- ──
- 天狼院さんの各種部活動も、劇団も、
本業を危機に追い込むほど注力した映画も、
すべてが「本を売りたい」に
つながっているとのことなのですが、
三浦さんご自身では、
「どういう本を売りたい」ってありますか。
- 三浦
- それは、わかんないですね。
本というのは「偶然の出会い」ですから。
今回の「糸井重里秘本」だって、
糸井さんがうちに持ってきてくれたから、
生まれたわけですよね。
- ──
- ええ、ここで雑談しているときに
「そう言えば、おもしろい本があってさ」
みたいな展開でしたよね、たしか。
- 三浦
- ふつうにしてたら、
ぼくには、出会うことのなかった本です。
そういう出会いがワクワクするので、
「こんな本に出てきてほしい」というのは、
正直、ぼくにはないんですよね。
おもしろかったら、
もう「地図」だって何だっていいんです。
- ──
- なるほど。
- 三浦
- 本って「入り口として最強」なんですよ。
- ──
- と、おっしゃいますと。
- 三浦
- 本があれば、何でもできるんです。
たとえば「フォト部」をやろうと思ったら、
カメラの本があります。
「旅部」をやろうと思ったら旅の本が、
「英語部」をやろうと思ったら英語の本が、
天狼院書店には、
サメ好きのための「サメ部」もありますが
「サメの本」だって、
この世の中には、たくさん出ているんです。
- ──
- どんな「先生」もそろってるんですね。
- 三浦
- そういう意味で、本の世界ほど
可能性に満ちている場所はないと思います。
海に潜りたければ海の本があり、
物語の世界にどっぷりとハマりたかったら、
小説があるし、
小説があれば天狼院は劇団をやれる‥‥。
- ──
- 本の持っている可能性を
誰もそこまで、
つまり「劇団やれるぞ!」と思うまでには、
追求してきませんでしたよね。
- 三浦
- ええ。で、そういう本を売っている
本屋の可能性も追求してこなかったんです。
本屋は、本を売ってればいいと思っていた。
- ──
- はい。
- 三浦
- でも、ぼくは「ちいさいどこでもドア」と
呼んでいるんですけど、
本の表紙を「どこでもドア」に見立てたら、
どこへでも行けるじゃないですか。
だから、そう考えると、天狼院としても
可能性は無限に近いというか、
まだまだ、やれることの数パーセントしか、
やれてはいないなと思ってます。
- ──
- 本の数だけやりようがあるってことですね。
- 三浦
- あるんですよ、あるんです。
でも、その可能性を広げていくには、
圧倒的に「処理能力」が足りていないので、
つねに「人」を募集しているんです。
- ──
- 今日のお話をうかがっていて思ったのは、
天狼院さんのことを、
まわりの人たちがおもしろがって、
協力してくれてる雰囲気が、あるなあと。
- 三浦
- ええ、ありがたいことですね。
ひとえに人に恵まれていることプラス、
ぼくが不完全な人間だからです。
「あいつ、しょうがねえから助けてやろう」
みたいな、そういう協力は、
天狼院をはじめようと決めたときからです。
- ──
- 現在、オープンしている池袋と表参道、
福岡の他に、
京都や仙台なども開店予定と、
今、すごい勢いで店舗が増えていますけど、
これは、どういう理由なんですか?
- 三浦
- 昔からぼくには
「本を売りたい」ということともうひとつ、
「才能を売りたい」ということがあって。
- ──
- 才能。
- 三浦
- たとえば今、とある版元さんと組んで、
うちの文芸部から小説を出そうと思ってます。
- ──
- えーとつまり、天狼院書店という本屋さんが
「オリジナルの小説」を出版する?
- 三浦
- そうです。
- ──
- 出版社さんと共同で。
- 三浦
- そう、うちの文芸部って部活に、
25年間、文芸の編集をやっていた編集者を
顧問として招いたんです。
そのベテラン編集者に、
小説家になりたい「小説家のたまご」を
見てもらって、
育ててもらって、デビューさせてもらう。
- ──
- そんなことって、可能なんですか?
- 三浦
- 天狼院書店が1000冊単位で買い取るので、
みたいな条件で、
出版社さんとは話を進めています。
- ──
- そうか、ある程度の売り先が確保できれば
出版社のリスクも減りますものね。
- 三浦
- なので「店舗数」がほしいんです。
- ──
- 本の売り場面積を増やすために‥‥なるほど。
- 三浦
- そもそも天狼院書店をオープンするときから、
2017年度、
つまり「2018年の3月31日」までに、
10店舗にまで増やすという目標がありました。
どうして10店舗なのか、
10店舗にしたら何ができるのか、というと
それだけ店の数があれば、
天狼院だけで1タイトル「1000冊」、
売れる可能性が出てくるぞと思ったんです。
- ──
- つまり、1店舗100冊ずつ売ればいい。
- 三浦
- それくらいなら計算できると思ったし、
1000冊、売ることができるなら、
さっきの「小説を出す」みたいなことも
夢物語ではなくなるかも、と。
でも最近は、東京天狼院で
「400冊」くらい売れるようなタイトルが
ポツポツ出てきたので、
10店舗なくたって
「1000冊」いく可能性も出てきましたが。
- ──
- ちなみに、先ほどから
「1000冊1000冊」と言っておりますが、
これ、きれいサッパリ売ろうと思ったら、
かなり大変な数ですよね。
- 三浦
- そうですね。買い切るとなると、
新車1台分くらいの投資になりますから。
うちくらいの商売の規模では、
経営判断として、けっこうドキドキです。
- ──
- でも、そこまでのリスクを背負ってでも
「才能を売り出したい」んですね。
言ってみれば、本屋さんの
オリジナル・コンテンツってことですね。
- 三浦
- そう、オリジナルの小説が出せたら
劇団天狼院の演劇公演も自由にできますし、
そうやって、この場所から、
いろいろと展開できるじゃないですか。
- ──
- ええ、なるほど。
- 三浦
- 今回の「糸井重里秘本」もそうですけど、
買ってくださった人は、
その本のまわりにある「ストーリー」ごと、
おもしろがっているんです。
- ──
- そうなんでしょうね。
- 三浦
- これまで「書店」という業態って、
差別化の方法が、いまいちなかったんですよ。
基本的には、
同じ内容のものを同じ値で売るしかなかった。
- ──
- はい。
- 三浦
- ラーメン屋さんだったら味を変えたり、
ライバル店より安くしたり、
ギョーザつけたりできると思うんですが、
本屋は、そうはいかない。
池袋にはジュンク堂書店池袋本店という、
みんなが知ってる本屋があって、
その巨大書店と、
うちみたいな、たった15坪の本屋とが、
同じものを売っているわけで、
天狼院書店ならではの「ストーリー」で
本をくるんではじめて、
ちゃんと勝負できると思ってます。
- ──
- そう考えると
「部活」も「秘本」も「劇団」も「映画」も
ぜんぶ「ストーリー」ですよね。
同じ中身のものを
「オリジナルのコンテンツに仕立てている」
と、言ってもいいかもしれませんが。
- 三浦
- そうですね。秘本なんてとくにそうですが、
「オリジナル商品」だと思ってます。
- ──
- 三浦さんのお話を聞くと、
元気がなくなったと言われて久しい
本や本屋さんの世界も、
まだまだ、あたらしいことができそうで、
何だか、うれしくなってきます。
ちなみに今度開催される「文化祭」って、
天狼院書店の各部活動が
いろんな演し物を見せるってことですか?
(※11月18日まで開催中)
- 三浦
- そうです、そうです。
落語部の先生が、落語をやってくれたり。
3日目には糸井さんにもご登壇いただいて、
『骨風』の篠原勝之さん、
南伸坊さん、みうらじゅんさんと
トークライブをやっていただいたりとか。
- ──
- 楽しそうです。
- 三浦
- いやあ、ぜったい楽しいですよね!
で、来てくれたお客さんには、
楽しんだうえで、本を買ってもらいます。
- ──
- たしか最後に壇上が天狼院書店になって、
出演した人たちが、
エプロン姿で本を売る‥‥んでしたっけ。
- 三浦
- そうです。引っ越し屋さんにお願いして、
この天狼院書店の中身を、
そのまま持って行って壇上に再現します。
レジごと、ぜんぶ。
- ──
- すごい(笑)。
- 三浦
- お客さんに楽しんでもらうのは当然ですが、
出演くださったみなさんにも
「本を買ってもらう楽しさ、うれしさ」を、
知ってもらえたらなあと思ってます。
- ──
- 本屋さんとしては、
やはり、本が売れるのって快感なんですね。
- 三浦
- いやあ、おもしろいですよ。
長岡花火に本を持って行って、
たったの「10冊」しか売れなかったときは、
1冊1冊、買ってくださった人の表情や、
そのときに話したことなど
「買っていただくまでのストーリー」を、
ぜんぶ覚えてるくらいです。
- ──
- それほど、うれしかったんですね。
- 三浦
- だって、自分がいいと思って入荷した本を、
お金を出して買ってもらえるってことは、
そのお金を稼いだ時間まで、
費やしてくれてるってことじゃないですか。
- ──
- しかも、本の場合って、
買った後の「読む時間」だってありますし。
- 三浦
- そうそう、そのことを考えると、
もう「ありがとう」としか言えないんです。
本当に、本を売るって最強気持ちいいので。
<おわります>
2015-11-18-WED