- 糸井
- 工場に間借りさせてもらって、
必要な材料はどう調達したんですか?
- 寺尾
- そこはアルミの削り出しの工場だったんですが、
「あそこにあるの全部、どれ使ってもいいから」
と言っていただいて、
工場のクズ材料を使わせてもらいました。
金やすりのかけ方から、
ボール盤や旋盤、フライス盤の使い方も
教えていただきました。
そのうち、自分でちょっとした
部品も作りはじめました。
キーホルダーを作って
ヤフオクで売ってみたりもしました。
そしてあるとき、ノートパソコンの冷却台を
作ったんです。これです。
- 糸井
- ああ、冷却台。
まさに、最初から頭にあった
「パソコン周辺機器」ですね。
- 寺尾
- はい、周辺機器です。
こういう、ガンダムのようなデザインで
アルミ削り出しで、作りました。
- 糸井
- これは、買いたい人がいるなぁ。
- 寺尾
- はい。私も
「あ、これは売れるだろうな」と思ったので、
会社を立ちあげることにしました。
- 糸井
- それが、バルミューダ。
この商品で、立ちあげたんですね。
- 寺尾
- そうです。
いまは1円から会社を作れますが、当時、
有限会社を作るのには300万円が必要でした。
そんなお金はあるわけなくて、
親戚に「ぜったい返すから」と言って
300万円借りました。
銀行に2週間ぐらい預けると
「資本あります」という証明書を
出してくれるんです。
その300万円はすぐに返して、
証明を持って法務局に行きました。
当時持ってた自分のお金は、
実質20万円ぐらい。
何台売れるかわかんないから、
まず、5台だけ作りました。
- 糸井
- そのとき、寺尾さんはおひとりで
会社をやってたわけですよね?
- 寺尾
- そうです。
部品制作をすべてそのアルミ工場にお願いして、
あがってきたものを
アルマイト屋さんに持っていって、
アルマイトの工程をはりつきで見て、
できたパーツを持ち帰り、
自宅の机でひとつひとつ組み立てました。
ウェブページ制作も自分で勉強しました。
写真撮ってPhotoshopで直して、
簡単なメールオーダーができるシステムも
自分で作りました。
「ニュースリリースの書き方」を検索して、
ひな型の文章の社長の名前を自分に変えて、
「こんなPC周辺機器を発表しました」
というリリースを作り、
Mac系のサイトに投げました。
そしたら、2時間で
1個めの注文が入ったんです。
- 糸井
- おお!
- 寺尾
- これ、価格がひとつ
3万5000円ぐらいするんですよ。
「やっべぇ、俺、金持ちになっちゃうかも!」
- 糸井
- それはそうですよね、うん。
- 寺尾
- 結局、3か月ぐらいで100台売りました。
- 糸井
- やりましたね。
- 寺尾
- 当時、アップルユーザーは少なくて、
ネタに困っていました。
だから「こんなガンダム的な製品が出ました」と
取り上げてもらえたんです。
- 糸井
- 作ったのが椅子じゃなくてよかったですね。
- 寺尾
- 椅子じゃなくてよかった(笑)。
コアなファンがいるところに
コアなものを出したから、100台売れたんです。
- 糸井
- これには‥‥もうすでにバルミューダの
ロゴマークが入ってますね。
- 寺尾
- はい。
アルミ工場に通っているとき、すでに
ロックバンドじゃなくブランドで
世界に表現しようと思っていました。
ですからすでにバルミューダという名前も決めて
ロゴも作っていました。
- 糸井
- 手で5個作った時代の製品に
はめこみでロゴが入ってる、
その根性がすごいと思います。
そして、最初の製品が
シンプル・イズ・ベストじゃ
ぜんぜんないところが
寺尾さんが音楽の出身であることを感じさせますね。
「ガンダム」が100個売れたおかげで、
300万以上の売上ですから、
動かせるお金はできた、ということですね。
つまり‥‥「ひとりでやってるぶんには」ね。
- 寺尾
- ‥‥そうなんです。
いやぁ、そうなんですよ!
アルバイトをひとり入れたとたんに
お金って、おかしくなるんですよね。
つまり、自分の給料や人件費は
原価に入っていなかったから。
- 糸井
- そうですよね、うん。
- 寺尾
- 原価は材料だけだった。
経費はあってないようなものでしたが、
経費って、じつははっきりとあるんです。
- 糸井
- うん、ありますよね。
- 寺尾
- 経費を除いた先の利益、残るかどうか。
そういう計算をしていけばしていくほど、
「売れない価格」になってしまいます。
いいものは作りたいんだけど、
ダメだと思って無理に圧縮する。
価格はそれでも高くって、
自分たちはかなり無理している、という商品を
作ってしまうことになりました。
そこから4~5年経って、
このライトを作りました。
- 糸井
- かっこいいライトですね。
- 寺尾
- はい。すごくいいデザインだと自分では思ったし、
塗装も3回塗っていて、
ものとしては、よくできてるんです。
おかげでヤマギワさんやカッシーナさんが
扱ってくれて、評判もよかった。
しかし、そのときに
リーマン・ショックがやって来まして。
- 糸井
- ああ‥‥。
- 寺尾
- 高級品がすべて売れなくなりました。
うちの注文は当時、
ファックスでいただいていたんですけど、
ファックスがぴたりと鳴らなくなってしまいました。
3週間ぐらい、1回も鳴らないんですよ。
- 糸井
- きついなぁ。
- 寺尾
- 「ああ、さてはファックス壊れてんだ」と思って。
- 糸井
- うん(笑)。
- 寺尾
- でも、自分で電話かけたら、
ファックスが鳴るんですよ。
まさかとは思ったんですけど、やっぱりな。
「ファックス壊れたんじゃないわ。
ものが売れないだけなんだわ」
こんなにいいライトなのに、なんで売れないのかな?
結局たどり着いた結論は、
「必要ないから売れないんだ」ということでした。
人間、必要なものはどんな状況でも買います。
そう思い至っても、注文がシャットダウンで、
会社が倒産寸前。
少なくとも5年ぐらい経営やってたんで、
「あ、これは会社がつぶれるな」
と思いました。
- 糸井
- うん、わかったでしょうね。
- 寺尾
- 音楽もダメだったけど、
今回もまたダメだったなぁ、
と思いました。
- 糸井
- 音楽のときに比べて、
寺尾さんの一生懸命さは
同じようなものだったのですか。
- 寺尾
- いや、こっちのほうが上でした。
- 糸井
- ああ、大人なぶんだけね。
- 寺尾
- そうです、そうです。
- 糸井
- そうですよねぇ。
<つづきます>
2016-01-15