笑福亭鶴瓶の落語魂。
その世界のすべてを愛するということ。

第26回 いろんな人がいるから、おもしろい。

鶴瓶 落語って不思議よ。
よく考えると「らくだ」も不思議な話で。
登場人物で、主役が、死んでるんですよ?
糸井 いないやつ、なんだよね。
鶴瓶 もともとの「らくだ」の話って、
死んだ「らくだ」の葬礼をするふたりも、
焼く人に預けるとき、
中の「らくだ」は
どっかに落としてきてるから、
棺桶の中に入れて
そこに預けて帰ってくるんですよね。

最後は主役もぜんぜん、誰もいないねん。
最初にいてた人もいない
オチに進んでいくというのはね。
糸井 落語って、たぶん、
道を行くみたいに作ってるんだと思うんです。

歩いていたら、毎回、迷っちゃった。
あの宿に行くような気がしていたけど、
ほんとは別の宿でもよかったから、
こっちにしちゃえ、みたいな……
そういう作り方ですよね。
鶴瓶 そうでしょうね。

それでいろんな人の手に渡って、
みんな、それぞれ「らくだ」をやるとき、
落語家は変えてはりますよね。
談志師匠も変えてはります。

ぼくなんかも、
違うかたちにしようと思って
変えるわけだけど、それは変えてもいいと。
もちろん、古典にのっとった変え方ですけども。

粗忽長屋なんていうのは、
もうはなからおかしいのは、
いきだおれがおるらしい、と……。

で、いきだおれということを
知らないおっさんが、
野次馬が集まっとんのを見て、
何かをやってると思うんですよね。

それで
「いきだおれ、はじまるんですか?」
とかいう言い方になるわけですよ。
倒れてるやつが自分の知りあいにいるから、
その倒れてる人を呼んできたら、
あなたも安心するでしょう?
そういう、不思議な話で……。
糸井 あんたが死んでるんだから、
そんなウカウカしてる場合じゃないんだから、と。
鶴瓶 それで、連れていくという話。
これも、やりかたによっては、
もうめちゃめちゃおもしろいんです。
むずかしい話、ですけどね。
糸井 あれを、ちゃんと
イメージさせられない落語家もいるでしょうね。
鶴瓶 なんか、そこがまた、おもしろいんですよ。
伝わっている人がいるけど、笑ろてない人もおる。

笑ろてない人は悪いわけじゃないのよ。
でも、ほんとに転げて笑ってはる人もいれば、
人間ってさまざまで……。
だから、おもしろいんです。
冗談いうて怒る人もいますし。

こないだ、タクシーに乗ってて、
マネージャーが前にいて、
制作会社の人とぼくがうしろに乗っていて。
タクシー台が八四〇〇円やった。
で、制作会社の人とマネージャーが、
どっちが払うか、おばちゃんみたいに
やりとりしているから、
「ま、四人やから、
 二一〇〇円ずつにしようや」と……。
糸井 (笑)いいなぁ。
鶴瓶 これはもう、
誰でも冗談やとわかるでしょう?
タクシーの運転手さんがえっらい怒って……。
「なんでわたしが払わないかんの!」
冗談や、そんなの。ものすごい怒ってはる。

「なんでわたしが払わなあかんの!」
ものすごい払いたくなかったんでしょうね。
糸井 そういう人がいるから、
またおもしろいんですよね。
鶴瓶 おもしろいんです。
  (つづきます)


←前回へ


次回へ→

2005-01-05-WED

感想メールはこちらへ! 件名を「鶴瓶さん」にして、
postman@1101.comまで、
ぜひ感想をくださいね!
ディア・フレンド このページを
友だちに知らせる。


戻る