TENRO-IN BOOKS

第2回 ただの「お客さん」ではない。
第2回 ただの「お客さん」ではない。
──
2012年の4月に
400万円の借金を抱えて無職になりながらも
1年で借金を返済し、
2013年の9月には天狼院書店をオープン。
三浦
はい。
──
ただ、本屋を立ち上げるには
「場所」があるだけでは、ダメですよね。

そこをいっぱいにする本が必要ですから。
三浦
そうなんですよ。その他にも
取次(本の問屋さん)に対する保証金とか、
もろもろ含めると、
本屋をひとつつくるのには、
だいたい「1500万円」くらいはかかるって
言われてました。

でも、2013年の5月とか6月の時点では、
手元に「70万円」しかなかったんです。
──
まったく足りてない‥‥。

というか、求められている額からしたら
「ゼロ」と言っていいほど。
どうやって、お金を工面したんですか?
三浦
そのときは、クラウドファンディングで
資金を調達させていただきました。

当時は、店を出す物件が決まってないのに
「本屋をつくる」って、
規約的にダメだったみたいなんですけど、
「CAMPFIRE」という
クラウドファンディングの代表をしている
家入(一真)さんに直に相談したら、
「あ、いいよ」と、言ってくださって。
──
でも、「本屋さんをつくります」だったら、
とくにめずらしいことじゃないですよね?
三浦
やはり「あたらしい本屋さんをつくります」
ということを伝えました。

「READING LIFEの提供」という考えが
天狼院のコンセプトなんですけど、
本だけじゃなくて
本の先にある「体験」まで提供する、
まったくあたらしい業態ですと説明して。
──
開店当初‥‥お客さんは?
三浦
ぜんぜん来ませんでした(笑)。
知り合いが、チラホラ来てくれるだけで。
──
それは、どれくらいの期間?
三浦
2か月くらい、ですかねえ。

オープンの日には
知り合いが本当におおぜい来てくれて
てんてこまいだったので、
これは忙しくなるぞ、
スタッフも雇わなきゃなんて思ってたら、
次の日から、パッタリと。
──
じゃあ、毎日、何をしていたんですか。
三浦
まあ、病院へ営業に行ったりとか、
美容院へ営業へ行ったりとか。
──
下積み時代と同じ‥‥。
三浦
一向にお客さんが来なくてヒマなんで、
部活動をどんどんつくったり。

で、そんなことをしてたら
じわじわと口コミで広がったみたいで、
2ヶ月後くらいから、
雑誌で取材してもらえるようになって。
──
では、そのあと一気にガーッと?
三浦
いえいえ、ぜんぜんです。
最近になるまでも浮いたり沈んだり、
これまでに8回くらい、
会社がつぶれそうになってますから。

今年の4月にも「映画」に注力しすぎて、
つぶれそうになったし‥‥。
──
4月? えらい最近の話ですね‥‥。
三浦
そう(笑)。
──
映画をつくる、というのは、
これまでも、ちょこちょこ話題に出てきた
「部活動」の一環だと思うんですが、
店がつぶれるくらいって、
いったい、何が大変だったんですか?

‥‥って、いろんなことが大変そうですが。
三浦
『世界で一番美しい死体・天狼院殺人事件』
というタイトルで、
最終的には豊島公会堂で上映したんですが、
すごい時間とお金がかかったんです。
──
でしょうね。なにしろ「映画」ですもんね。
三浦
これは、
もともとは劇団天狼院の演目だったもので、
去年(2014年)の11月13日に、
同じ豊島公会堂で旗揚げ公演をしたんです。
──
なるほど。
三浦
旗揚げ公演は、キャパ「802人」のところ、
「70人」しか入らず大失敗しました。

これじゃヤバいと思い、
劇団を、もっとマジメにやろうと決意して‥‥。
──
ええーと‥‥すみません、
三浦さん、「本屋さん」ですよね?(笑)
三浦
ええ、あくまで本屋なんですが(笑)、
劇団を、もっとマジメにやろうと決意して、
4か月後の今年3月22日、
新しい演目でリベンジ公演をやったんです。

日本一かわいいコスプレイヤーと呼び声高い
御伽ねこむさんに出ていただいて、
当時、彼女のツイッターのフォロワーが
6万人くらいいたから、
600人は来てくれたらいいなって思ってたら、
ぶじ600人を超えました。
──
リカバリーのしかたが急ですよね‥‥何かと。
三浦
そう、かならず1回目は大失敗して、
でも、2回目はグーンと伸びてくれるんです。

失敗するとホラ、勉強になるじゃないですか。
とりあえず風呂の中で泣くし(笑)。
──
しかし、その成功に満足することなく、
舞台を映画化し、再び、つぶれそうになったと。
三浦
そうなんです。
──
映画製作も含めてなんですが、
本業がつぶれそうになるほどの「部活動」を、
なぜ、やっているのですか。
三浦
結局、つながってるんですよ。

つまり、スタートは衝動的なんですが、
でも、結局は「本」につながっているんです。
劇団天狼院だって、もともとは、
劇場で本を売るってことがやりたかったので。
──
映画のクレジットを見ると
「監督・脚本」が三浦さんご本人ですけど‥‥、
では、本を売るために、
わざわざ物語からつくってしまった、と?
三浦
そう、『天狼院殺人事件』ですから
天狼院書店が舞台で、
店主であるぼくが「殺される役」なんです。

で、公演が終わったあと、
ステージを本当の「書店」に一変させ、
お客さんにステージに上がってきてもらって、
本を買ってもらう‥‥ということを、
昔から、ものすごーく、やりたかったんです。
──
ステージの上で、本を売りたい?
三浦
いや、まあ、ステージにかぎらず、
本を、「書店以外のいろんなところ」で
売りたいと、ずっと思ってました。
──
長岡花火の会場に即席の本屋をつくって
「必死にがんばったけど
 たった10冊しか売れなかった」
という逸話も、聞いたことがあります。
三浦
あれはもう、売れなかったですね‥‥。
本当にガッカリして、疲れ果てました。
──
ただ、でも、
「本来、花火を見に来た人」に本を売るって、
たとえ「10冊」でも、大健闘なのでは?
三浦
まあ、そう言っていただけると。
でも、あれは難しかったなあ。
──
ようするに、
天狼院さんの「ええ?」という活動は、
すべて「本を売る」につながっている。
三浦
もちろんです。
ぼくは、あらゆるところで、本を売りたい。

それも、本そのものだけでなく、
その前後左右にある文脈や背景も提供したい。
今度、谷津矢車さんの小説『蔦屋』を、
劇団天狼院の演目として、公演するんです。
──
ようするに、そうすることで、
本と演劇との間を行ったり来たりできる?
三浦
そう。
あたらしい形の本の読み方、と言いますか。
──
天狼院さんが、おもしろいなと思うのは、
お客さんを、上手に巻き込んでいるところ。
上手にというのは、
巻き込まれた方も楽しそうって意味ですが。
三浦
うちの「旅部」が、旅行会社と共同で
バスをチャーターして、江ノ島へ
日帰りのツアーをしたことがあるんですけど、
このときフォト部の先生に
一緒に行ってもらって写真を教わったんです。

で、その人、プロのカメラマンなんですけど、
もともとは天狼院のお客さんでした。
──
お客さんと、教える側とに、
人の役割も行ったり来たりしてるんですね。
三浦
雑誌、『READING LIFE』っていうんですけど、
それも、お客さんと雑誌編集部をつくりました。
──
徹底してますね。
三浦
さっきのリベンジ公演のときも、
当日券が70枚くらい出たんですけれど、
会場の前に長い列ができちゃって。

でも、ぼくらに人手が足りなかったんで
常連のお客さんが
「最後尾はこちらでーす」って(笑)。
──
なんと、そんな役まで。
三浦
これは、あとから聞いた話なんですが、
その常連のお客さん、
他のお客さんに怒られてたそうなんですよ。

おい、いつまで待たせる気だ‥‥と。
──
え。
三浦
すみませんと謝ってくださったそうです。
ぼくたちの代わりに。
──
ありがたすぎるお客さんですね‥‥。
三浦
どちらもチケットを買ってくださってる、
まったく同じ立場なんです、本来。

搬出搬入や車の運転なんかも、
お客さんが、買って出てくれましたしね。
──
何だろう、
手伝いたくなっちゃうんですかね?
三浦
天狼院はイベントでの収益も大事だから、
そう考えると、うちのお客さんって、
「本を買ってくださるお客さま」
という以上の、
本当に欠かすべからざる存在なんですよ。
──
ただのお客さまじゃないですよね。
三浦
そういうお客さんがいてくれてはじめて、
天狼院は、成り立っているんです。

<つづきます>

2015-11-17-TUE