大瀧 |
それで鶏郎さんとは知り合ったんですか。
まずは卒論を書いたの? |
竹松 |
別の授業でたまたま三木鶏郎の名前が
出てきたとき、その先生に
「じつは、卒論で三木鶏郎を
取り上げようと思うんだけども」
という話をしたら、その先生が
「三木鶏郎さんはご存命で、
お元気でここにいるよ」
ということを教えてくださったんです。
私は、「エーッ! 生きてたんですか!」と。
まったくこの世の人ではないと
思い込んでいたんです! |
一同 |
おぉー‥‥!(笑) |
大瀧 |
『冗談十年』の本は古いからね。
だから、前の人のような感じはするよね。 |
糸井 |
それと、あまりにも活躍の期間が長いから。 第何期みたいに言えちゃうわけだから。 |
大瀧 |
そう。どこのポイントを取るかで
大きく変わっちゃうからね。 |
竹松 |
ええ。でも、まずは、資料が
昭和29年で切れちゃうわけなんです。
『冗談十年』の3冊しかなかったので。 |
糸井 |
あ、そうか!(笑)
それは亡くなっていると思うよね。 |
竹松 |
ええ、きっと、だから私は、
鶏郎先生は亡くなったから、もう、
名前が私たちにも伝わらないんだろうと。 弟さんの鮎郎さんは、小さいときに、
ダンディズムの象徴みたいなかたとして
覚えていたんですけれど。 |
糸井 |
11PM? |
竹松 |
そうですね。スター千一夜とか。
両親に聞いても、「あー、三木鶏郎さんは、
私たち、ラジオで聴いたものよ。
でも今は、お名前、聞かないわね」と。 |
糸井 |
うん、うん。 |
竹松 |
そんな時「ご存命で、ここにいらっしゃる」
ということを知ったわけです。
それで鶏郎先生に手紙を書きました。
「じつは卒論で取り上げようと
思うんですけど、
お目にかかりたいのですが」
ということを書いたら、
「ちょうど空いているから」
と手紙をいただいて‥‥
学生が卒論とか論文で
取り上げるということが
初めてだということだったんですね。 |
糸井 |
そうだろうね! |
竹松 |
後で聞いた話だと、
すごく喜んでくれていたと‥‥ |
大瀧 |
それは喜びますよ。 |
竹松 |
自分が卒論になるなんだ、って。
それで、ここに呼んでくださったときに、
初めて私、『三木鶏郎集大成』という
LPが出ているということを聞いて。
で、鶏郎先生が、
「これも持って行きな。
これも資料になるから」と、
そのまま卒論が書けてしまうような資料を
ドーンとくださったんです。 |
大瀧 |
へぇー! |
竹松 |
最初に会ったときに、
「ああ、よく来たねぇー」と言って、
ほんとにすごく魅力的な先生だったので、
「ああ、こういう音楽を書く先生って、
こういう先生なんだ!」と、ますます
「卒論、書こう!」という気になりました。 |
糸井 |
20歳くらいの女の子が三木鶏郎という人と
バーンとぶつかったら、
そこに、ものすごい宝の山というか、
情報量があるわけじゃないですか。
押し潰されなかったのも、
すごいなと思うんですよ。 |
竹松 |
それって、知らなかったからですよ(笑)。 |
大瀧 |
まだ到達地点が見えない
奥山に入り込んだみたいなものだから。 |
糸井 |
歩いていくしかないな、ということなのか。 |
大瀧 |
うん。一歩一歩、行くしかない。 |
竹松 |
そんなに“巨人”なんだけど、
「カリスマ的存在で、雲の上の人」
というほどの大事と思っていなくて。 |
大瀧 |
でも、大抵、人間ていうのは
そういうものでしょ。
やったことは大きいことだろうけど、
人間そのものは、ね。 |
竹松 |
多分、そのときに私が、
今くらいの情報量を持っていて、
すごい人だったとわかっていたら、
会いに行くのを
ためらったかもしれないですね。
物怖じしなかったのは、
「とにかく、会ってみなきゃ」
という思いがバーッと先頭に
立てしまったので。 |
大瀧 |
鈴木大拙の最後の秘書と同じだね。 |
糸井 |
すごいなー! そういう人が他にいなかった、
ということでもあるわけですよね。 |
大瀧 |
うん。だから、運命なんだよね。
その人しかいなかった、というのは‥‥。
「はっぴいえんど」の4人も、
いっぱいいたような気がするんだけど、
あの4人しかいなかったような
気もするんだよね。 |
糸井 |
ああ、そうか。そういうことなんでしょうね。 |
大瀧 |
そういうようなもので、
運命的な出会いというような
感じなんじゃないですか。 |
竹松 |
ええ。それで、ここまで続くとは
思わなかったですけど。 |
糸井 |
そうですよね!(笑) |
竹松 |
鶏郎先生もその頃から、自分の仕事をきちんと
データベース化しておこうと言って、
自分で作っていましたから、
ちょうどそのときに手伝ってくれる人が
欲しかった。そこで、タイミングが
合ったということだったと思うんですね。 |
大瀧 |
年齢が離れているといいんですよね。 |
糸井 |
ああ、なるほどね。‥‥そうか、そうか、
一緒に滅びちゃうもんね‥‥ |
大瀧 |
不肖の弟子は、ほら‥‥みんな、
一人ずつ去って行くからね。 |
糸井 |
そうか(笑)。 |
大瀧 |
実家には帰らないのよ。
掃除にも帰ってこないから。
そういうような、ある種、故郷の廃家だから。
ぽっと来た人は、天使のようなもので。 |
竹松 |
世代がほんとに離れているので。 |
糸井 |
ものすごい、離れているね(笑)。 |
大瀧 |
三世代くらい離れているんじゃないの。 |
竹松 |
鶏郎先生にしてみたら私は孫の年代ですよね。
だから、先生の話すことが‥‥映画でも、
「大河内伝次郎って知ってる?」と聞かれて、
「誰ですか、それ?」という世代と‥‥ |
大瀧 |
アハハハハ‥‥ |
竹松 |
私が、「エリック・クラプトンっていう人、
聴いたことあります?」と言うと、
「聴いてみる、聴いてみる」と。
ほんとに、聴くものも見るものも
格差がすごくあって、お互いに情報交換が
できる年代がよかったのかな、と。
喧嘩にならないというか。 |
大瀧 |
そうでしょうね。近いと、
「そんなことも知らないのか」で
喧嘩になっちゃうのよ。 |
糸井 |
そうか、そうか。
「知らないに決まってる」から始まるから、
一つ知っているだけで、大喜びだよね。 |