大瀧詠一さんとトリロー先生の話を。
1955年 わんわん物語(LADY & TRAMP)制作時。
ディズニーから送られて来た原譜を手に。
タイトル

糸井 鶏郎さんと、落語との関係も、
すごく感じるよね。
大瀧 それはありますよ。それは基本素養として。
夫人 ええ。落語は小さいときから
聴いていましたから。
大瀧 そうですよね。どなたが一番でしたか。
竹松 いろいろ聴いていましたが、
やっぱり志ん生が。
大瀧 志ん生さんが一番ですか。
竹松 昔、リアルタイムで聴いたものが
ソフトになったりして、
晩年はCDを買ったり。
でも、「自分が聴いたのは、
もっと違うものだった」と。
「もっとすごいのがあった」というのは
聞いたことがありますね。
糸井 そうか。ライブで聴いているわけだ。
大瀧 そうなんだよね。寄席で聴いているんだよね。
竹松 実際に見に行っていましたからね。
のちにこうしてソフトで出ているものよりも、
素晴らしい名演があった、
ということなんですね。
糸井 ということは、寄席だけじゃなくて、
放送でも素晴らしいのがあった、
というのを言っているんですね。
大瀧 ニッポン放送によく出ていたからね。
志ん生さんは、あの頃は。
竹松 志ん生が一番いい、
ということは言ってましたね。
糸井 おっしゃっていたんですか。
あぁ‥‥やっぱり、好きなんですね。
竹松 フフフ。
大瀧 ‥‥鶏郎さんは「落語長屋」とかで
音楽もやってるし。
竹松 ええ、そうですね。
糸井 鶏郎さんといえば、アメリカものの
テレビの主題歌って‥‥それこそ
「トムとジェリー」
作詞作曲がそうなんですね。
‥‥それは僕、初めて知って、びっくりした。
竹松 私も最初、びっくりしたんですよ。
「これって、アメリカの曲じゃなかったんだ」
と。
糸井 僕は、昨日、びっくりしたんですよ(笑)。
大瀧 あれ、オリジナルを使うと
版権が高かったからじゃないの。
竹松 「トムとジェリー」は、
アメリカでは主題歌は付いていないんですよ。
大瀧 あっ、ないのかぁ!
竹松 ないんですよ。DVDとかビデオは、
主題歌がなくて番組が始まるんです。
大瀧 「太陽はひとりぼっち」と一緒か‥‥。
竹松 だから「トムとジェリー」もずーっと
ビデオでは主題歌が出ていなくて。
日本版には付けるといって、
最近、主題歌入りDVDが出ましたね。
大瀧 そうだろうね。あれ、入らないとね、
見た気がしないよね。
糸井 そうですよね。
あれがコンセプトだと思ってますからね。
ちなみに、
「♪トムとジェリー、仲良く喧嘩しな」って、
僕はもう、刷り込まれていて。
任天堂に「スマッシュブラザーズ」という
何百万本も売れたソフトがあるんですけど、
それが出来かけのときに、
このまま行ったら単なる喧嘩ゲームに
なっちゃう、というときに、
僕は「トムとジェリー」を思い出して、
「仲良く喧嘩しな」をコンセプトにして、
「これは、おもちゃが喧嘩遊びを
 しているんだというコンセプトで
 やればいい」と言って作り直して、
「大乱闘スマッシュブラザーズ」という
ソフトになっているんです。
それは、「トムとジェリー」がなければ、
鶏郎さんの主題歌がなければ、
その説明は出来ないんです。
大瀧 「仲良く喧嘩しな」というのは、
戦後民主主義だからね。
戦後の日本人のほうが、アメリカ人よりも
民主主義的だったんじゃないですかね。
糸井 アメリカから来たのじゃなくて、
三木鶏郎から来た‥‥というのを
昨日、知って、ほんとうにびっくりした。
「仲良く喧嘩しな」って、
もう一つの解釈としては、
落語の夫婦喧嘩とも言えるんじゃないですか。
大瀧 あぁ、なるほどね。
糸井 「だって、寒いんだもん」に到る(笑)。
だから、日本人が作ったんだと思ったら、
急に、「あー、だから、あんなに
みんな腑に落ちたんだ」と。
大瀧 ああ、なるほど。腑に落ちる、ね。
竹松 私も、それはすごく思いました。
「あ‥‥、日本人が作っていたんだ」と。
大瀧 たしかに、アメリカ人は
「仲良く喧嘩しな」は、言わないよね。
糸井 どっちが勝ちか、ですよね。
「暫定的にでもいいけど、どっちがボスだ?」
みたいな。
大瀧 まぁ、「勝っても負けても、最後は握手しな」
ぐらいなもんかな。せいぜい。
糸井 そうですよね。
糸井 「うちのママは世界一」も、
鶏郎さんだったんですよねぇー!
大瀧 そうですね。
いつでも聴けるトリローラジオ
音が聞こえないときはこちらへ!
『うちのママは世界一』
作詞・作曲:三木鶏郎
歌:楠トシエ
『パパはなんでも知っている』
作曲:三木鶏郎
再生して音が出るまでにしばらく時間がかかります。
糸井 で、それは、僕はもっと真似をしてますよ。
「僕の君は世界一」というのを
やってますから。‥‥そもそも、
自分のことをそんなに自慢してはいけない、
と思っていたんです。自分ちのことを。
子供心に。
大瀧 中学の英語で、
「うちのママが作った味と同じだ」
と教わったときに、
違和感を覚えなかったですか?
それが最大の誉め言葉だって、
先生が教えたでしょ。
糸井 それ、教科書が違うと思うんですけど(笑)。
一同 アハハハ。
竹松 鶏郎先生の「うちのママは世界一」からは、
すごく、アメリカの香りがするんですよね。
糸井 したんです!
「うちのママは世界一」で終わる‥‥
そこのところが記憶に残っていて、
「自分ちの親のことをそんなふうに
 世界一だと言うのは、いけない」と、
マナー違反だと思っていたの。だけど、
「アメリカなら、いいんだ」と。
大瀧 アメリカだと、
「今日はおいしいご馳走だから食べなさい」
という‥‥
糸井 そう、そう。
「こんなつまらない物ですが」の逆。
大瀧 その後、「つまらない物ですが」というのを、
「なんで、つまらない物を出すんだ」
というのが流行って‥‥。
それをもう一回ひっくり返さないと、
日本人はプライドを取り戻せないと
俺は思っているんだけど。
糸井 そうだね。
大瀧 うん。「言い回しなんだ」ということを
教えてやらないといけない。
だって、そのまんまじゃない、これ。
「つまらない物ですが」というのは、
つまらない物、という直訳じゃない。
糸井 そこの‥‥“それ運動”を
俺はしているような気がするね。
取り戻そうとしていますよね。
大瀧 取り戻さないと、やっぱり駄目だと思うよ。
糸井 わかりにくくすることでしか、
本当の気持ちはわからない、と‥‥。
だから「うちのママは世界一」というのを、
とにかく「すげぇ!」と思っていたんです。
ずーっと経ってから、川崎徹と初めてする
仕事がパルコで、恋人同士が名前を呼び合う
シーンがあったんですよ。
それで、「コピーをお願いします」と
初めて川崎徹に言われて、
「なめられちゃいけないな」と思って‥‥
大瀧 アハハハハ。もう、ね、同い年は
すぐにライバル心を‥‥(笑)
糸井 ライバル心というか、
好きだと、そうなんです。
大瀧 これは世代の特徴なの。
糸井 で、「僕の君は世界一。」というので
何が言いたかったかというと、
それぞれがみんな、そう思っているんだよ、
という話ですよね。
みんなが「僕の君は世界一」って
思っているから、
世の中は成り立っているじゃないですか。
大瀧 ああ、その前提でね。
糸井 それは、僕、
「うちのママは世界一」というのが
ヒントなんだけど、
「おー!出来た!!」と思って。
だから、「‥‥は世界一」というところは、
そっくり借り物ですよ。
三木鶏郎さんの泥棒をしたんですよ。
竹松 フフフ‥‥
大瀧 「僕の君」は新しいじゃない。
‥‥それで、川崎徹はなんて言ったの?
糸井 川崎さんは、ものすごく気難しいことで
評判で、とにかく出してみたら、
「あ、わかりました」と言って、
そのまま行ったんです。
だから、OKだったんだな、って‥‥
大瀧 まぁ、わかっていたんだね。
「パパはなんでも知っている」だからね。
とにかくアメリカはそういう国だよ。
糸井 すごいよね。自分自慢がね。
大瀧 うん。こっちは、愚妻、とか
言っちゃってるんだから。
糸井 愚妻、だからね‥‥豚児に愚妻、
だからね(笑)。
夫人 そういう意味で‥‥鶏郎は言わないですね。
私は自分では愚妻だと思っているんですけど、
鶏郎は人の前で、絶対、愚妻とかは‥‥
大瀧 根っからの民主主義者なんですね。
(つづきます!)

2006-01-06-FRI
デザイン協力:下山ワタル
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