バルミューダのパンが
焼けるまで。
バルミューダ株式会社 寺尾玄 × 糸井重里
第10回 まじらないと生まれない。
糸井
ぼくは、このトースターを
「予約」の時期に買ったから言うんですが、
トースターの次の展開案を考えても
いいと思うんですよ。
寺尾
いやぁ、おっしゃるとおりです。
いちどトースターを出したら、
小さいバージョンや大きいバージョン、
アレンジバージョンを考えたりできます。
それは、はじめてトースターを作るのに比べれば
すごく簡単なんです。
経験、知見、すべて
パッケージで持っているからです。
ですから、もの作りメーカーとしては
1個のアイテムを作ったら、
その展開をするのが、いわば定石なんですよね。
糸井
でも、バルミューダは、してないですよね。
寺尾
はい、してないんですよ。
「扇風機やったでしょ? 加湿器やったでしょ? 
 ヒーターやったでしょ? 
 次、どんなおもしろいのやるの?」
という私の性格が
事業の効率化ができていない一因で、
これはいま、自分自身が大反省してるところです。
なぜかホームランしか狙わないという
社風があって‥‥。
糸井
わかります、わかります。
寺尾
これはまぎれもなく私のせいです。
だから、次もキッチンに関わることで
何か考えてもいいのかもしれません。
糸井
うん。食べものはおもしろいですねぇ。
寺尾
はい、たいへんおもしろいです。
結局、すべての料理は化学反応なんですよね。
じつは今回、トースターを開発するにあたって、
扇風機の『風の書』にあたる
『食の書』を私たちは手に入れました。

この本にはそれぞれの食材をいつぐらいから
人間が食べはじめたのか、
どういう化学物質で構成されているのか、
この温度でこんな変化をするとか、
化学的解説がこまやかに入っています。
メイラード反応や澱粉のアルファ化が
何度で起きるかも、
基本的にここから勉強しました。
そこから得た知識と、
自分たちでやった実験結果を
トースターの制御部分に入れ込んでいるんです。

センサーの場所、ヒーターの制御方法、
そしてマイコンが何秒ごとにウォッチするかを
プログラムに書き換えて実現しています。
糸井
すごいですよ。
トースト1枚焼くときの、
熱線の灯り方もこまかいですから。
寺尾
やっぱり化学反応って、
何かと何かがまざることなんです。
糸井
うんうん、そうですね。
寺尾
1個のものでは化学反応は起きない。
氷は水になったりしますが、
同じものなんです。
糸井
状態が変わるだけですね。
寺尾
例えば、すごくわかりやすい例でいうと、
「乳化」です。
マヨネーズは乳化したものなんですが、
あれは本来、まざらない水と油を
かきまぜて乳化しているんです。
それによって、ものすごいうまみが出ます。
水だけでも、油だけでもそうはならない。

ひとつのものにもうひとつを組み合わせて、
温度や振動、攪拌という
アクションが起きてはじめて、何かが起きるんですよ。
こうしてほぼ日さん、TOBICHIと
私たちがいっしょにやらせていただけるというのは
結局そういうことなんだろうなと思っています。
糸井
まさしくそうですね。
寺尾
どんなものでも、
そのまじり合いで拡散したり、
次のことが起きるんだと思います。
まじらないかぎり、何も起きない。
糸井
うちの会社はミーティングを
ものすごく大事にするんです。
だから、ミーティングの部屋がいっぱいあります。
ひとりで考えていることというのは、
ぶつかることも、共感もない。
差異と共感を見つけるのがミーティングだと
ぼくは思っています。
寺尾
差異‥‥つまり、違いですね。
糸井
はい。ギャップです。
「ぼくたち、何が違うんだろう?
 何が一緒でジーンと来たんだろう?」
それをどれだけ見つけるかがミーティングの肝です。
バルミューダさんが
次の商品を作るきっかけになったり、
市場を新しく見通せるような場所を
我々は作れるかもしれない。
出会ってまじることで、
「バルミューダ」も「ほぼ日」も
やったことないことをやれます。
寺尾
そうですね。
糸井
こんなふうに、ある程度対等な気持ちで
似たことを思っている会社同士だと
やりやすいですね。
あまりにも違うと、
機能や「弱み強み」で必要とすることはある。
だけど「おもしろさ」で必要とするというふうには
なりにくいです。

深いところでやりとりするのは、
別にしなくてもいいことなんですけど、
このふたつの会社は、
それをしないとつまんなかったですね。
寺尾
そうですね。
私も報告をいろいろ受けてますが、
御社のチームとのミーティング、
そうとうおもしろいらしいんで、
うちのスタッフがなかなか
帰ってこないんですよ(笑)。
糸井
うちのチームも
やけにおもしろがってるし、
両方のお客さんも
きっとたのしんでくれるはずです。
TOBICHIから、
パンの匂いがするなんて、最高だと思う。
新しいことをやるときってやっぱり、
1回ずつ「楽しみだね」と言うものの、
ちょっと心がドキドキして、
「心配だね」という気持ちがあります。
その両方がいい具合でまじっているから、
とてもいいと思う。
寺尾
いやぁ、ブランドの考え方とか、
糸井さんがおっしゃること‥‥、
じつはいままでにないことをたくさん言われて、
今日は刺さりまくりました。
糸井
ほんとうにおもしろかった。
形あるものを作っている人の、
話の内容の「重い軽い」が伝わって、
すごく勉強になりました。
ありがとうございました。
寺尾
ありがとうございます。
一同
(拍手)
(おしまいです。ご愛読ありがとうございました)
2016-01-19