バルミューダのパンが
焼けるまで。
バルミューダ株式会社 寺尾玄 × 糸井重里
第2回 夢のスケールが大きい理由。
寺尾
私は、音楽をやっていた時代から
いちばん好きな小説が『坂の上の雲』でした。
雑誌は「フォーブス」。
「好きな人は誰ですか?」と問われたら
ふつうはロックミュージシャンの名前を
挙げるんでしょうけれども、
ヴァージンのリチャード・ブランソン、
スティーブ・ジョブズ
あとはアウトドアウエアのパタゴニア
イヴォン・シュイナード、
その3人の名前をいつも言っていました。
糸井
やっぱり、そのあたりの企業に
興味があったんですね。
寺尾
はい。その3社って、やり方がかなり
ミュージシャンに近いと思います。
市場を見て、
こういうチャンスがある、
他社がこうしてるからこうやりましょう、
という方法ではありません。

「俺たちはこうしたい」ということがまずあり、
それを苦労して工夫して、
市場にはめ込んでいくやり方です。
これはミュージシャンの仕事のはめ方と、
原理的には一緒です。
そういうことをしている企業があるんだ、
ロックスターより規模がデカいし
カッコいいかもしれない、とずっと思っていました。
日本で、音楽をやっていくって、
そうとうきつい仕事なんです。
糸井
そうでしょうね。
寺尾
日本の人たちの根っこにあるのは、
もともとは盆踊りのようなリズムです。
そこに16ビートだの、ラップだのってやっても‥‥
お好きな方もたくさんいらっしゃると思うんですが、
血が騒がないんですよ。
でも、ロックのルーツの国の人は、ロックで血が騒ぐ。
血が騒ぐから体が動いちゃう。
日本ではそれがすごく起こらなくて、
起こらないところに
「ポップス」といってはめ込もうとしてる。
市場規模が小さいんです。
糸井
そうですね。ちょっと見栄を張って、
「この味がおいしいはずだ」ということで
食べてる音楽なのかもしれない。

ぼくらの若いときも、ジャズがわかんないのに
「みんながジャズ聴いてるから私もジャズ」
というところの市場がありました。
でも「血が騒いでいる」わけじゃないから、
例えば忙しくなったり、結婚したり、
子どもが生まれたりしたら聴かなくなる。
結局、何が好きだったかをよくつかめないままに、
音楽体験として残っていった人が
多かったのかもしれません。
寺尾
ええ。私も、ロックをやりながら、
難しいと思っていたんです。
たとえ成功したとしても、規模は小さい。
成功したらなんになるのかな?
ポルシェに乗って青山にマンション買って終わり?
けっこうゴールが狭いかな?

一方、海外のトップミュージシャンは、
ジャンボ機を借り切って世界中ツアーします。
アメリカにもイギリスにもハワイにも家を持ってる。
日本語のロックを歌っても、
ああいうふうには絶対なんないだろうな。

むしろ、実業の世界で
アーティスト的な動きをやってる会社もあるんだし、
そうやったほうが夢が大きいと思ったんです。
糸井
‥‥ちょっと不思議に思うんですけれども。
寺尾
なんでしょう。
糸井
寺尾さんは、なぜそういうスケールで
ものを考えるようになったんですか?
つまり、
「ミュージシャンで、ポルシェだ、
 高層マンションだ」
という夢でも、
じゅうぶん大きいと思う人もいます。
寺尾
はい、はい。
糸井
でも、寺尾さんは、
「それじゃ足んない」とリアルに思ってます。
もしかして、親御さんが
そういうタイプだったんですか?
寺尾
あ‥‥そうです。
私、親がすごかったんですよ。
糸井
そういう影響がないと、
無尽蔵さが出ないと思います。
どういうタイプの親御さんですか?
寺尾
えーと、親は‥‥なんていうんでしょう、
いわば、自由系です。
糸井
自由系。会社員ですか?
寺尾
いいえ。
会社員って、1回もやったこと
ないんじゃないでしょうか。
おふくろも親父も、情熱的で、
そうとうおもしろい人たちでした。
私に対してはずっと、
「絶対にふつうのことはするな」って
言い続けたんです。
糸井
ほうほう、
それは大きいでしょうね。
寺尾
それはもう、影響デカかったです。
ふつうのことしちゃいけないんですよ?
ふつうのことすると、怒られるんです。
そうはいっても
学校の宿題はあるし、絵は教科書どおりに
描かなきゃいけない。
糸井
ええ。
子どもってあんがい保守的ですからね。
寺尾
そう、意外とそうなんです。
ふつうのことしちゃいけないんだけど、
ふつうの課題があるわけで、
それをふつうじゃない方法で
上回んなきゃいけない、という訓練が
子どもの頃についちゃいました。
糸井
高層マンションを持つのが夢だったら、
「それじゃふつうになっちゃうじゃないか」
ということになりますね。
寺尾
そうなんです。
いまだにそれがしみついてて‥‥。
糸井
寺尾さんが音楽の道に行ったのも、
「ふつうを飛び越える方法」として
選択肢にのぼったからですね。
寺尾
そうですね。
私は実は‥‥作家になりたかったんですよ。
糸井
なるほど。
ああ、作家はもっと元手が要らないから。
寺尾
そうです、そうです。
スペインの地中海放浪の旅のときは
ミュージシャンじゃなくて、作家、詩人です。
糸井
スペインの旅の途中は、
頭は詩人。
寺尾
スペインの旅に出たきっかけも、
考えてみれば、親でした。

おふくろは、親父と離婚して、
数年後にハワイで亡くなりました。
そのとき、親父と弟と私、3人で
ハワイまで行きました。
死に際に会うことができましたが、
おふくろは、もう何もできない状態になっていました。

亡くなる原因となったのが、シュノーケルでした。
おふくろは泳げないのに
ハワイの海でシュノーケルやっちゃったんです。
それで、溺れて亡くなったんですよ。
糸井
泳げないのにシュノーケルはやる。
そんな例はあんまり、ないですよね。
「ふつうじゃないことをやれ」って
おかあさんは、自分に言ってしまったのでしょうか。
寺尾
そうかもしれない(笑)。
母親が亡くなって、私は
溺れた海を見に行きました。

その海が、すっごくきれいだったんですよ。
ほんとうに、驚くほどでした。
ああ、おふくろは
入りたくなったんだな、とわかりました。
無鉄砲で、いつも
「なんでダメなの?」
という考えの持ち主だったんで、
やっちゃって、命まで失ってしまった。

それが、おふくろの海外旅行中の事故だったんで、
保険金が出たんです。
糸井
話のつながりがすごいですね。
寺尾
はい。
そのお金を持って、私はスペインに行きました。

当時、高校生でしたが、
もともと学校が嫌になってまして、
親父からも
「おまえ、いつまで学校行ってんだ」
「いつ辞めるんだ」
って、毎日のように言われていましたので、
学校は辞めまして。
糸井
おふくろはシュノーケルで亡くなっちゃうし、
親父は毎日学校辞めろというし。
寺尾
はい。トンデモ家族です。
糸井
思えば、そういうタイプのエリート教育ですね。
すごい。不純物がない。
ときどきそういう話を聞くことはありますが、
「いちおう大学出てから」とか、
なっちゃいますもんね。
寺尾
不純物はほんとうになかったです。
<つづきます>
2016-01-08
教えて、バルミューダ!
Q.
我が家にはインコが2匹いるのですが、
バルミューダのトースターには
テフロンは使われているでしょうか。
テフロンはインコにとってよくないといわれるので、
お訊ねいたします。


A.
BALMUDA The Toasterの内部には、
本体に網を引っ掛ける部分と、
ウォーターカバー下の配線をかこう部分に
テフロン素材を使用しています。
しかし、高温になるまで
(フッ素樹脂を熱し
 小鳥たちにとって有害物質が出る温度になるまで)
熱せられることがない箇所で使用しています。
安心してお使いください。
(回答:バルミューダキッチンチーム木下さん)