- 糸井
- ぼくは、このトースターを
「予約」の時期に買ったから言うんですが、
トースターの次の展開案を考えても
いいと思うんですよ。
- 寺尾
- いやぁ、おっしゃるとおりです。
いちどトースターを出したら、
小さいバージョンや大きいバージョン、
アレンジバージョンを考えたりできます。
それは、はじめてトースターを作るのに比べれば
すごく簡単なんです。
経験、知見、すべて
パッケージで持っているからです。
ですから、もの作りメーカーとしては
1個のアイテムを作ったら、
その展開をするのが、いわば定石なんですよね。
- 糸井
- でも、バルミューダは、してないですよね。
- 寺尾
- はい、してないんですよ。
「扇風機やったでしょ? 加湿器やったでしょ?
ヒーターやったでしょ?
次、どんなおもしろいのやるの?」
という私の性格が
事業の効率化ができていない一因で、
これはいま、自分自身が大反省してるところです。
なぜかホームランしか狙わないという
社風があって‥‥。
- 糸井
- わかります、わかります。
- 寺尾
- これはまぎれもなく私のせいです。
だから、次もキッチンに関わることで
何か考えてもいいのかもしれません。
- 糸井
- うん。食べものはおもしろいですねぇ。
- 寺尾
- はい、たいへんおもしろいです。
結局、すべての料理は化学反応なんですよね。
じつは今回、トースターを開発するにあたって、
扇風機の『風の書』にあたる
『食の書』を私たちは手に入れました。
この本にはそれぞれの食材をいつぐらいから
人間が食べはじめたのか、
どういう化学物質で構成されているのか、
この温度でこんな変化をするとか、
化学的解説がこまやかに入っています。
メイラード反応や澱粉のアルファ化が
何度で起きるかも、
基本的にここから勉強しました。
そこから得た知識と、
自分たちでやった実験結果を
トースターの制御部分に入れ込んでいるんです。
センサーの場所、ヒーターの制御方法、
そしてマイコンが何秒ごとにウォッチするかを
プログラムに書き換えて実現しています。
- 糸井
- すごいですよ。
トースト1枚焼くときの、
熱線の灯り方もこまかいですから。
- 寺尾
- やっぱり化学反応って、
何かと何かがまざることなんです。
- 糸井
- うんうん、そうですね。
- 寺尾
- 1個のものでは化学反応は起きない。
氷は水になったりしますが、
同じものなんです。
- 糸井
- 状態が変わるだけですね。
- 寺尾
- 例えば、すごくわかりやすい例でいうと、
「乳化」です。
マヨネーズは乳化したものなんですが、
あれは本来、まざらない水と油を
かきまぜて乳化しているんです。
それによって、ものすごいうまみが出ます。
水だけでも、油だけでもそうはならない。
ひとつのものにもうひとつを組み合わせて、
温度や振動、攪拌という
アクションが起きてはじめて、何かが起きるんですよ。
こうしてほぼ日さん、TOBICHIと
私たちがいっしょにやらせていただけるというのは
結局そういうことなんだろうなと思っています。
- 糸井
- まさしくそうですね。
- 寺尾
- どんなものでも、
そのまじり合いで拡散したり、
次のことが起きるんだと思います。
まじらないかぎり、何も起きない。
- 糸井
- うちの会社はミーティングを
ものすごく大事にするんです。
だから、ミーティングの部屋がいっぱいあります。
ひとりで考えていることというのは、
ぶつかることも、共感もない。
差異と共感を見つけるのがミーティングだと
ぼくは思っています。
- 寺尾
- 差異‥‥つまり、違いですね。
- 糸井
- はい。ギャップです。
「ぼくたち、何が違うんだろう?
何が一緒でジーンと来たんだろう?」
それをどれだけ見つけるかがミーティングの肝です。
バルミューダさんが
次の商品を作るきっかけになったり、
市場を新しく見通せるような場所を
我々は作れるかもしれない。
出会ってまじることで、
「バルミューダ」も「ほぼ日」も
やったことないことをやれます。
- 寺尾
- そうですね。
- 糸井
- こんなふうに、ある程度対等な気持ちで
似たことを思っている会社同士だと
やりやすいですね。
あまりにも違うと、
機能や「弱み強み」で必要とすることはある。
だけど「おもしろさ」で必要とするというふうには
なりにくいです。
深いところでやりとりするのは、
別にしなくてもいいことなんですけど、
このふたつの会社は、
それをしないとつまんなかったですね。
- 寺尾
- そうですね。
私も報告をいろいろ受けてますが、
御社のチームとのミーティング、
そうとうおもしろいらしいんで、
うちのスタッフがなかなか
帰ってこないんですよ(笑)。
- 糸井
- うちのチームも
やけにおもしろがってるし、
両方のお客さんも
きっとたのしんでくれるはずです。
TOBICHIから、
パンの匂いがするなんて、最高だと思う。
新しいことをやるときってやっぱり、
1回ずつ「楽しみだね」と言うものの、
ちょっと心がドキドキして、
「心配だね」という気持ちがあります。
その両方がいい具合でまじっているから、
とてもいいと思う。
- 寺尾
- いやぁ、ブランドの考え方とか、
糸井さんがおっしゃること‥‥、
じつはいままでにないことをたくさん言われて、
今日は刺さりまくりました。
- 糸井
- ほんとうにおもしろかった。
形あるものを作っている人の、
話の内容の「重い軽い」が伝わって、
すごく勉強になりました。
ありがとうございました。
- 寺尾
- ありがとうございます。
- 一同
- (拍手)
(おしまいです。ご愛読ありがとうございました)
2016-01-19