糸井とみうらの長い年月。

あそこで思いを遂げてたら、ちがってたと思います。
みうら 『色即ぜねれいしょん』を監督した
田口トモロヲさんも、そういう意味では
大人っぽいところがあるなぁ。
だけど、トモロヲさんは疑い深い人なんです。
前回の『アイデン&ティティ』のときも、
「ほんとによかったか?」って、
何回も聞くんですよ。
いくら「よかったって言ってるだろ!」と言っても
「わからないね」と言うから、
もう大喧嘩になって、
「キャバクラ行ってみたらどうだろう」
「ボーリングしてみたらどうだろう」
とか、いろいろふたりで行ってみたりしました。
「ぼくは、みうらさんが
 おもしろくないと言ったら、
 一生会えないから、必死なんだよ」
って言うんですよ。

糸井 世の中に、なかなか
そんなこと思ってる人はいないよ。
みうら だからそのとき、ピンと来なかったです。
糸井 きっと、構造的には
トモロヲさんがこの子だね。


©2009「色即ぜねれいしょんズ」
島で会った、やさしい女の子。
みうら あ‥‥そうかもしれない。
最後までトモロヲさんは
この子の役についてすっごい気にしてた。
美人すぎるって、ずっと言ってた。
糸井 この子の役割をどう観るかで
客は二分されます。
だから、オレが思うには、この子の中に、
田口トモロヲという監督がいたんだ。
みうら 前の『アイデン』では、それが
麻生久美子さんの役の子でした。
「この人をみんながどう思うだろう」
ということを、
最後まで言いつづけてたのは、
トモロヲさんだった。
糸井 「ほんとうの主役はこの子かもなぁ」と言えるし、
きっと、人生の真実は、こっちなんですよ。
でも、みうらの人生は
こっちじゃないほうに行ったから
複雑化したし商売になった。
こっちに行ってたら、
みうらは、表現とかは、しなかったかもしれない。
みうら あそこで思いを遂げてたら、
ちがってたと思います。
気づかなかったから。
糸井 よかったね。
みうら ‥‥よかったのかは、わからないですけどね。
糸井 苦労は絶えなくなった。
でも、ひらがなの
「みうらじゅん」が生まれたのは、
この子のおかげだよね。
この子を捨てたからだよね。
みうら ‥‥‥‥。

糸井 捨てたんだからね!
みうら 捨てた意識はぜんぜんないですけど。
糸井 ないんだけど、捨てたんだよ!
みうら そう言われたらそうですよ。
糸井 だって、スウェーデン食わなかったんだから。
みうら 男の恥って言われてましたからね、昔は。
糸井 この子は、別に
泣いたり、叫んだり、
喚いたり、怒ったり、
ひとつもしてない。
これが観音様なんですよ。
ああ、泣けてくるね。
監督にそんなに好かれる原作ってないよ。
監督って、ふつうは利用するんだからね、原作を。
みうら そうですよね。
すごく大切にしてくれたと思う。

糸井 大切にしてるよね。
みうら これまで何百本もの映画に出た人だから、
現場も見てるし、
ダメになっていく現場もわかってる。
トモロヲさんは、ほんとうにいい映画を
撮りたいと思ってた人だから。
糸井 現場をダメにしないように、
ものすごくちゃんと仕事をしてますよ。
みうら 『アイデン』でも『色即』でも
ぼくの小説やマンガは、
主人公の男の子を書いてるんですよ。
糸井 そうです、そうです。
だけど、田口さんは、女を描いてるところがある。
恐ろしさは映画のほうにあるかもしれない。
主人公が好きだった女の子も、
「本命はわたしよね」って、
別に悪い気はしてないわけです。
あの子は「社会」そのものだからね。

みうら そうですね。
糸井 だけど、あの島の子は「社会」じゃなくて、
「女」なんだよ。
その描き分けは、しびれたねぇ。
みうら きっとそう思ってつくってるんだと思う。
ぼくはいま、はじめて知ったけど(笑)。
糸井 お母さんはお母さんで、堀ちえみさんのままだし、
リリーさんも主役の子も二枚目の不良も
みんなすばらしかった。
キャスティングがものすごく上手だったね。
この映画はいい映画だね、ということに
なっちゃうかもしれないんだけど、
「そういう映画にしては、野心がないんだよ」
ということをもっと言いたい。
こんなさわやかな小さい映画、ないよ。


©2009「色即ぜねれいしょんズ」
お父さんがリリーさん、お母さんが堀さん。
みうら そう思います。
トモロヲさんって、そのさわやかさが
好きなんですよ。
糸井 笑わせ方も品悪くなく、ね。
みうら うんうん、そうですね。
‥‥今日、ぼくじゃなくて、
トモロヲさんを呼べばよかったですね。
糸井 はははは。
みうら 今日、トモロヲさんは褒められて、
オレはライブで
怒られてるだけじゃないですか。
糸井 「みうらのいいところ、悪いところ」
というテーマなんです、今日は。
みうら はははは。そうですよね、
そういうテーマですよね。
糸井 みうらのあのライブを見たら、
田口トモロヲはもしかしたら、
この映画を作んなかったかもしれないよ?
みうら はははは、もういいです、
ぶり返さなくても。
糸井 俳優のトモロヲさんは、
芝居やってる立場でありながら
違和感のない監督をするというのがいいなぁ。
すごいねぇ。
トモロヲさんをバンドに呼んじゃダメだよ、
二枚目ぶっちゃったりするから。
みうら もうしないです。
全然しないです。
糸井 いいよね、もう、
トモロヲさんは
完成型だよね、人間の。
みうら 呼べばよかったよなぁ。
  (つづきます)


2009-08-12-WED