糸井 |
すみません、こんなに大勢で‥‥。
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小田 |
いえいえ。
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糸井 |
みんなが「六花亭に行きたい!」って
言うもんですから。
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小田 |
それはそれは。
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糸井 |
まあ、僕も含めての「みんな」ですが。
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小田 |
ようこそ、いらっしゃいました。
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糸井 |
ここにいる人たちは
それぞれに被災した事業者さんですけれど
きっとみんな、六花亭さんから
いろいろ聞きたいと思って、来てるんです。
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小田 |
気仙沼からお越しになるとうかがってね、
僕らの思いなんて
たかが知れているんだけども‥‥
ほんと、待ってたんです、斉吉商店さん。
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純夫 |
ああ、ありがとうございます!
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小田 |
ご先代は‥‥。
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純夫 |
「吉之進(きちのしん)」と申します。
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小田 |
ああ、それで「斉吉」さんね。
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純夫 |
そうです。「サ・イ・キ・チ」と
ちょっと、言いにくいんですけど。
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小田 |
でも、いいじゃないですか、響きが。
「さいきっつぁん!」って。
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小野寺 |
気仙沼では、そう呼ばれてます。
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小田 |
ああ、やっぱり。うん、そうでしょうね。
僕だって、勝手にそう呼んでましたもん。
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和枝 |
小田社長に「さいきっつぁん」だなんて
最高に、感激です(笑)。
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純夫 |
われわれ津波で被災しまして
これから、もういちど出直しなんですけど‥‥。
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小田 |
ええ。
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純夫 |
六花亭さんの「スタート」というのは?
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小田 |
親父の代の、ホワイトチョコレート。
あれができるまではね、
僕らも「その日暮らし」だったんです。
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糸井 |
へぇー‥‥。
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小田 |
まだ、生のお菓子しかつくれなかったから、
そうだなぁ‥‥
毎日毎日、さんまを焼いて売って
暮らしてるようなものだったんですよ。
でも、「さんまの缶詰ができた」ところで
「企業」になったんだな、きっと。
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糸井 |
その岐路が、ホワイトチョコレートだった?
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小田 |
日持ちする商品をつくりたくても
なかなか、うまくいかなかったんですよね。
でも、あるときに
「これで、なんとか橋を渡れたかな」
というきっかけが訪れて、
六花亭も
「家業」から「事業」へと変わったんです。
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糸井 |
なるほど‥‥1970年代ですね、じゃあ。
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純夫 |
家業から事業、ですか。
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小田 |
たとえば、糸井さんね、
これ、まだ世に出てないお菓子なんだけど、
最近、ようやくカタチになったの。
コーヒーに合うと思うんだ。
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糸井 |
いただきます。へぇー‥‥うん、おいしい。
これ、できあがるまで、どのくらい時間を?
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小田 |
実はね、大昔からあったんですよ。
でも、
ダウンサイジングして食べやすくしたり、
あまり整ってなかったところを揃えたり、
そんなことをしながら
「あ、これならいけるなあ」というね、
そういう手応えが、最近やっと。
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糸井 |
つまり、ずっと「改良」を重ねてきた、と。
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小田 |
僕ら、ショートケーキなんかの生菓子も
つくるんですけど‥‥。
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糸井 |
ええ、帯広の六花亭本店で食べました。
たしか、百何十円でしたっけ、
なんか嬉しくなっちゃうような値段で。
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小田 |
でも、生菓子というのは
やっぱり「水商売」なんですよね。
つまり「家業」の領域。
私ども、社員1300人が食べていくには
もっと「かたぎの商売」に
焦点を合わせていかないと、ダメでね。
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糸井 |
つまり、流行りっぽいものじゃなく?
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小田 |
そう、ファッションばかり追いかけてると、
絶対に行き詰まるんです。
だから、お菓子も日持ちさせられる商品を
つくれないとね、
社員みんなを、食わせていけないんですよ。
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純夫 |
ああ‥‥。
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小田 |
ま、そういう父親の姿を横目で見ていて
息子も‥‥つまり僕ですけど、
「ああ、やっぱり、
同じ道を歩んでいかないとな」
と、思ったわけです。
たしかにね、「ファッション」は華やか。
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糸井 |
誘惑はあるんですね。
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小田 |
あります、あります。
でも、その「華やかさ」を
じいっと見ながらも、ガマンするわけです。
パティシエがケーキをデコレーションして、
ギャルがこう、うじゃうじゃと‥‥。
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糸井 |
「ギャルが、うじゃうじゃ」(笑)
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小田 |
辛抱、つらかったですねぇ。
だから「さいきっつぁん」も、
これから再スタートとするというときに、
「さんまの焼き魚」を
やらないことじゃないですかなあ。
なんぼ、上手に焼けたとしてもね。
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糸井 |
つまり「水商売」をやらない、と。
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純夫 |
はい、そう思いました。
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糸井 |
ようするに「かたぎのさんま」を。
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純夫 |
これまで、私どもも
いろいろやってきたつもりなんですけど、
出直すにあたって
今のお話、すごく新鮮に聞こえました。
家業の部分だけではダメだよという‥‥。
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小田 |
いやいや、ダメなことはないんですよ。
家業に徹するなら、徹しないとダメ。
中途半端が
いちばん、いかんなあと思うわけです。 |
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<つづきます> |