バルミューダのパンが
焼けるまで。
バルミューダ株式会社 寺尾玄 × 糸井重里
第9回 自分に期待をしているか?
寺尾
若い頃にした放浪旅の初日、
私はスペイン南部の町、
ロンダというところに行きました。
成田から乗り継ぎ便に乗ってマドリッドまで行って、
マドリッドからマラガという町に向かい、
マラガから岩肌を登っていくバスに乗って
やっと着く町です。
17歳で「じゃ、行くわ」と
カッコよく出発したものの、
到着してものすごく寂しくなりました。
糸井
言葉もわかんないし。
寺尾
知ってる人いないし、
心細くて腹減ってて。
そうしたら、そこの町のパン屋が
ちょうど「パン焼きたて」の時間だったんです。
数ペセタの小銭を出して、
1個だけ小さいパンを売ってもらいました。
それ食った瞬間に、涙が出てきたんです。
糸井
あぁ、わかるわ、それは。
寺尾
心細さや不安と同時に
「ここから俺は、旅に出るんだ」
という期待もあって、
17歳だから、それらすべてが受け止められなくて。
糸井
あふれちゃったんですね。
寺尾
はい、食べた瞬間に。
パンって、食べたらなくなりますけど、
じつはなくなってないんですよね。
パンにあったエネルギーが
からだに移るだけなんです。
パン食べて涙がワッと出たら、次は、元気が出た。
糸井
うん、なるほど、なるほど。
寺尾
途方に暮れてた自分が
「さあ、宿でも探すか」と思えたんです。
結局、食べるってそういうことなんですよね。
糸井
その17歳の少年に
エネルギーが乗っかったんですね。
寺尾
私は毎朝、トーストを食べています。
スペインのその思い出のおかげで
「トーストはもっとおいしくなる」
「食べるってもっとすげえことなんだけどな」
といつも思っていました。
糸井
朝においしいのは、うれしいことですよ。
寺尾
そうなんです。
おいしいことで「うれしい」が増えて、
朝、少しだけでも元気が出るんじゃないかな。

我々はテクノロジーの会社なので、
短いですが、自分たちなりに
さまざまな工夫の歴史があり、実績もあります。
うちのチームがトースターにかかったら、
絶対にパンをうまくみんなに食わせることができる、
と思いました。

あるとき、会社のみんなで
バーベキューをやることになりました。
中止にしようかと思ったくらいの土砂降りの日でした。
そのときに食パンを持ってきた人がいて、
炭火で焼いたらすっごくおいしかった。
周りはカリッカリで、中がふわっふわ、
アツアツなんです。
「これヤバい!」
「これが実現できたらバルミューダのトースターだ!」
目標がいきなりできました。
糸井
偶然にも。
よかったですね。
寺尾
はい。そこから実験です。
何枚もくり返しパンを焼きました。
しかしそこで、炭火にはあまり
意味がないのがわかりました。
むしろ、おいしさのヒントはあの
「土砂降りの水分」にあったんです。
糸井
だから、スチームトースターなんですね。
寺尾
そうです。
うちはゼロから開発しますので、
デザインを含めてそこから1年かけて、
発表が6月になりました。
糸井
技術者またはプロデューサーとしては
その「1年」は覚悟できている時間です。
だけど、社長としては、
「早くできないかな?」って思いますね。
寺尾
もう、死ぬ思いでした。
今回、スタッフに
そうとうストレスかかったと思います。
糸井
「変なものにしちゃダメだ。ゆっくりやれよ」
なんつってね。でも、
「早く出ないかな‥‥」
寺尾
そのとおりです。
ただ、うちの社員は
こういう会社に入ったと
覚悟を決めてる人が多いと思います。
糸井
ああ、そうか。
扇風機以降に入った方が多いんだった。
技術をこういうふうに商品にするということを
おもしろがる心の人たちなんですね。
寺尾
そうですね。
形ある、重量のあるものを作っているけど、
扱うのは「人びとの体験」です。

重力って、結局はエネルギーです。
動かすのも置いとくのも
やっぱり金がかかります。
糸井
そうか、倉庫代も運搬費もかかりますね。
寺尾
軽いものや形ないもの、
ソフトウェア、IT系とは、やっぱり違います。

形のないものでは、パンは焼けません。
我々は道具に囲まれて暮らしています。
道具を多くの人に買ってもらおうとしたら、
「安く大量に」しかありません。

私たちのような会社が
この社会の中で勝負していくことを考えると、
生きる方法はひとつしかありません。
ふつうの道具と私たちの作った道具、
何が違うかといえば、やはり体験です。
質がいいだけじゃだめなんです。
提供できる体験が、いいものでないとならない。
糸井
音楽のライブコンサートに行くことも、
何も手に持って帰らないけど、
体験を買いますよね。
寺尾さんは「体験」とおっしゃるけど、
ぼくはつねづねそれを
すごす「時間」というふうに考えているんです。
寺尾
ああ、なるほど。
糸井
例えば、競馬好きな人が
競馬場に行くのは楽しいことです。
でも、もしもたいへんな大損をしてしまったら、
移動時間や予想をした時間も含めて
さかのぼって悪い時間だったと思うかもしれない。
買い物も、いい買い物と悪い買い物があると思うけど、
だいたい「あとでどうだったか」ジャッジするんです。
食べものであろうが、ものであろうが、
イベントであろうが、人間関係であろうが、同じです。

けれども、もしも次の場所に
いい時間が用意された場合には、
「あれがあって、これがあるんだな」
と思うことができます。
そうすると、悪かった時間に対しても、
カウントがあがります。
つまり、あとのいい時間に悪い時間が
呼び寄せられるんですよ。

いい時間を得たいと思っている人たちに
「ああ、あれはよかったな」という時間を
プレゼントできるようなつきあいができたら
すばらしいと思います。
会社のやることって、それかなと思います。
寺尾
「いい悪い」のジャッジを
人は、あとでしてるんですね。
たとえば、競馬場に行くときに乗るモノレールは
モノレール会社が提供してるわけですけど。
糸井
「モノレールに乗ってる時間は
 すごく楽しかったのに、
 競馬場で嫌なことがあった」
とはなかなか思わず、
セットにして考えちゃうんです。
でも、
「あーあ、財布の中に一銭もなくなっちゃった」
というときに、すばらしい彼女と出会ったとしたら、
またカウントを変えちゃうんですよ。
そういうことに、うちはいつも
関わっていたいなと思っています。
寺尾
ということは、つまり、
次が大事だ‥‥ということでしょうね。
糸井
そうですね。
「あの人は必ず出してくる」という期待に応える。
何度応えたかが、ブランドの力になると思います。
寺尾
はいはい、はいはいはい。
糸井
でも、寺尾さんは応えそうな感じがします。
浦安で「泥棒」と言われたときから(笑)、
そんな気がする。
いつも自分に期待をしてるでしょう、やっぱり。
寺尾
してます。
糸井
してますよね。そこですよね、たぶん。
「できるんだろうか」と口では言ってるけど、
できないということがあっちゃ困る。
しんどいけど、おもしろいですよね。
寺尾
おもしろくなかったらちょっと‥‥
糸井
やれないですね。
寺尾
やれないだろうなぁ。
<つづきます>
2016-01-18
教えて、バルミューダ!
Q.
今のトースターが壊れたら、
バルミューダのトースターが
欲しいな〜と思っていました。
我が家では、コロッケなどの揚げ物を
トースターであたためなおしていますが、
バルミューダのトースターでは、
上手にあたためなおしはできますか。
アルミホイルを引けば、大丈夫でしょうか。
パンくずやガラス部分の掃除も簡単にできますか。
(hope)


A.
揚げもののあたためなおしには
従来のトースター機能と同じ
クラシックモードをおすすめしています。
300W、600W、1300Wを選べますので、
コロッケは300W(約180度まで温度上昇)であたためると
中もほんのりあたたかくすることができます。
アルミホイルを敷いたり、
耐熱容器に底面から高さを出すための網を敷くと
ヒーターに油が落ちないので安心してお使いいただけます。
フライドチキンはスチーム機能のある
クロワッサンモードであたため直してもおいしかったです。

パンくずトレイ、焼きアミは外して水洗いできます。
ガラス窓も拭いていただけますので、
いつも気持ちよくお使いいただけると思います。
(回答:バルミューダキッチンチーム木下さん)