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上大岡トメの、タネがいっぱい。
トメのタネ その3 2次曲線が伸びるまで、あと少し。

トメ 成功の2次曲線って、知ってる?
── いえいえ!
トメ 2次曲線って、カーブしてるグラフ、
わかりますよね?
── ???(さすが理系だな)
トメ ほら、こういうやつ。
タテ軸が成果、ヨコ軸が時間、ね?
習いごとでも仕事でもなんでもそうなんだけど、
最初はなかなか出ないんですよ、成果って。
でも、あることをきっかけに
グアーと出るんです。
で、みんなこの「A」のあたりで
やめちゃうんです。



ふつうは成長のイメージを
こんなふうに正比例で考えちゃう。

── でも、「A」のあたりにいるときは
きついですね。
トメ そうそう。時間かかって、成果も出ないし。
でもね、もうひと息なんだよ!
── おお!
「A」にいる人、あなたはいま、
もうひと息なんだよ!
トメ もうちょっとがんばれば、急に、
すっごいことになるんだよ!
習いごとも仕事も、はじめてのときは
目新しいから楽しくて
テンション上がるんですけど、
3週間、3ヶ月で、6ヶ月、1年、3年で
自分の能力が止まるように
思えちゃうんですよね。
そこでけっこうみんな、やめちゃう。
── 飽きも手伝って。
トメ でも、乗り越えるとガッとのぼる。
また止まって、ガッとのぼる。
この「2次曲線」の連続なんですよ。
── 自分の力が上がるのは、
「きっかけ」ということも
ありますけど、しかしその大半は
「自分の積み上げたものの力」によりますね。
トメ そう、そう!
私、イチロー選手が大好きでね。
ダーリンの『キャッチボール』
買って読みました。
「そうそう!いいこと言う!」って
本ほとんどに線を引いちゃってね!!
── ハハハハ。
トメ そのイチロー選手が、
大リーグで大記録を達成したときに、
記者会見で言ってたもん。
「どんなに劇的な成果も
 毎日の小さなことの練習の積み重ねだ」
って。そう聞いたとき、
ガッツポーズしたよ。
そうだよ、そうそう!!

私は、2次曲線の
「A」のあたりにいるときに、
ほんとうに迷っていたんです。
挿しカットの仕事しかないし、
宇部にいてフットワークも悪いし。
私ぐらいのイラストレーターなんて、
東京じゃ掃いて捨てるほどいるんですよ。
このまま終わっていくのかな、
と思ってました。
でも、そうじゃない。
そういうときは、
カーブのくねったところにいるんですよ。

だから、『キッパリ!』の61項目も
1回で終わっちゃったものがあってもいい。
三日坊主でもいい。
書いた張本人の私だって、
本を見てまた思い出してやればいいや、と
思っているくらいなんだから。
自分をダメダメダメだと思うのが
いちばんいけないことなんです。



自分を甘やかす、ということじゃなくって、
自分の可能性を信じてあげること。
ダメといったらまたダメになっちゃうもん。
自分でどんどん自分を落としていっちゃう。

自分を信じて続けていくと、
2次曲線の伸びがやってくるから。

── 「怪物」になれるから。
トメ そうそう!
── 『キッパリ!』に出てきた
あの「怪物」というかんじ、
すごくよくわかります。
どんどん見える世界がちがっていく。
トメ はじめはこんな、
フォークみたいな道具しかもっていなかったのに
わらしべ長者のように
これがシャベルになり弓矢になり
弓矢から銃になっていく。
敵も強くなるけど、
こっちの道具も技も強くなっている。
その「敵」とは、自分や仕事だったりするんだけど、
次はどんな敵がやってくるんだろうと
ワクワクしています。
いまはそんなかんじですね。

── 壁は苦しいですが
それを乗り越えるためにすることは
ちっとも苦にならないですね。
『キッパリ!』も、
この粘り腰ぐあいはすごいですもん。
トメ 下半身強いかんじでしょ。
── はい。筋肉ついてる人だな、という
かんじがします。
トメ 私のイラストレーター15年間の生活が
まるごとつまってますから。
振り返ってみると、
『キッパリ!』を書き上げた
最後の2ヶ月間は、記憶がないんです。
── 記憶が?
トメ どんなふうに仕事をしてたのか、
無我夢中で覚えてないんですよ。
ちょうど夫も長期出張でいなくて、
ごはんもいい加減。
ほんっとに、子どもたちは、
なに食べてたんだろう?
私は朝も昼も夜も
ずーっとパソコンに向かってた。
── 取り憑かれていたような?
トメ ええ。そのときに、なにかね、
「あっ、人間の可能性って
 ほんとに自分じゃ
 なんにもわかっちゃいない」

と思いました。

3月に出た『しろのあお』のときも
そうだった。
んもうね、人に言えないスケジュール。
すごい集中力で、どういう生活をしていたのか
覚えていないんです。
── 娘さんは中学生になられたとか‥‥
大丈夫でしたか、入学準備は。
トメ とりあえず、制服は作った。
── おお、納期がかかるものはヤバイ。鉄則ですね。
トメ 地元の友達もみんな心配してくれて、
「入学式の日の提出書類は、これよ!」
なあんてね。
大将 へい、次。

トメ これはなんですか?
大将 ぎんぽです。
ふたり ぎんぽ?
大将 ええ、ぎんぽ。
こんな魚です。


おすしにしたあとの残骸、
つまり骨だけを示す大将。
── こんな魚、と言われても。
トメ なんにもなくなっちゃってるじゃないですか。
── 姿からすると、アナゴの仲間かなんかですか?
大将 フジツボの、
ふたり ふ、ふじつぼ?!
大将 いやちがった、
ウツボの仲間。
トメ あ、ウツボですか。
── (ウツボ? ウツボだとしても
 すごくないか?!)

(次回につづく!)

OMAKE SHOP★※文中の線ユルユルのグラフはトメさんではなく「ほぼ日」が描きました。
2005-04-26-TUE
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