35、「違うんだ!」
マンションから一軒家に越してきたとき、
いちばん問題になったのはこれまでなかった
階段の存在でした。
チビはまだ二歳前・・・
いちばんあぶない時期なので、
やむなく階段にがっちりとベビーゲートをつけました。
大人は二階に行くたびにかなり高いその柵を
「よいしょ」とまたぎこえるか、
あるいはいちいちロックをはずして扉をあけるのだ。
面倒くさくてしかたがなかったけれど、
今ではお手伝いさんまでよいしょとまたぐくらいに
慣れてきました。
そして、扉を開けたらチビがついてこないように、
必ずそこをしっかりと閉めなおさなくてはならない。
しかし!半年もたった頃、チビは勝手にその扉を開けて、
勝手に二階に上がるようになってきました。
まあ、そういうものかな・・・
と思ってじっと見ていると、
これまで禁止されていたことを
やっているという後ろめたさで、
なんだかにやにやしながら、
こちらをちらちらと見ながら扉を開けている。
そして、階段を上がりながら
いったんちゃんと振り返って、
私たちが必ずそうしていたようにきっちりと、
ゲートを閉めて昇っていくのです。
違うんだ!そこを閉めなおしたのは
他ならぬ君が通れないようにであって、
君が閉めてくれても意味はないんだ!
・・・ということを本人に説明するほど
むつかしいことはないので、
閉められた扉を階段の下から
しんみりと見つめるほかないのでした。
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