東京池袋・天狼院書店。
このところ、さまざまな展開を見せる
「あたらしい本屋さん」のなかでも
ちょっと「異色」な存在かもしれません。
英語部とか、旅部とか、
お客さんを巻き込んだ「部活」があって
劇団公演もしているらしいし
ちょっと前には映画もつくったそうです。
そして、今度は「文化祭」をやる‥‥?
こう聞くと、ちょっと
つかみどころなさそうな感じがするけど
お客さんはみんな楽しそうにしてるし、
何だか、興味をそそられる。
そこで店主の三浦崇典さんに聞きました。
「天狼院書店は、何がしたいのか?」と。
聞いてきたのは「ほぼ日」奥野です。

TENRO-IN BOOKS

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  • 第1回 下っ端→店長→無職→天狼院。
  • 第2回 ただの「お客さん」ではない。
  • 第3回 本があれば何でもできるぞ。
東京天狼院

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第1回 下っ端→店長→無職→天狼院。
第1回 下っ端→店長→無職→天狼院。
──
今、書店さんが変わってきてますよね。

まず、お店の中がおしゃれになっているし、
積極的にイベントを開催したり、
いろいろと新しいこころみをしているし、
最近では「泊まれる本屋さん」ができたと
ニュースで見ました。
三浦
ええ。
──
天狼院書店さんも
既存のワクにはまらない書店という印象が
すごくあるんですが
なかでも「異色」な感じがすると思って。
三浦
あ、そうですかね。
──
とくに、何の本なのかを明かさないで売る
「天狼院秘本」で、
特別に「糸井重里秘本」をやってくださって、
なんと「30時間で1000冊」も売ったと。
三浦
おかげさまで売れましたね、あの本は。

先日、中身を「ご開帳」しまして
篠原勝之さんの『骨風』と明かしたんですが、
秘本とするにあたり、
版元にかけあって重版してもらい、
最終的には1600冊以上、売れましたから。
──
ちょうど、同じタイミングで
『骨風』が泉鏡花文学賞を受賞していましたし
天狼院さんの「引きの強さ」を感じます。
三浦
いえいえ、もう、糸井さんのおかげなので。
──
その他にも
英語部だとか旅部だとかフォト部だとか
いろんな「部活動」をやっていて
今度「文化祭」を
3日間もぶっとおしで開催するそうですし、
劇団公演もやってるそうだし、
ちょっと前には映画もつくったらしいし。

そもそも‥‥
こちらは「本屋さん」でいいんですよね?
三浦
はい、本屋です(笑)。
──
表参道や福岡にも出店されていて
京都や仙台にも
出店される予定ありとのことですけど
はじめの一歩が
この場所、池袋というか雑司ヶ谷というか‥‥
だったということですか。
三浦
そうです、そうです。

2013年9月26日にオープンしたので、
2年ちょっと前のことです。
もともと「ほぼ無一文」の状態で
本屋を立ち上げようと思ったときから
新業態‥‥たとえば
「昔ながらのサーカス団」に対する
「シルク・ドゥ・ソレイユ」みたいな、
まったくあたらしい本屋にしようと。
──
えっとすみません、三浦さんって
それまで「本屋さん」だったんですか?
三浦
ええ、チェーンの書店ではたらいてました。
店でいちばんの下っ端から、はじめて。
──
いちばんの下っ端‥‥と、言いますと。
三浦
はい、ええとですね、本屋さんにおける
「いちばんの下っ端」というのは
裏でえんえん本を返品し続ける人のことです。
──
外からは見えないところに、そんな人が。
三浦
お店に出してもらえない、
レジにも立てない、そういう人だったんです。
──
それは、誰もが通る道なんですか?
三浦
まあ、ぼくなどは通らざるを得ない道ですが
きれいな女の子なんかは
いきなりレジに立てたりすることもあります。

ちなみに、本屋でいちばんの花形といったら
文芸担当とか本を発注できる人。
──
あ、棚をつくっている人ですね。
三浦
でも、ぼくは、店で売れ残ってしまった本を
ひたすら返品させていただく仕事でした。
あとは病院や美容院への「本の配達」ですね。

そういう下積みを2年くらいやってました。
でも、そのときにぼく、
小説家になりたくて小説を書いていたんです。
なので、
誰にも負けないくらい本を読んでいて、
そのことを知った上の人が
何だか知らないけど、おもしろがってくれて
「新店舗の店長をやってみないか?」と。
──
え、そんな下から上へ? 急激すぎませんか。
三浦
まだ27歳くらいだったんですが、
思えば、好き放題やらせていただきました。
──
好き放題。
本屋の店長の好き放題、というのは?
三浦
ベストセラーをそっちのけにして
まったく関係ない本にものすごい力を入れて、
うちの店だけで、ずっと1位にしてたり。

勝手に著者を呼んでワーワー騒いだりとか、
「本の積み方」を滅茶苦茶やったりとか。
──
本の積み方。
本の積み方で何かが変わるんですか。
三浦
本の売れ方がまったくちがうんです。

たとえば店に1冊しか入ってこなかった
『1坪の奇跡』って本にめちゃくちゃ感動して、
これをぜひ売ろうと、
店内にお店のミニチュアをつくってみたり‥‥。
──
吉祥寺にある「1坪」の和菓子屋さんで
「羊羹」と「もなか」だけで
年商3億というお店を紹介した本ですが‥‥
その店の「ミニチュア」って
いったい、どなたがつくったんですか?
三浦
ぼくが設計して、そういうのが器用な子に
「神棚みたいなのつくって」と。

もう何百冊売ったかわからないんですが
世の中では売れてなかったから
版元の在庫が、切れてしまったんですね。
で、「うちが売るので」と言って
1500部、重版してもらったんですよ。
──
はああ。
三浦
『最強マフィアの仕事術』って本を売ったときは
『ゴッドファーザー』好きなんで燃えました。

発売のひと月前から
100冊注文して「これは、仕掛けよう」と。
で、「無造作積み」と言ってるんですが
茶色い梱包の紙を半分だけ剥いて積んだら
ものすごく売れまして
結果的に10万部以上の大ヒットになりました。
──
なんで‥‥そんなに売れたんですかね?
三浦
本の内容がよかったというのは前提ですが、
本の見せ方に関して言うと
「金塊」みたく見えるじゃないですか。

それが、「マフィアっぽい」というか。
──
何だかおもしろがってやっているようにも
思えるんですが、
案外、緻密な計算に基づいてたりとかして。
三浦
ええ、ある店舗に勤務していたとき、
仕事が終わったあとに
その日の店内の定点カメラの映像をチェックして
どうやったら
お客さんに本を手にとってもらえるか、
そして、手にとった本が
どれくらい実売につながるかというデータを
ずっとつけていたんです。

本の積み方、並べ方を変えたり、
ポップを書いたり、
ちょっと通りにくいくらい並べたほうが
手にとってもらいやすいとか、
まあ、いろいろと試行錯誤していました。
──
それがあっての「一坪ミニチュア」であり、
「無造作積み」なんですか。
三浦
結局、何のためにって
「足を止めてもらうため」にやるんですが、
売場には「異物感」があったほうが
お客さんも、足を止めやすいんですよ。

で、足を止めて積まれた本を見たら
何だか「気持ち良くなる」ように設計してます。
ガンダムのコックピットに座った感じ、
というかなあ。
──
足を止めて、パッと本の山を見た場所が
「スウィート・スポット」である、と。
三浦
でも、会社全体の方針とか考えずに
あまりにも
好きな本を好き勝手に売っていましたら、
追い出されちゃいまして(笑)。
──
え。
三浦
他の店長さんって
みなさん50代とかで社歴も長かったし、
ぼくは20代で、若すぎて
生意気だったというか、
いろいろと反感も買っていたと思うんです。

目をかけてくれていた上司の方からも、
「三浦くん、
 ごめん、かばいきれなくなった」と、
いきなり無職になってしまいました。
──
下積みから店長で激しい急上昇、
店長から無職でまさかの急降下‥‥。
三浦
でも、無職になった4日後くらいに
「三浦書店を立ち上げようと思います!」
ってブログに書いたら、
みんなが、応援してくれたんです。
──
みんな、というと。
三浦
いや、書店員だった時代に、
誰から頼まれもしないのに特集をしたりして
少しは売上に貢献できたかな、という
出版社さんや個人の人たちが
「あいつ、何かかわいそうな感じになってる」
ってことで、助けてくれたんです。
──
そうか、売ってもらった人はみんな味方だ。
三浦
「あいつが本屋をつくるっていうなら
 しかたない、助けてやるか」
みたいな感じで、
「まずはお金が要るだろう」ってことで
出版社さんはじめ、
いろんな人たちが仕事をくださったんです。
──
仕事。それは、どのような仕事ですか。
三浦
本の販売戦略。

お店に、角材のセットで本を積んだりとか
売り場をつくって歩いたんです。
──
流しの売り場請負人、みたいな。
三浦
あとは、どうネット上で拡散させるかとか、
どういう広告を、どの時点で打つかとか。
──
つまり、本のコンサル的なお仕事なども。
三浦
あるいは、それまで
フリーランスのライターもやっていたので
編集の仕事を外注してくださったり。

書店を辞めた時点で、
それ以前につくっていた編集の会社の借金が
400万円くらいあったんですけど
おかげさまで1年くらいで返し終わりました。
──
その「無職になった」のが‥‥2012年?
三浦
ええ、2012年の4月。
──
それ、ものすごく最近の話ですよね。

そして、そのあと、
この天狼院書店をオープンしたのが‥‥。
三浦
2013年の9月です。

<つづきます>

2015-11-16-MON

TENRO-IN NO DAI-BUNKASAI

18日(水)には糸井重里も登壇!

天狼院の大文化祭、開催中です。

天狼院の大文化祭、
開催中です。

この三浦崇典さんのインタビュー連載と
まったく同じ期間、
つまり「11月16・17・18日」の3日間、
池袋の豊島公会堂で
「天狼院の大文化祭」が開催されています。
劇団天狼院の演劇公演があったり、
落語部の発表(立川小談志さんの落語会!)や
「金の話をしよう」という
妙に惹かれる題名のトークショーなど、
天狼院書店の部活動の集大成的な催しです。
3日め、11月18日(水)の夜には
「糸井重里秘本ご開帳特別LIVE」
ということで、『骨風』著者の篠原勝之さん、
南伸坊さん、みうらじゅんさんとともに、
糸井重里も登壇します。
3日間のくわしいタイムスケジュールや
会場の住所などについては
天狼院書店さんの特設ページで、チェックを。
ぜひぜひ、遊びに来てみてくださいね。

なにしろ
「ほぼ日」読者限定の特別価格の当日券
を、ご用意して下さっているのですから‥‥!

「ほぼ日」読者限定!文化祭の当日券を特別価格で購入できる「ひみつのページ」はこちら。

今回、天狼院書店さんが
「ほぼ日」読者のみなさんのためにと
「当日券を特別価格で購入できる、ひみつのページ」
を、ご用意してくださいました!

以下の入室ボタンをクリックし、
ひみつのパスワード「262934」を入力すると
通常「7000円」の当日券が
特別価格の「5000円」で購入できる
「ひみつのページ」に入れます。

(チケット購入サイトである
 Peatixの特設ページに移動します)

なお、Peatixがご利用できない方は
会場である豊島公会堂の当日券販売受付にて
上記の「ひみつのパスワード」を
口頭で伝えれば
同じく特別価格5000円で入場できます。

ひみつのページに入室する。

パスワード:262934

「糸井重里秘本」の中身は、こちらです。 骨風

なんと「30時間で1000冊が売れた」という
天狼院書店の「糸井重里秘本」、
篠原勝之さん(ゲージツ家のクマさん)の
自伝的小説。おもしろいです!
「秘本」の中身だと明かされていない段階で
泉鏡花文学賞を受賞しました。
最終的には天狼院書店だけで「1600冊」を超えたとか。

Amazonでのおもとめは、こちら。