大瀧詠一さんとトリロー先生の話を。
和田誠さんの描いた、三木鶏郎さん
はじめに(予告編)


糸井 どうして、三木鶏郎さんのことに、
竹松さんはそんなに詳しいんですか?
大瀧 そう、そう、そう!
俺も今日はそこから始めてもらいたい。
「詳しい」の前に、
「なぜ、三木鶏郎さんに興味を持ったのか」
というのを聞きたいんです。
竹松 そこからですか?(笑)
大瀧 そこからじゃないと。
糸井 そうだよね。だって、すごいことですよ。
竹松 はい。出会いは、大学2年、
1986年なんです。
大瀧 『三木鶏郎集大成』が出たとき?
竹松 ええ、その年なんですが、
でも私は、まったく"三木鶏郎"という名前を
知らなかったんです。
私は日大の芸術学部で、
ゼミの先生が酒井幸雄先生と
おっしゃるんですけど。
大瀧 うん。そういう人、いるね。
本、出していたね。
テレビ放送なんとか史。
竹松 そうですね。
糸井 なんでも知っているね、しかし!(笑)
大瀧 当てずっぽうに言ってみただけよ。
糸井 そうかい!(笑)
竹松 もともと、読売新聞の政治部に
いらっしゃった先生で、
内閣や外務省のキャップで、
日本テレビや文化放送の
ニュースキャスターもされて、
日芸の文芸学科の教授になられたんですが、
「俺の授業は聞いていれば単位をやるから、
 俺のところに来いよ」と。
私たちは飽食の豊かな時代に育っていて、
サラリーマンの哀愁とかいうものを
あまり感じられなくて。
「でも、お前、昔はこうだったんだよ」
という話をしてくださるんです。
メディア論とか、授業も新しいものが
どんどん入ってきた時代ですが、
酒井先生は、
「自分はそこには付いて行けない」と。
「それよりも、もっとすごいことをした人が
 いっぱいいたのに、みんな、
 それを見ないで、
 なんでそっちに行けるのか」と。
「知っていて行くのならいいけど、
 俺が話しても、みんな、
 そこに興味を持たないじゃないか。
 今の新しいものばかりに行っちゃう」
とおっしゃるなかに、
「三木鶏郎というのが、いたんだよ」と、
そこで初めて名前が出てきたんです。
大瀧 三木鶏郎という名前を聞いて、
「この人だ!」と思ったわけ? その一言で?
竹松 いえ、まったく。
‥‥「あの、誰ですか?
トリロウって、どういう字ですか?」
と聞いてしまったぐらいで。すると先生が、
『冗談音楽』というのがあってね」と。
NHKラジオで鶏郎がやった
「歌の新聞」は「聴取者が参加できて、
聴取者が意見できる」というものであるとか、
「日曜娯楽版」というのはお化け番組で
国民的事件だったんだぞ、という話を聞いて。
「自分はあまり音楽のことはわからないけど、
 お前は面白いと思うんじゃないか」
と言ってくれたんですよ。
大瀧 どの時点で、卒論に
三木鶏郎をやろうと思ったの?
竹松 ゼミに入って半年くらいですね。
出来るうちにやっておくほうがいい、
ということで、三木鶏郎を調べてみようと。
それで、愛宕にあるNHKの博物館に通って
『冗談十年』という本を読み出したんです。
そうしたら、「こんな人がいたんだ!」と。
「え? コマーシャルの第1号を
 書いた人なの!」とか
「えっ! トムとジェリー
 鉄人28号もそうなんだっ!」と。
「なんで、みんな、知らないわけ?」と。
大瀧 フフフ‥‥!
いつでも聴けるトリローラジオ
音が聞こえないときはこちらへ!
『トムとジェリー』
作詞・作曲 三木鶏郎
歌:今野英明・畠山美由紀・高野寛・首里フジコ
演奏:アレクサンダー・トリタイム・バンド
収録:2005年12月18日 銀座8丁目博品館劇場
『Sing with TORIRO 三木鶏郎と異才たち』夜の部
再生して音が出るまでにしばらく時間がかかります。
大瀧 それで鶏郎さんとは知り合ったんですか。
まずは卒論を書いたの?
竹松 別の授業でたまたま三木鶏郎の名前が
出てきたとき、その先生に
「じつは、卒論で三木鶏郎を
 取り上げようと思うんだけども」
という話をしたら、その先生が
「三木鶏郎さんはご存命で、
 お元気でここにいるよ」
ということを教えてくださったんです。
私は、「エーッ! 生きてたんですか!」と。
まったくこの世の人ではないと
思い込んでいたんです!
一同 おぉー‥‥!(笑)
大瀧 『冗談十年』の本は古いからね。
だから、前の人のような感じはするよね。
糸井 それと、あまりにも活躍の期間が長いから。
第何期みたいに言えちゃうわけだから。
大瀧 そう。どこのポイントを取るかで
大きく変わっちゃうからね。
竹松 ええ。でも、まずは、資料が
昭和29年で切れちゃうわけなんです。
『冗談十年』の3冊しかなかったので。
糸井 あ、そうか!(笑)
それは亡くなっていると思うよね。
竹松 ええ、きっと、だから私は、
鶏郎先生は亡くなったから、もう、
名前が私たちにも伝わらないんだろうと。
弟さんの鮎郎さんは、小さいときに、
ダンディズムの象徴みたいなかたとして
覚えていたんですけれど。
糸井 11PM
竹松 そうですね。スター千一夜とか。
両親に聞いても、「あー、三木鶏郎さんは、
私たち、ラジオで聴いたものよ。
でも今は、お名前、聞かないわね」と。
糸井 うん、うん。
竹松 そんな時「ご存命で、ここにいらっしゃる」
ということを知ったわけです。
それで鶏郎先生に手紙を書きました。
「じつは卒論で取り上げようと
 思うんですけど、
 お目にかかりたいのですが」
ということを書いたら、
「ちょうど空いているから」
と手紙をいただいて‥‥
学生が卒論とか論文で
取り上げるということが
初めてだということだったんですね。
糸井 そうだろうね!
竹松 後で聞いた話だと、
すごく喜んでくれていたと‥‥
大瀧 それは喜びますよ。
竹松 自分が卒論になるなんだ、って。
それで、ここに呼んでくださったときに、
初めて私、『三木鶏郎集大成』という
LPが出ているということを聞いて。
で、鶏郎先生が、
「これも持って行きな。
 これも資料になるから」と、
そのまま卒論が書けてしまうような資料を
ドーンとくださったんです。
大瀧 へぇー!
竹松 最初に会ったときに、
「ああ、よく来たねぇー」と言って、
ほんとにすごく魅力的な先生だったので、
「ああ、こういう音楽を書く先生って、
 こういう先生なんだ!」と、ますます
「卒論、書こう!」という気になりました。
糸井 20歳くらいの女の子が三木鶏郎という人と
バーンとぶつかったら、
そこに、ものすごい宝の山というか、
情報量があるわけじゃないですか。
押し潰されなかったのも、
すごいなと思うんですよ。
竹松 それって、知らなかったからですよ(笑)。
大瀧 まだ到達地点が見えない
奥山に入り込んだみたいなものだから。
糸井 歩いていくしかないな、ということなのか。
大瀧 うん。一歩一歩、行くしかない。
竹松 そんなに“巨人”なんだけど、
「カリスマ的存在で、雲の上の人」
というほどの大事と思っていなくて。
大瀧 でも、大抵、人間ていうのは
そういうものでしょ。
やったことは大きいことだろうけど、
人間そのものは、ね。
竹松 多分、そのときに私が、
今くらいの情報量を持っていて、
すごい人だったとわかっていたら、
会いに行くのを
ためらったかもしれないですね。
物怖じしなかったのは、
「とにかく、会ってみなきゃ」
という思いがバーッと先頭に
立てしまったので。
大瀧 鈴木大拙の最後の秘書と同じだね。
糸井 すごいなー! そういう人が他にいなかった、
ということでもあるわけですよね。
大瀧 うん。だから、運命なんだよね。
その人しかいなかった、というのは‥‥。
「はっぴいえんど」の4人も、
いっぱいいたような気がするんだけど、
あの4人しかいなかったような
気もするんだよね。
糸井 ああ、そうか。そういうことなんでしょうね。
大瀧 そういうようなもので、
運命的な出会いというような
感じなんじゃないですか。
竹松 ええ。それで、ここまで続くとは
思わなかったですけど。
糸井 そうですよね!(笑)
竹松 鶏郎先生もその頃から、自分の仕事をきちんと
データベース化しておこうと言って、
自分で作っていましたから、
ちょうどそのときに手伝ってくれる人が
欲しかった。そこで、タイミングが
合ったということだったと思うんですね。
大瀧 年齢が離れているといいんですよね。
糸井 ああ、なるほどね。‥‥そうか、そうか、
一緒に滅びちゃうもんね‥‥
大瀧 不肖の弟子は、ほら‥‥みんな、
一人ずつ去って行くからね。
糸井 そうか(笑)。
大瀧 実家には帰らないのよ。
掃除にも帰ってこないから。
そういうような、ある種、故郷の廃家だから。
ぽっと来た人は、天使のようなもので。
竹松 世代がほんとに離れているので。
糸井 ものすごい、離れているね(笑)。
大瀧 三世代くらい離れているんじゃないの。
竹松 鶏郎先生にしてみたら私は孫の年代ですよね。
だから、先生の話すことが‥‥映画でも、
「大河内伝次郎って知ってる?」と聞かれて、
「誰ですか、それ?」という世代と‥‥
大瀧 アハハハハ‥‥
竹松 私が、「エリック・クラプトンっていう人、
聴いたことあります?」と言うと、
「聴いてみる、聴いてみる」と。
ほんとに、聴くものも見るものも
格差がすごくあって、お互いに情報交換が
できる年代がよかったのかな、と。
喧嘩にならないというか。
大瀧 そうでしょうね。近いと、
「そんなことも知らないのか」で
喧嘩になっちゃうのよ。
糸井 そうか、そうか。
「知らないに決まってる」から始まるから、
一つ知っているだけで、大喜びだよね。

(つづきます!)

2005-12-21-WED
デザイン協力:下山ワタル
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