バルミューダのパンが
焼けるまで。
バルミューダ株式会社 寺尾玄 × 糸井重里
第5回 人に訊く、訪ね歩く。
寺尾
高杉晋作の墓から戻って、最後に組んだバンドで
「もうこれ以上できないな」という、
納得できるところまで
音楽を作り込むことができました。
でも、メンバーが
「もうお前についていけない」「やめる」
と言うんです。
「そうか」ということで、結局、解散しました。

そこではっきりと
「あ、終わったんだな」ということが
自分でわかりました。
それが冒頭の
「本気で望んでもできないことってあるんだ」
という話です。
そこまでのジャッジメントがくだったことが
自分の人生ではありませんでした。
糸井
そうなってしまったら、たいていの人は
本気で望むこと、
つまり、天井知らずで望むことを
やめてしまいますよね。
寺尾
そうでしょうね。
でも、ぼくはそうは思いませんでした。
ほかに世界を見渡せば、
音楽的なアプローチでものすごく
でかいことやってる人々がいるから。
糸井
アップルやヴァージン、パタゴニア。
寺尾さんはそこでそのことに気づくわけですね。
寺尾
はい。(矢沢)永ちゃんのように
音楽で成りあがることはできなかったけど、
ブランドというものを作って
自分のクリエイティブを
社会に表現していけるんじゃないかと思いました。
それで「もの作り」をやろうと思い立ったんです。
糸井
それは何歳くらいの頃ですか。
寺尾
28歳ぐらいだったかな。
糸井
ああ、いいとこまで行きましたねぇ。
つまり、30前ですね。
寺尾
はい。30を前にして、またスタートです。
音楽をやってたとき、
制作にMacのコンピュータを使い、
ハーマンミラーのアーロンチェア
座っていました。
音楽をやりながら、そのふたつの道具が
つねづねすばらしいなと思っていたんです。
道具が人に与える影響が
いかに大きいか、感じていました。

ただの椅子ですが、腰が痛くならない。
腰が痛くならないと、新鮮に活動ができます。
パソコンもまさにそうで、
快適な道具というのは、自分に
便利さや快適さだけでなく、
可能性を提供してくれてるのかもしれない、と
思うようになりました。

いい道具が出現することは
クリエイターをたくさん生むのだと思います。
たとえば、パソコンが出てくる以前は
仕事がもうちょっとしんどかったですよね。
糸井
うん。単純に、作業量が多かったと思います。
寺尾
私はもの作りについて何も知りませんでした。
当時、すでにインターネットはありましたから、
検索ツールを使って調べることはできたんです。
でも、検索ワードがひとつもわからない。
検索ワードがわからないと
何も調べられないということに、
私は愕然としましてね。
コンピュータがなんの役にも立たなかったんです。

「鉄工所」を調べていいのか「木工所」なのか。
しかも、「鉄工所」を検索しても
いまある鉄工所がただバーッと出てくるだけです。
糸井
頭のなかには「工場」があったんですか?
寺尾
いいえ、そんなにデカイものを作ろうと
考えていたわけではないんです。
でも、最初の動機どおり、
インテリアやパソコンの周辺機器を作ろうかな、
などと思っていました。
でも、その部品を作るにも、
何も知らないんで、しょうがないから、
東急ハンズに行きました。
糸井
東急ハンズ‥‥。
寺尾
東急ハンズです(笑)。
東急ハンズでは、売り場フロアに、
リタイアしたおじさんたちが
アドバイザーとしてグルグル回っています。
あの方々を、まずは捕まえました。

スプーンを手に、たとえばこんな会話をしました。

「これ、いったい何でできてるんですか?」
「ステンレスじゃない?」
「ステンレスって、最初はどういう形をしてますか?」
「最初? シートかな」
「シートって板ですか」
「板だね」
「何ミリぐらいなんでしょうか」
「ちょっとわかんないなぁ」
「板がなんでこうなるんですか?」
「いやぁどうだろう、プレスかな」
糸井
向こうも「かな」なんですね。
寺尾
「かな」です。
でも、「プレス」という言葉が
はじめて出てきたんですよ。
糸井
それで「プレス」を検索できる。
寺尾
そうです。
秋葉原にも行ったりして、
いろんな人に質問をして、
検索ワードを拾い上げることに日々を費やしました。
おそらく3か月ぐらいやってました。
糸井
つまり、寺尾さんが行ったのは
「お店」であって、
本屋さんじゃないんですね。
寺尾
違います。
糸井
人に訊いてったというのが
おもしろいところですね。
寺尾
本屋さんに行っても、何も知らないので、
どの本を読めばいいかわかんないし、
私はそれこそ「MOTHER」にハマってた世代です。
糸井
あ‥‥「MOTHER」をやってくださったんですね。
ありがとうございます。
寺尾
いえ、こちらこそたいへんお世話になりました。
一同
(笑)
寺尾
あのゲームは、人にものを訊いて情報を集めて、
「こうなのかな?」と考えて、
次のところへ行く。そのくり返しです。
糸井
そうですね。
寺尾
秋葉原駅の階段をのぼりながら、
「俺、いままさにロールプレイングゲーム中だな」
と思ってました。
糸井
お店で質問をくり返したあとの
次のステップは
なんだったんですか?
寺尾
タウンページです。
例えばお店の人に聞いた話から
「アルミ切削加工」なんていう言葉が
出てきたとします。
そうすると、タウンページで
近所にあるアルミ製作工場を調べると、
ザーーーーッと並んでるんですよ。
糸井
うん、なるほど。
そこで「近所」の工場か。そうですね。
寺尾
はい。とにかく片っ端から電話して、
チャリンコで工場に行きました。
私は音楽をやめたばっかりだったので、
金髪でジャージ着て、
ヒゲ生えた変なあんちゃんでした。
そんな奴が
「ちょっと工場見せてください」
と生意気に言っても、相手にはされません。
最初に数十軒行きましたけど、
「いま忙しいからさ」と言われて
すべて門前払いでした。

「見せてください」では
通用しないんだなと思いまして、
CADを自分で覚え、図面を引きました。
作りたいものを設定して、
「この製品を作るために部品が必要なんですが、
 こういった部品を御社で作っていただけませんか」
という訪ね方に変えたんです。
糸井
それは、いったいどんな製品だったんですか?
寺尾
最初に作ろうとしたのは机でした。
アルミもカーボンも
無垢のメープル材も使うという、
まぁ、ムチャなものを(笑)、考えたんです。

35軒めぐらいだったと思いますが、
その図面を見たある工場の方が
「この部品、作ってあげられるよ。
 でも、あんちゃん、金持ってないでしょ」
と言ってくださいました。
「持ってねぇです」
「うちの機械使わせてあげるから、自分で作りなよ」
糸井
おおお。
寺尾
そこと出会ってからは、
毎日バイト終わりで入り浸り、
働いてるわけじゃないけど
毎日その工場にいる、という状態でした。
<つづきます>
2016-01-14
教えて、バルミューダ!
Q.
続けてトーストすると、2回目は蒸気が出ません。
うちのバルミューダが不良品なのでしょうか?


A.
続けてトーストすると、
ガラス部分が温まっているので
スチームは発生しているのですが、窓が曇りません。
室内との温度差が激しい寒い朝は
窓に水滴がたくさんつきますが、
暖かい昼間は窓が曇らない「結露」と
同じ原理になります。
ちなみに、続けてトーストするときに
差した水がジュっと音を立てるので
正しい水分量が減っているのでは?
とのご質問をいただきますが、
蒸発する分も計算してありますので、
おいしさに影響いたしません。
見えないスチームもパンをおいしくするために
がんばっていますので、ご安心ください。
(回答:バルミューダキッチンチーム木下さん)