった」とか言いながら食べると、
おいしいんだよね。
糸井 おいしい。
おいしい、おいしい。
いやー、純食事はいいですよ。
純食事ね。
糸井 うん。
あの、どれだけ仲がよくてもさ、その先に、
「会話をする必要がないほどの関係」
っていうところまでは、いかないじゃない。
そうだね。
糸井 オレと伸坊、仲がいいいよね、
いつも黙ってるもんね、って言ったらさ、
おかしいだろ、それは。
はははははは。
こんだけしゃべってるくらいだから、
純食事は無理だねぇ。
糸井 無理だねぇ(笑)。
(さて。次回、最終回です)

2009-11-18-WED

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