バルミューダのパンが
焼けるまで。
バルミューダ株式会社 寺尾玄 × 糸井重里
第7回 風との出会い。
寺尾
リーマン・ショックで注文が止まった。
でも、ジタバタして
売れないものを売りにかかってもしょうがない。
だから‥‥ここでもう、
いちばんやりたかった開発をやって、
倒れるなら前に倒れようと思ったんです。
糸井
うん、うん。
寺尾
で‥‥やりたかった開発が、扇風機でした。
扇風機は、絶対にもういちど「来る」と
以前から思っていました。

必要か必要じゃないかで考えると、
扇風機は必要です。
すでにエネルギー問題はあるし、
もし地球温暖化がほんとうに進むのであれば、
10年後の夏はもっと暑いはずです。
そこで電気代が高くなっていたら、
いまのようにエアコンが使えなくなるかもしれない。
そのとき、次の時代の扇風機があったら、
売れるんじゃないかなと思ったんです。
糸井
いわば、ここで高杉晋作が出てくるわけですね。
寺尾
そうですね、奇兵隊的な考えです。
扇風機について、前からアイディアはあったのですが、
なにしろそんな金銭状況なので
簡単にはいきません。
扇風機サイズの家電だと
金型を作るのにだいたい3000万円かかります。
初回の在庫の買い入れで
プラス2〜3000万円かかるので、
結局、5000万円コースの初期投資が必要です。
当時の決算状況や売上げでは、
そんな商売はできませんでした。
糸井
うん、うん。
寺尾
だけどもう、会社がつぶれるんだから、
関係ないや、ってことで、やることにしました。
糸井
前に倒れるってそういうことか。
寺尾
はい(笑)。
それで、開発をはじめたら
この扇風機の特徴である「羽根」が
すぐにできちゃったんですよ。
糸井
おお。
寺尾
この羽根は二重構造になっていて、
内側から遅い風、外側から速い風が出ます。
そうすると、外側の風が
内側に引き込まれていくので、
2種類の風がいったん1箇所に集まります。

自然の風と扇風機の風のいちばんの違いは、
風の形です。
ふつうの扇風機の風は、渦巻き状。
軸流ファンを回して流体を送り出しています。
モーターボートの後ろの水流のような渦が必ず出ます。
糸井
ああ、なるほど。
寺尾
けれども、自然の風は大きな「面」でやってきます。
面の大きさ、渦のありなしが
自然の風と扇風機の風の大きな違いです。
扇風機の風って、
あたりつづけると、ちょっときつくなるでしょう。
糸井
そうですね。
寺尾
だからひとりでいるときも
「首振り」をオンにしてしまいます。
そうすると結局、一瞬しか風はやってこないから、
涼しくないんですよ。

扇風機は、涼しさを求めて使うのに、
涼しさを提供できていない。
「自然の風が扇風機から吹いてくりゃいいんだよな」
いろいろ試行錯誤をして、この羽根が生まれました。
糸井
寺尾さんが扇風機を発案された、
基礎体力というか、知識は
いったいなんですか。
寺尾
「これはおそらく流体力学の話なんだろうな」
と思ったので
まずは紀伊國屋書店に行って‥‥
糸井
今度は本屋さん(笑)。
あいかわらずロールプレイングゲームが
続いてるんですね。
寺尾
そうなんです。
「『風の書』を手に入れた」ジャジャーン、ですね。
じっさい、『風の書』は3冊買いました。
すごくやさしい本と、中くらいの難しさの本と、
学者が書いてる論文クラスの本。
とりあえず読んでいったら、
結局、流体力学について、
人はまだよく理解してないことがわかりました。
糸井
あの分野は
実験を積み重ねていくんですよね。
寺尾
そうです。
酸素の粒子がいくつあるかというと、
何億個、何兆個です。
解析ってできないんですよ。
だから、そこからはあくまでも仮説の理論で
やっていく。
そして、実験で
「ああ、やっぱりその通りっぽいや」
と証明していきます。

ざらざらしたサメ肌が
なぜ速く進むために必要なのか、
フクロウの翼には逆方向についた突起があって
そのせいで音もなくはばたけるけど、
それはなぜかは説明できない。

おそらくどの科学分野も一緒だと思いますが、
先端まで行くと、
まだまだわからないことだらけなんですね。
だから、
「自分も自由に仮説を発想していいんだな」
と思って、二重構造を思いつきました。
糸井
学者は自然の風の再現をしなくていいから、
こういう仮説は立てないですもんね。
二重を思いついたきっかけは、ありましたか?
寺尾
じつは発案のきっかけになったのが、
テレビ番組の『30人31脚』でした。
小学生がやる、長い2人3脚のレースです。
よーいドンで脚をつなげて進みますが
当然、遅い子と速い子がいます。
番組をじーっと見ていたら、
遅い子に列全体が
どんどん引き寄せられていって倒れる、
ということがわかってきました。
糸井
もう、そのときは何を見ても
風のことばっかり考えていたんですね。
寺尾
そうなんです。
「あれ、流体でも起きるんじゃないかな」
と思いました。おかしいですね。
そして、二重構造の羽根をつくり、
中が遅い子、外が速い子に設定しました。
よーいドンで進めば、
中側の羽根が送り出す空気の量が少ないので、
それを補おうとして
外からの風が内側に引き寄せられ、
一点で集中してぶつかり合うことで、
渦成分が壊れます。
壊れたあとは面で移動する風に生まれかわる。
これはいま、世界各国で特許になっている技術です。
糸井
その風、あたってみたいなぁ。
何日くらいで実現に至ったんですか?
寺尾
会社の倒産を目前にして
「前に倒れよう」と思ってやりはじめてから、
2か月ぐらいでできちゃいました。
糸井
‥‥そのあたりがおもしろいところですね。
寺尾さんには
「おまえ、いい気になれよ」という神様が
ついているのかもしれませんね。
いつも落ち込み切れないですもん。
寺尾
そうなんですよ。
できちゃったので、
「これヤバい、つぶれてる場合じゃないぞ」(笑)。
糸井
また、「俺は天才だぞ」になります。
寺尾
絶対に資金調達して、
ものにしないといけないと思いました。
当時、いろんな人に言われたのが、
「いいから、この羽根を
 サンヨーとかパナソニックに持っていけ!」
ということでした。
糸井
ああ、なるほど。やり方としてはそれもある。
寺尾
私は出がロックバンドだから、
「すっごくいい曲できたのに、
 アイドルに売ってどうすんだ」
という気持ちに、当然なります。
糸井
やっぱり俺が歌う、と。
寺尾
ですからパナソニックには行かず、銀行に行って、
「6000万円貸してください」と言いました。
「バカですか」と言われて、
「そうですよね」と、帰りました。
糸井
「そうですよね」って(笑)。
もう、それまでにいろんな経験が
ありましたからね。
寺尾
はい、それはもう、すごすごと帰りました。
助成金をなんとかもらえないかな、とか
いろいろ狙いましたが、
いよいよやべぇな、というところまで来ました。
そこで、私がどこに行ったか?
糸井
どこだろう。また‥‥
寺尾
はい、また工場です。

この羽根は、送風効率がすごくいいので、
ゆっくり回す必要があるんです。
通常の扇風機であれば
毎分600〜1000回転くらい回りますが、
私たちの羽根は、
いちばんやさしい風だと250回転しかしません。
回転数を「遅く」するためには
従来のACモーターではなく
DCブラシレスモーターという技術が必要でした。
この専業メーカーが神田にありまして、
そこの社長にこの羽根をプレゼンして、
「まだ金は調達できてないですが、
 御社でモーターを丸ごと供給してもらいたい」
という話をしました。

リーマン・ショックのときだったので、
そのメーカーさんも、
大手からの受注がすごく減っていました。
新しいチャンスを探してたんですね。

「よしわかった。
 やってあげるから、寺尾くん、
 がんばって資金調達してこい」
という話になりました。

だけどやっぱりにっちもさっちも
お金が調達できなくて、いよいよ
「ヤバいぞ、寺尾くん!」
「はい、ヤバイです!」
どうしようもない。
そのとき、
「じゃ、中国行って、試作品を1個作ってきなよ」
と、その社長が言ってくれたんです。
糸井
試作品。
それって、できるものなんですか。
寺尾
できます。
われわれの世界では、必ずやるんです。
ただし、1個だけの、削り出しの手作りです。
最終プロトタイプというのは
トースターや扇風機だと
だいたいひとつ4〜500万かかります。

「試作品の制作費を貸してあげよう。
 渡航費、宿泊費、食費、
 全部俺が1回貸してやる。
 とにかく1個作ってこい」

その社長からお金を借りて、
2週間ぐらいかけて作り、
私は扇風機を持って帰ってきました。
<つづきます>
2016-01-16
教えて、バルミューダ!
Q.
私と母は毎朝食トーストと珈琲なのですが、
歯の悪い母はパンの種類や
その日の焼き上がりによって
みみがかたいと、みみをきれいに残します。

バルミューダで焼くトーストの
みみの焼き上がり状態、教えて下さい。
(m)


A.
パンのみみまでサックリと焼けるので、
パンのみみが嫌いだったお子さまも食べてくれた、
というお声をいただきます。
みみ特有のもっさりとした感じがなくなり
さっくり感が出て喜ばれていると感じています。

ただ、逆にやや焼きすぎたときに感じる
みみのかたさは、
歯ぐきに差さるようでおいしくいただけないですね。

私たちがおすすめする焼き時間であれば、
水分がほどよく残ったサクサク感で
食べやすく焼きあがると思っております。

パンは購入してから日が経つにつれ
みみもかたくなると思いますので、
購入してその日に食べない分は冷凍して、
食べるときに冷凍のまま焼くこともおすすめします。
(回答:バルミューダキッチンチーム木下さん)